「予測困難な時代」を切り拓く教育とは〜理科の実験を通して〜
グローバル化や人工知能AIなどの技術革新によって予測困難な時代がおとずれたと言われていますが、それはずっと昔、人類が誕生した頃から変わらないのではないかと私は思います。狩猟の道具を作り出し、農耕の技術を発展させ、定住してきたように、人間は「〜だったら(があったら)いいな」という願いを実現して発展してきたからです。もしかしたら、専門家の方々にとっては「予測困難」なのかもしれませんが、私のような一般人からすれば、全てが予測困難です。そんな時代を楽しめる子どもたちを育てることが、教師に求められているのではないでしょうか。
東京都品川区立学校 平野 正隆
⑴「予測困難な時代」だからこそ面白い
技術革新によって、様々な可能性を秘めています。つまり、人間の思いや願いを実現できるかもしれないのです。技術の恩恵を受ける消費者としてだけでなく、その技術を生かす生産者にもなれるということです。人々の思いや願いを受け止め、「どうのように技術を生かせるか」「そうすれば何ができるようになるのか」を主体的に考えることで、可能性を現実のものへと変える楽しさを味わうことができるのです。
そんな時代を切り拓く子どもたちだからこそ、主体的・対話的に学ばせ、「どのように学ぶか」「何ができるようになるのか」を意識した発見・発想・発信のある授業づくりをしていく必要があります。
⑵理科の実験で見えてくる「発想・発見・発信」
今回、紹介する内容は、決して私が意図して行ったものではないことを先に述べておきます。理科の実験をしていると、子どもたちの自由な発想のなかに、鋭い発見があり、それを発信させることで学びが深まることがあります。ときに、教師側から見ても驚くような発想をすることもあります。⑶〜⑸では、6年生理科の授業で子どもたちの疑問から生まれた実験を紹介していきます。
⑶事例①「火はどうして消えるの?」
「ものの燃え方」の授業でした。ろうそくなどのものが燃えると、空気中の酸素が減り、二酸化炭素が増えることを実験を通して理解したときです。「火が消えたのは、酸素が減ったからなのか、二酸化炭素が増えたからなのか、どっちなんだろう」という疑問をもった子がいました。それに対し、「酸素はまだ残っているんだから、二酸化炭素が増えたからじゃない」と返す子もいれば、「酸素が減ったからだと思う。もしかしたら酸素が一定の割合より減ると火が消えるんじゃないかな」「どっちもかもしれない。酸素が一定の割合より減って、二酸化炭素が一定の割合より増えると消えると思う」と話す子もいました。
教科書に載っていない内容だったので、「どんな実験をすれば確かめられそうか班で考えてごらん」と伝えると、以下のような発想が生まれました。
(一例)
・酸素50%、二酸化炭素50%の気体に火のついたろうそくを入れる→すぐ消えたら二酸化炭素が増えたのが原因。ついたら、酸素か両方かが原因。
・酸素21%、二酸化炭素79%の気体に火のついたろうそくを入れる→すぐに消えたら二酸化炭素が増えたのが原因。ついたら、酸素か両方かが原因。
・酸素10%、窒素90%の気体に火のついたろうそくを入れる→すぐに消えたら酸素が減ったのが原因。ついたら、二酸化炭素がそのとき何%か調べて判断。
実際に実験し、最後に実験方法と結果を伝え合うことで、新たな発見を共有しました。
⑷事例②「学校の地面の下は?」
前回の記事(普段の授業にひと工夫 主体的に学ぶ授業へ「体験学習」)にも出した内容ですが、詳しく紹介いたします。
「土地のつくりと変化」の授業でした。単元の最初に、教科書に載っている崖の写真を見ながら、地面の下の様子から気付いたことを話し合っていたときのことです。「うちの学校はどんな地層の上に建っているんだろう」と疑問をもつ子がいました。それに対し、「うちの学校は崖の上に建っているわけじゃないから、分からないよ」「地面を割れば分かるかも」という話になりました。次時に、「しま模様の見られる場所がないときは、ボーリング試料を使って土地のようすを調べる」という学習があったので、そのことを伝え授業を終えました。
そして、ボーリング試料を観察記録する授業です。ワークシートに深度・層厚・地質名を記録している際、「先生、磁石はありませんか」と言う子が出てきました。「何に使うの」と問うと、「火山活動による鉱物が含まれているかどうかを調べたいです」と言っていました。磁石をわたすと夢中になって磁気に反応する・しないを記録していました。
子どもの疑問が、学びを深めた出来事でした。
⑸事例③「豆電球と発光ダイオードの点灯時間の違いは?」
「私たちの生活と電気」の単元初めの実験でした。つくったりためたりした電気は、かん電池の電気と同じようなはたらきをするのかを調べていたときのことです。
電気をためたコンデンサーで豆電球や発光ダイオード(LED)は光るのか、モーターは動くのかを試していくなかで、「豆電球は途中で消えたのに、発光ダイオードはまだ点いてる」「豆電球と発光ダイオードは、同じ量の電気でも光る時間が違うのかもしれない」「時間をはかってみよう」と、自分たちで問題を見い出し、活動している班がありました。
本来であれば次回以降の教科書の学習内容ですが、自らの発見・発想で実験をすすめていました。
⑹主体的・対話的に学び合うからこそ、生まれる3つの「発」
実験をする際、私は基本的に、ただ言われた実験をそのままやるのではなく、実験中に試してみたいことがあれば相談したうえでやっていいことにしています。そして、その日やらなければいけない実験を終えた班は、使った道具でできる他の実験をやっていいことにしています。
また、私はどんな実験でも班で協力して行うようにしています。協働的に学び合うことで、発想・発見・発信に価値が生まれるからです。
事例①では、「火が消えた原因」の予想が割れたことで、実験をする意義が生まれ、どんな実験をすればいいか主体的に話し合うことができました。
事例②では、ボーリング資料の観察は、もともと実施予定の内容でしたが、子どもたちの発想があったことで、より主体的に取組むことができました。
事例③では、個別の実験キットを購入しているため、個人での実験が可能ですが、班で行って豆電球と発光ダイオードを同時に点灯させたことで発見がありました。
主体的・対話的に学び合うからこそ、発想・発見・発信が生まれ、発想・発見・発信をするからこそ、主体的に学び合うことができます。つまり、これらは相互に作用し合っているのです。
⑺終わりに
周りの人たちと共に考え、新しい発見や豊かな発想が生まれる授業を展開することで、子どもたちは「予測困難」を前向きに捉えながら生きていけると思っています。
平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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