2024.08.19
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「個別?協働的?何をさせたらいいの?」 これらの謎を解明する「ベストセレクション」(2)

「個別最適な学び」を取り入れた学習をすると、子どもたちが生き生きと学び合う姿があり、楽しく学習する学級づくりができます。
今回は個別最適な学びに向かうための手立て「ベストセレクション」の続編となります。

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介

続・学びの方法・思考回路をご紹介

個別最適をつくる思考の流れ

個別最適な学びを目指す手立てとして、私は「ベストセレクション」という思考の流れを作成しました。実際に私が提示している学びの方法・思考パターンを前回から紹介しています。私はこの図を場面に合わせて子どもたちに提示しています。大まかに次の4つに分けました。

 ①問題と対話
 ②わからなくて困った
 ③書き終わった
 ④さらにレベルアップ

前回、「①問題と対話」「②分からなくて困った」の2つの項目を説明しました。残りの「③書き終わった」「④さらにレベルアップ」について、引き続き少し細かく説明していきます。

③書き終わった

「③書き終わった」では、問題に対する答えを導き出した子が次に何をしたら良いのかを提示しています。自分の考えをより深めたり、周りと比較したりするための学び方を選択させます。

ペアと確認合い…ペアと答えの導き方を確認し合います。ここで気をつけることは、答えを確認するのではなく、どうやって答えを導き出したのかの過程も確認させます。答えの導き方が異なっている場合は、どちらが間違えているのか、どっちも間違えているのかなどを互いに協力して解決していきます。もしペアが解き終わっていなければ手助けが必要なのかを確認します。
パドレットに投稿…答えを書いたノートなどの写真を撮ってPadletに投稿します。写真を投稿するので、ノートなどに書いた文字だけでなく、図や表、ペンの色使いまでも載せることができます。文字入力が必要ないので、タイピングが苦手な子も簡単に投稿することができます。Padletを活用すると自分の考えをスピーディーに表すことができます。私の学級で特に選択されている学びの方法です。
他の考えを見る…Padletに投稿された他の人の写真を見ます。自分の考え方と比較し、様々な意見を取り入れます。この活動の良い点は席を立って歩き回らなくても、遠くの席の人の考えも手元で簡単に手に入れられることです。また、同じ学級だけど、日頃お喋りをしない人や一緒に遊んだりしない人など、交流の少ないクラスメイトもいるかと思います。しかし、Padletを使うと、その人に声をかけずに相手の知識を知れたり、どんなことを考えている人なのかを知れたりすることもできます。もちろん、声をかけて交流できることが一番ですが、それが極端に苦手な子もいます。まずはPadletを介して相手のことを知り、心の距離を近づけ、自然とお話できる環境を整えてあげることを優先にしています。私は子どもたちに「普段お話をしない友達こそ、あなたの知らない知識や新しい考え方を持っている可能性があるから、特に参考にした方が良いですよ」と伝えています。この学びの方法は、人と話すのに苦手意識を持っている子が選択することが多いです。
説明文にする…答えの導き方を文章化し、周りの人に伝わるように工夫します。説明文だけでなく、図や表、絵で表そうとする子もいます。主に算数科の学習で選択されます。

④さらにレベルアップ

「④さらにレベルアップ」では、自分の考えを周りと共有したり伝達したりする活動になります。さほどレベルが高い内容ではないですが、子どもたちは「レベルアップ」という言葉を聞くと、そこまで辿り着きたい気持ちが高まり、やる気を出してくれます。その心理をくすぐるためのネーミングです。

リトルティーチャー…ご存じの通り、リトルティーチャーとして活動します。リトルティーチャーは黒板の前に立って悩んでいる人を見つけたり、全体に呼びかけて教えに行ったりなど、悩んでいる人を見つけるための活動を自主的に行なっています。悩んでいる人を見つける方法として、その子の鉛筆の動くスピードを見て判断させています。
MQ(マイクエスチョン)…自作の問題をつくります。出された問題に相似した問題を作成し、自分で解きます。作成した問題は本時後半の練習問題として活用させてもらいます。主に算数科の学習で選択されます。
黒板に書く…自分の考えを黒板に書きます。授業者は子どもが板書できるスペースをあらかじめ設ける必要があります。
後ろで確認合い…教室後方に移動して互いのノートなどを活用しながら自分の考えを相手に伝え、確認し合います。

ここまで前回と合わせて①~④までの取り組みを説明してきました。ベストセレクションを提示し、これらから児童に選択させ、自分の最適な学びを見つけさせていきます。しかし、このベストセレクションには大きな欠点があります。

ベストセレクションに頼りすぎるのは危険

ベストセレクションを提示すると、ベストセレクションの中からしか選択しなくなります。つまり、自分で選択をしているようで、授業者に選択させられている状態になります。提示されている中から選択するのはとても容易であり、ある意味思考する場面を奪っていることになります。それは主体的ではないと思います。
それでもベストセレクションを提示する理由は、前回述べたように、子どもたちは学ぶための選択肢を持ち合わせていない為です。一人一人が個別最適な学びを見つけるためには、まずはどのような選択肢があるのか、自分に合った学び方を見つける楽しさについて身を持って経験させる必要があります。
そして、子どもたちがある程度ベストセレクションに慣れてきたら、提示をやめます。そこからが本当の個別最適な学びの始まりだと考えています。私は、問題に対して臨機応変に学び方を選択する子どもの姿を目指しています。様々な学び方を身につけた子どもたちがどのような学び方をするのか、あるいは新しい学び方を見つけてくれるのか、私も楽しみです。

次回は「実践編」をお伝えする中で協働的な学びについてもお伝えしたいと思います。
残り少ない夏休みが素敵な毎日となりますように。


何卒。

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭


沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。

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