2024.09.06
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「個別?協働的?何をさせたらいいの?」これらの謎を解明する「ベストセレクション」〜実践編〜(3)

今回は「個別最適な学び」を取り入れた授業実践を紹介します。
また、恥ずかしながら私なりの授業の仕方もちょこっと紹介します。

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介

まず、授業内全てを「個別最適な学び」で実施するのではなく、最適なタイミングで導入しています。ある程度は個別で学ばせ、ある程度は全体で学ばせるなど、バランスを持った授業展開を目指しています。そこに「協働的な学び」もスパイスとしてひっそりと忍ばせています。
「協働的な学び」とは、周りと共に問題に対して探求していく学び、または、周りの考えを共有し自らの考えを深化させていく学びのことだと私は捉えています。大々的に「ペア学習、グループ学習をしましょう」と言わずに、自分たちで選択した学びの中でいつの間にか「協働的な学び」が生まれるようにしています(あら、いつの間に?って感じです)。

算数科での学習の様子です。
最初に問題提示をした時、私は何も言葉を添えないし、何も説明しません。まずは子どもたち自身に問題と対話させます。ここで私は、問題を「解く」と言わずに、「対話」と言っています。子どもたちには「この問題が何を言いたいのか、何を見つけてほしいのか会話をして聞いてみて」と呼びかけています。つまり、問題の意味をしっかりと読み込み、何を問われているのか把握させるという意図があります。まずは相手(問題)の言いたいことや性格を知ることから始めるべきです。
この「問題と対話」する場面では、私に何も言われていなくても、問題文に線を引いたり、色分けしたり、線で結んだり、キーワードを囲ったりなど、子どもたち自身が好きに問題文に手を加えています。これも自分が好きなように問題文にマークをつける「小さな個別最適な学び」だと思います(本シリーズ1で紹介したように、マークをつける手段を紹介し、経験させる必要があります)。
また、子どもたちに「この問題は昨日と何がレベルアップしているのか対話してみて」と呼びかけると、子どもたち自身で前時との違いを見つけ、本時の問いに迫ることができ、めあてを主体的に作成することができます。例えば、「今日の割り算の筆算の問題は、昨日と違って商に0を立そうなので、今日のめあては0が関係しそう」と子どもが考えてめあてを作成し始めます。この時、前時のページを開いて一生懸命探す子どもの姿は素敵ですよ。誰かがページをめくった音に反応して、周りもノートをめくり始めるあのめくり音の合奏はたまりません(じゅるり)。

めあてを作成した後は、実際に自分で解かせます。ここでベストセレクションの登場です。子どもたちは自分が最適だと思う学習方法を選択して学び始めます。私の学級では過半数が「一人で解く」を選択します。一人で解くけれど「教科書を見る」選択をしたり、「先生からヒント」をもらう選択をしたりなど様々です。一見バラバラに学習しているようにも見えますが、全員の学習方法は違えど、同じゴール(答え)に向かって走り、そこでまた出会う様子も気持ちの良いものです。この時の授業者の立ち位置は、黒板前から子どもの学習の様子を観察することです。子どもの表情や鉛筆の動く早さ、ノートの文字数などから学びの状況を把握します。誰がどのような選択をしているのか、戸惑っていないか、一つの選択肢に固執しすぎていないかなどを把握し、必要に応じた対応をします。

転、転、転…

Padletの画面

解き終えた子たちは、隣や周りと答えの確認をし合い、「Padlet」に自分のノートを撮った写真を投稿し始めました。投稿への参加不参加に関係なく全員がPadletを介して、離れた人の考えを拝見することができます。すると、学習に苦手な子たちがPadletを見始め、投稿された考えをヒントに自分の考えを作り上げていく姿もありました。時には投稿された考えをそのままそっくり写す子もいます。しかし、それは「真似る」からの学びに繋がるので良いと捉えています。
このPadletを活用した学習方法は「協働的な学び」に繋がっていると思います。まず、自分の考えを周りのために投稿する。自分以外の誰かも投稿する。そして互いの考えを見合い、そこから多様な考えに触れ、学び、自分の考えを深化させていく。残念ながらここに声を出した会話は存在しませんが、ICTを通した無言の会話となっているのではないでしょうか。
Padletを投稿した後に、「黒板に自分の考えを書く」ことを選択する子もいました。黒板にはスペースが限られているため、多くの人数が参加できないところが難点でした。しかし、友達と共同して一つの答えを書いたり、話し合って分割しながら板書したりなど、楽しく取り組む姿も見られました。それ以外に「MQ(自作の問題)」を選択する子も多くいました。作った問題を友達と持ち寄り、問題文に間違いがないか確認し、解き合う姿も見られました。この活動も「協働的な学び」が生まれた場面でした。それぞれが問題を探求し、互いの作り出したものを持ち寄る姿は本当に楽しそうでした。
さらに、黒板の前に立って「教えてほしい人ー」と声をかける子どもの姿も。リトルティーチャーの登場です。これは教える人教わる人という立場ができるので、協働的な学びではないのかもしれませんが、協働的に働こうとする子どもの姿を見ることはできます。
そして気付くと、何名かがノートを持って教室の後ろで交流を始めていました。
さらに、Padletから得た友達の考えをノートに写してまとめている子も。説明文を作成して投稿する子も。etc…

このように子どもの数だけ選択肢が生まれ、自分の最善で楽しく学び合う姿が見られました。私が「何をしなさい」という指示は出さずとも、これだけの学びが進んでいきました。最初の感動と驚きは今でも覚えています(ちなみに練習問題では「MQ」を選択した子の問題を活用しました)。

もう少し長い文章になりそうなので、続きは次回に持ち越したいと思います。
夏休みも終わり、普段通りの平日が始まり、「え?夏休みってあったっけ?」という日々を過ごしていることと思います。
「おーい、夏休み帰ってこーい」
私の心の叫び。いいえ。心だけでなく、普通に言ってます。

何卒。

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭


沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。

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