2024.02.25
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ブタのPちゃんの道徳授業

もう30年も前になりますが、私が学生時代に教師になるかどうか迷っていた時期がありました。
教師になりたいと思う気持ちがある半面、教師としてやっていけるか、そして採用試験に合格できるかという不安で決心がつかない状況だったのです。
そんな時に、公立小学校教諭だった黒田恭史先生(現在は京都教育大学教授)が赴任した小学校でブタをクラスで飼育するという実践に出会いました。

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一

『ブタがいた教室』の黒田先生

黒田先生は実践の開始当初、豚を飼育して最後には食べるという提案をしました。
しかし、飼育をしていく中で子どもたちがブタに愛情をもつようになり食べるという選択肢は無くなりました。最後に、ブタを下級生に引き継ぐかそれとも食肉センターに持っていくかで大論争になりました。このエピソードは2008年に妻夫木聡さん主演の『ブタがいた教室』という映画にもなりました。教育界だけではなく、様々な方々がこの実践に関心をもっていたと記憶しています。

黒田先生は現在、京都教育大学で教員になる学生の指導をされています。また数学がご専門で、数学教育の振興にも力を入れていらっしゃいます。
今回、私が勤務校で算数の研究授業を行うため、黒田先生が作成したデジタル教材を活用しているご縁で、子どもたちにもご指導いただけることになりました。黒田先生には、ブタのPちゃんをどうして飼おうと思ったのか、そして子どもたちと飼育していく中で子どもたちがどのように成長したのかなどを話していただきたいと思いました。

黒田先生の「いのちの授業」

黒田先生の「いのちの授業」に向けて、黒田先生のクラスでブタのPちゃんを育てた取り組みを映画化した『ブタがいた教室』を子どもたちと視聴しました。

子どもたちは、
「飼育しているブタのPちゃんを最後にどうするのだろう」
「ぼくがクラスの一員だったらどうするかな」
「クラスの子どもたちはどんな答えを出すのだろう」
「星先生(黒田先生がモデルの担任の先生)はどんな気持ちで子どもたちの話し合いを聞いているのだろう」
など、感想を述べながら映画を視聴していました。
そして、黒田先生にたくさんの質問を書きました。

黒田先生の命の授業では、映画では描かれていなかった先生の思いや、その時のクラスの子どもたちの様子を語っていただきました。
「豚を飼おうと思ったのは、子どもたちが普段食べている食べ物にも命があったということを分かってほしかったから」
「最後に、ブタのPちゃんを食肉センターに送るか、それとも別のクラスに引き継ぐかを話し合った時に、同じことを学んできているので、子どもたちが反対の意見を出しているのを見て、子どもたちのすごさを感じた」
など、当時のことを教えてくださいました。

児童は、
「僕たちも豚肉から生きているブタを想像できない」
「黒田先生が子どもたちに学んでほしいことをしっかりみんな学べたんだ。でも、最後の答えは違っていたんだね」
と感想をもちながら話を聞いていました。

黒田先生の「命の授業」の後に、現在取り上げている食育で今回の学習を生かしていこうと考えました。様々な教科で食を通した学習を行うことで、円環的に児童の中で命の大切さを感じられればと願いました。

この経験を授業に生かす

黒田先生の命の授業をきっかけとして、現在他教科にわたって取り組んでいる食育にもさらに力を入れていきました。毎日、給食の出されるメニューの中から食材の自給率を調べたり、農業に関する新聞記事があると児童と読んだりしてきました。その中で子どもたちは食に関する関心を高めてきました。

特に算数では、グラフの学習を行う際に、大きなテーマとして「日本の食料自給率を高めるためには?」というものを掲げ、児童と調べ学習を行いました。家ではどのくらいの外国産の食材が使われているのか、給食ではどのくらいの外国産の食材が使われているのかなど、アンケートやインタビューをしながら調べていきました。

「この結果は〇〇グラフに表すと分かりやすいんじゃないかな」
「このグラフから〇〇なことが読み取れるよね。でも別の考え方もできないかな」
「このグラフに表すと自分たちが言いたいことが相手に伝わりやすいよね」
など、熱心に活動に取り組んでいました。

発表当日は、ほかのグループの友達や参観に来られた先生たちに自分たちが調べたことをグラフを使って発表できました。今回の学習を通して、子どもたちは算数でデータを扱う力もついたことはさることながら、大きなテーマとして取り組んだ食に関する内容もしっかりと身につけることができたと思っています。
子どもたちには、算数で身に着けた力も、そして食について考えてきたことも両方、これからの生活に生かしていってほしいと願っています。今後も、子どもたちと食の問題について、そして命の問題について、様々な視点で考えていきたいです。

菊池 健一(きくち けんいち)

さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。

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