新時代の教師の立ち居振る舞い ~七変化を楽しむMulti Hutに~
新時代の授業では、教師の役割が多様化。
従来の教師だけでなく、コーチ、支援者、調整者など状況に応じて使い分けることが求められる。
教師は一つの役割に固執せず、状況や生徒に合わせて柔軟に立ち居振る舞う「マルチな存在」となる必要がある。
目黒区立不動小学校 主幹教諭 小清水 孝
新時代の幕開け
昨年末,衝撃のニュースが走りました。
渋谷区(東京都)が令和6年4月から区立の全小中学校で毎日午後の授業時間を,探究「シブヤ未来科」にあてることにしました。
お隣の目黒区(東京都)は1単位時間を40分とし,生み出した時間の一部を「自己選択学習の時間」としました。
これまでの教育課程に新たな変化が起きています。この流れは,さらに各地へと波及しそうです。新時代の幕開けです。これらの授業では,個人の課題,内容,調査方法,表現方法が異なります。
このような時代に,教員はTeacherとしての立ち位置だけでは行き詰まることが予測されます。教える対象が多過ぎて,Teacherはパンクするでしょう。では,教員にはどのような立ち居振る舞いが求められるのでしょうか?
教員の立ち居振る舞いの種類
Google Scholar,J-STAGE,CiNii Researchなどの論文検索サイトで,「教師 役割」「教師 コーチング」等とキーワード検索すると,教員の立ち位置についての論文が山ほどヒットします。
私は,教員の立ち位置を以下のように整理しました(もっと細かい分類の仕方もあると思います)。
① Teacher(先生,教師)
② Coach(指導員)
③ Supporter(支援者,援助者,応援者)
④ Mentor(良き指導者,良き助言者)
⑤ Facilitator(容易にする人,円滑に進める人)
⑥ Coordinator(調整者,まとめ役,進行係)
⑦ Generator(発生させる人)
*翻訳はWeblio英和和英辞典を参考
①~⑦について,何となくお分かりいただけたでしょうか。もちろん,細やかな役割や振る舞い方については,学術論文を一つ一つ丁寧に読む必要があります。ここでは,「①と⑤は違うなあ」と,何となくイメージできればよいでしょう。
Generatorは楽しい!
5年理科「流れる水の働き」の学習後に,補習したり発展したりする時間を2時間とりました。子どもたちの「やってみたい、作ってみたい、調べてみたい」を保証する時間です。
私は「⑦ Generator」として立ち居振る舞おうと心に決めました。子どもたちの学習カードを読むと、次のようなものが書かれていました。
・砂防ダムを作ってみたい
・三日月湖を作ってみたい
・堤防を作ってみたい
・水の量を増やしてやってみたい
・流水で石が削られるのか調べてみたい
1時間目は,「三日月湖を作ってみたいグループ」をみました。何度も失敗している様子でした。これまでの自分なら,「① Teacher」や「② Coach」「⑤ Facilitator」として,発問をしたり,場の支援をしたり,グループのメンバーの考えを交流させたりしていたことでしょう。
「⑦ Generator」としての私は全く異なりました。2時間目,「三日月湖作りに再トライするグループ」に張り付きました。「自分も一人の学習者として楽しんじゃえ」というマインドで,子どもたちと関わりました。私も泥だらけになりながら,自分の意見をガンガン伝えました。「それ,違くない?」とメンバーの一員として言いました。傍から見ると歳の離れた学習者が混じっていたように見えたことでしょう。
結局,三日月湖作りは失敗に終わりましたが,子どもたちは「自然が長い年月掛けてつくったものは,先生がいても実験では簡単に作れないんだな~」と妙に納得して,笑顔で終えました。Generatorは楽しい!
七変化を楽しむ
では、「① Teacher」はもう古いのでしょうか。「⑦ Generator」が正しいのでしょうか?
私が主催する教育サークルの仲間に聞いてみると,こんな答えが返ってきました。
О先生(教職10年以上)は,「教師の立ち位置、つまりその立ち位置から何を見ようとしているかで、役割が変わると思っています。例えば、避難訓練や生活指導上の話をする場合は、①の立ち位置で話すことが多いはずです。寄り添う心情もあるかもしれませんが、毅然とした態度で示すことも考えれば、従来型のタイプが多いイメージです」とおっしゃいました。
K先生(教職3年目)は,「私はどの立ち振る舞いも大切だし、場面に応じて意識して使い分けていくことができる教員でありたいなと思います。今の通級という立場の私は②と③のコーチやメンターの立場として、担当児童にアプローチすることが多いです。学級担任の先生は30数人を見ないといけないため、個への関わりがどうしても浅くなってしまう分、子どもの心に寄り添って丁寧に適切な方向づけをすることを心がけています」とおっしゃいました。
J先生(教職4年目)は,「自分の指導を振り返ってそれぞれの役割について考えてみました。まだGeneratorでいる場面は少ないですが、①〜④の役割がしっかりできているときに、⑤〜⑦のような指導ができているように感じます。基本的な規律や児童の見取りが土台となって、個別最適な学びや自由進度学習は実現できると思います」とおっしゃいました。
う~ん。どれもうなづける内容です。結論は,「すべて必要」と言えるでしょう。トレンドに飛びつき,すべての授業をGeneratorとして立ち居振舞うのは,何か違う気がします。学校現場は,中教審や教育書にトレンドとなるキーワードが出ると,すぐに飛びつくことがあります(私もその一人です)。
大切なことは,①~⑦の選択肢を持つことであり,学習内容や学習者の状況によって①~⑦を使い分けようとするマインドを持つことであり,①~⑦を使い分けられる技能を身に付けることではないでしょうか。
七変化を楽しもうではありませんか。
Multi Hutに振る舞うことを楽しもうではありませんか。
小清水 孝(こしみず たかし)
目黒区立不動小学校 主幹教諭
フープ1本でできる運動を3つ以上言えますか?
現場で使える技術、できる実践、リアルな指導法を日々追究しています。
現場の先生方、共に考え、指導法の選択肢を増やしていきましょう!
NPO教育サークル「GROW5th」代表。
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