『つなぐ・つながる』 「振り返り」について子どもに聞いてみる
「振り返り」は、教師にとっても、子どもにとっても意味あるものと考えられます。が、子どもたちは、本当のところ、どう思っているのでしょう。「振り返り」について、子どもたちの声を聞いてみました。
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授 前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師 川島 隆
「振り返り」とは、何か?
私が勤務していたA小学校の校内研究の特色は、「振り返り」と「聴くこと」を研究の基盤にしていることでした。特に、「振り返り」については、数年間積み重ねを続け、教員の中では1つのツールとして定着していました。
皆さんは、この「振り返り」について、「振り返りって何?」
こう聞かれたら、どのように応えますか。
ピーター・ドラッカーによれば、「振り返り」とは、自らの言動を客観的に捉え、そこから改善点を見い出し、それを実行すること。つまり、自己成長を実現させる手段の一つだと言えます。
私がなるほどと思ったのは、ディ・ステファノ氏らの、コールセンターで働く従業員のパフォーマンスについての研究報告です。
1日の終わりに15分間かけてその日の学びについて振り返りを行なった従業員は行わなかった従業員に比べて10日後には明らかなパフォーマンス向上が見られたというのです。
教育界に限らず、ビジネス界でも、日常的な振り返りが、自らの仕事に対する意味づけを行うことができ、より深い学びや気付きに繋がると考えられているのですね。
A小学校での「振り返り(リフレクション)」の取組
では、A小学校での「振り返り(リフレクション)」は、どのように進められているのでしょうか。
一つは、授業研究(研究協議)がその場となっています。
「ああすればよかった」という授業者の反省や「こうして指導すれば」という指導法に関する反省ではなく、参観者と授業者が、子どもの学びの事実にそいながら、気付きや印象に残った場面を付箋紙に記入、それを交流させることで授業を振り返ります。
そして、KJ法を用いて、授業の課題や今後の方向性、あるいは参観者自身の学びを明確にしていきます。
子どもの学びの事実を多角的に捉え、子ども理解を深めていくよさがあります。
こうした取組は、決して珍しいものではなく、広く教育現場では、行っていることと思います。
ただ、ここから、どのようにその後の授業へとつなげていくかは、課題であるかもしれません。
もう一つの「振り返り」の場
もう一つは、普段の授業における「振り返り」の場です。 私が行った、5年生理科「ものの溶け方」の授業を事例として取り上げて、考えてみます。
このノートは、「食塩をティーパックの中に入れて、水の中につけるとどうなるか」という課題で、実験をした授業のものです。子どもたちは、メスシリンダーの中で発生するもやもや、シュリーレン現象に引きつけられました。
そして、その時間の「振り返り」には、以下のような記述が見られました。
〇食塩の出方は、はるさめのようだった。なぜティーパックに入れた食塩は、透明に出てきたのか。
〇流れるように落ちていったのが驚いた。なぜうようよなるのか。揺らしていないのに、真っ直ぐに落ちていかないのかが気になる。
〇つぶのままでいると思ったが、うようよしたのが出てきたから、驚いた。砂糖はどうなるかが気になる。
〇砂糖と塩では、溶けるスピードに違いがあるのか。また、溶けるものには限りがあるのか、実験してみたい。
〇うようよして流れていった。たきのように流れていった。油のように流れていった。
興味深いのは、目の前で起きている現象を「たき」「油」「はるさめ」「流れるように」「うようよ」等、様々な表現で書き綴っていることです。その子らしい子どものとらえ、表現の多様性に面白さを感じました。また、「砂糖との比較」「溶けるスピードの違い」「溶けることの限界」等、実験(授業)をどのように感じ、どんな願い(思い)を持っているかが見えてきます。
つまり、「振り返り」を子どもが「書く」ことは、教師にとって、「その授業が子どもにとってどんな意味を持っていたのか(どんな受け止めをしているか)」「次の授業をどう創っていけばよいか」を把握するために重要な意味を持つものだと言えます。
子どもたちは「振り返り」を、どう考えているのか?
では、この「振り返り」は、子どもたちにとって、どんな意味を持っているのでしょうか。
試しに、この授業をはじめ、私が一年間理科を受け持っていた5年生60名を対象として、アンケート調査(「『振り返り』は、ためになっているか?」)を行ってみました。
その結果は、図のように半数近くの子どもが「振り返り」の意義を感じ取っているようです。
そして、回答理由を見てみると、以下のような記述が見られました。
〇「自分の考えをまとめられるから」 ………(学びの実感)
〇「疑問に思うことを書き出してみると予想を立てられるし、それをなぜか実験してみると、その理由がわかる。そして、また疑問が生まれ、考える力がついていくから」………(思考力の高まり)
〇「たまにパラパラ見て、振り返っているし、文章を書く力になっていると思うから」………(表現力)
〇「振り返りを書くと、自分の疑問、分かったことが分かるから」………(メタ認知力)
〇「他の人の意見について知ることが出来、自分の考えをたくさん持つことが出来るから」………(多面的・多角的思考力)
中でも、1/3の子どもたちが「学びの実感」や「学びの深まり」を自覚した記述をしていました。
授業の終末のほんの2分程度(短いときは、「30秒で!」と言うときもありました)ですが、
子どもにとっても、この「振り返り」の意味は大きいようです。
むすびに
このように、子どもの声に耳を傾けることは、教師が独りよがりにならないためにも大切にしたいなと思いました。
また、この「振り返り」を書くことに関して、書くことを方向付けたり、限定したりすることは、時に必要かもしれませんが、それよりもまず書かせてみて、それを教師が受け止め、そして、子どもたちに返していくこと、積み重ねていくことが大切なんじゃないかなと考えます。
鹿毛氏(慶應義塾大学教職課程センター教授)は、
「教師の成長プロセスは、授業をする経験を闇雲に積み重ねれば力量が高まるというような単純なものでは決してありません。自らが経験した授業について立ち止まって振り返る作業を通して、自分自身を冷静に見つめ直してみる機会を意図的に設けることが大切なのです。」
と、教師にとっての「振り返り(リフレクション)」の重要性を述べています。
この重要性は、20年以上も前から、佐藤氏(東京大学大学院教育学研究科名誉教授)や藤岡氏(元京都大学高等教育授業システム開発センター教授)が提唱していることで、決して目新しいものではありませんが、「子どもの学びの深まり」と私たち「教師の成長」のために、意義あるものであり、確かな取組として継続していきたいものです。
参考資料
- 『「すぐやる人」のノート術』塚本 亮、明日香出版社、PP96-97、2018.01.12
- 鹿毛 雅治:「リフレクションシートの開発思想,,東京大学大学院教育学研究科附属学校臨床総合教育研究センター年報(8),pp27-31,2006.03.31
- 『教師というアポリア 反省的実践へ』佐藤学、世織書房、PP159-229、1997.10.10
- 『成長する教師』藤岡完治他、金子書房、PP117-158、1998.05.25
- Giada Di Stefano・Francesca Gino・Gary P. Pisano・Bradley R. Staats(2014):「Learning by Thinking: How Reflection Can Spur Progress Along the Learning Curve」,Harvard Business School NOM Unit Working Paper No. 14-093 Kenan Institute of Private Enterprise Research Paper No. 2414478
川島 隆(かわしま たかし)
浜松学院大学 現代コミュニケーション学部 子どもコミュニケーション学科 教授
前浜松学院大学短期大部 幼児教育科 特任講師
2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。
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