2024.05.29
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教室環境〜「綺麗に片付けましょう部門からの卒業」〜(3)

教室環境を整えると、どんな良いことが起こるのでしょう。これまで、「気持ちの良い教室は心も落ち着き、良い教育が生まれる」「良い環境は良い教室環境から」などを述べてきました。今回は物の置き場所、置かせ方のお話です。

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭 石川 雄介

綺麗に片付けましょう部門からの卒業

「使った物は綺麗に片づけましょう」

私たちは、子どもたちにそう教えています。しかし、綺麗に片づけられずにぐちゃぐちゃに置かれていたら、綺麗に置くよう指導をする。すると、別の子どもが同様にぐちゃぐちゃに置いてしまって、また指導をする。そして別の子どもが…。あぁぁー…。
螺旋階段のように同じ場面を何度も繰り返したことはないでしょうか。

状況にもよりますが、これらは子どもたちの力不足なのではなく、教師が綺麗に片づけられる環境をつくれていないことが原因だと思います。
決して、先生方が努力をしていないとは言っていません。それは断じてないです。このようにウェブサイトを開いて、時間を割いてまでこのコラムを読んでいるあなたです。きっと、毎日の授業や指導などで身体と心を痛めながら踏ん張っている、努力家で勉強熱心な方だと思います。そんなあなたを支える小さな工夫があります。


鉛筆削りはどのように置かれていますか?

例として、鉛筆削りを取り上げます。想像してみてください。
教室のどこかにみんなが活用できる共有の鉛筆削りを置いたとします。
子どもたちは休み時間に鉛筆削りを使います。
休み時間の最初に削る子もいますが、休み時間終わり近くに削る子もいます。
時間ぎりぎりに急いで使う子もいるかもしれません。使う時間帯はバラバラです。(ここでは削る時間を決めるなどのルールがないと考えてほしい)
さらに、友達とお喋りしながら削っている子もいるかもしれません。場面は様々です。
そうして授業が始まり、また休み時間が始まる…。
さぁ、鉛筆削りの状況を想像できたでしょうか?

さて、授業が始まりましたが、ここで一つお聞きします。
「鉛筆削りはどのように置かれていますか?」
向きは前向き?または後ろ向き?斜め向き?はたまた違う場所に移動されているかもしれません。想像は様々ですが、大多数は綺麗に置かれていないのではないでしょうか。

テープで範囲を作る

綺麗に物を置かせるための工夫の話に戻ります。
綺麗に物を置かせるためには、物を置く範囲をある程度決めてしまうことです。「物置ゾーン」とでも呼びましょう。物置ゾーンの作り方は簡単です。

まずは、置いてほしい範囲をテープで囲って貼ります。
それで終わりです。 

えっ?あっけない…。
あっけないですが、これが効果的で、すぐできる小さな工夫です。
子どもは線からはみ出すのを嫌う傾向があると思います。逆に、線からはみ出さないことを好む傾向にあるとも言えます。横断歩道の白線から落ちないように歩くあの心理です。
テープで範囲を作る方法は、「ここからここまでが範囲ですよ」という無言のルールが伝わり、実に効果的だと思います。

無言の指導

子どもたちに向けての物置ゾーンの紹介や説明などは特に必要ありません。むしろ無い方が良いです。これは子どもたち自身が自分の中から無意識に生み出すべきルールです。この、無言で伝える指導やルールのことを、私は「無言の指導」と呼んでいます。

世の中には自分で気付かなければならないルールやマナーが無数に混沌としています。人に教えられなくても、自分でルールに気づくための力は将来必ず必要となってきます。その場の状況やそこにあるものから何をしたらいいのか、これが何を意味しているのかを考えて行動する力は大切な力であり、子どもを大きく成長させるきっかけだと思います。

子どもたちの生きる力を育む

この「テープで囲う」というたった一つの小さな工夫は、表向きでは物を綺麗に置かせるというねらいですが、本当は子どもたちの生きる力を育むという大きなねらいを持っているのです。教室環境も整う、指導もなくなる、生きる力も育める、一石三鳥ですね。

もちろん、「鉛筆削り一つ、少し向きが違っていても気にしない」「さすがに細かすぎるのではないか」と思う方もいることでしょう。むしろ大多数がそう思うでしょう。それは私も自覚をしているので大いに構いません。しかし、先程もお話しましたが、先生方は子どもたちにこう指導しているはずです。
「使った物は綺麗に片づけましょう」 と。

たった鉛筆削り一つかもしれない。細かすぎるかもしれない。しかし、一つを見逃すと指導の緩みや悪循環に繋がることや、粘り強く細かく指導する毅然とした姿勢の大切さを先生方は知っているはずです。教師の指導とその指導が効果的に生きる環境を準備することが重要であり、それが学級を良くしていきます。
環境を準備する事は、決められた範囲の中で子どもたち自身が思考して判断し、表現する力に繋がります。子どもたちがこの思考を毎日継続すると、それが考える力として身につき、「使った物は綺麗に片づけましょう」の力をマスターする事ができます。
「綺麗に片付けましょう部門」からの卒業です。おめでとう!卒業すると同時に、教師の指導すべき事項が一つ減ります。子どもたちも成長し、教師も指導が減ります。心地よい空気が流れそうではないですか?
無言の指導を考察し環境を準備する事で、仕事がスムーズに進み、子どもたちと共に有意義な時間を過ごせられると嬉しいです。

「物置ゾーン」。外用靴の置き場所やボックスの置き場所など、様々な物の置き場所として、ぜひ実践してみてください。
また、別の機会に物を綺麗に並べる環境づくりの実践をさらに紹介しようと思います。
何卒。

石川 雄介(いしかわ ゆうすけ)

沖縄県那覇市立さつき小学校 教諭


沖縄県の小学校教員として10年以上、子どもも担任も楽しむ学級づくりや授業づくりを研究しています。
私のモットーは「合いのある学級づくり」で、特に『思い合い、支え合い、学び合い』に重きを置いています。
また、授業や生活の中で他者尊重の心を育む仕掛けや子どもの興味を惹くアイディアを考えるのが大好きです。
効果的な掲示物の作成や子どもも担任も楽しめるアイディアなど、多種多様な教育場面について伝えていきたいと思います。

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