先生にとっての 何だかとても大切なもの~ビオトープの復活を待っていたのは生き物だけではないのだということ
先生方の学校にも、ビオトープはありますか。
水の恋しい今の季節、今日も本校ではビオトープに学年も様々な子どもたちが集います。
まだ行ったことがなかったら、その岸辺に一度はぜひ足を運んでくださいね。
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師 渡邊 満昭
生き物が待っていた学校ビオトープの復活
そもそもビオトープとはなんでしょう。大切にしたい生物群の存在とそれを維持するように人の手が加えられていることは共通なようですが、定義は一つではないようです。(参照 ビオトープとは 千葉県生物多様性センター)
本校のビオトープは、かつて地域の方々の熱意により設立されました。当時は蛍の飼育を目指していたと聞いています。ですが、池は経年変化で水漏れも多く、数年前に一度干上がってしまいました。
それでも直近の校庭の改修を機に、志のある方々の支援で池の水漏れの補修や水源の安定化などの課題を一つずつ乗り越えることができ、やっと水質も安定し始めたのが現在の姿ということになります。
以前はジュズダマやアシ、ガマなど植生も豊かで、トノサマガエルやモクズガニ、ヌマエビ、カワニナなどさまざまな種類の生き物が住んでいました。ですが自称ビオトープ担当の私も、忙しさにかまけて手つけられずにいました。また相当期間干上がったままでしたので、水がもどっても生きものは簡単にはもどらないものと思っていました。
ところが水質の安定化とともに思いがけないことがおこりました。子どもたちにさそわれ池の様子をうかがうと、岸辺のあちこちに、白ごまのようなミジンコが集まり忙しそうに動き回っています。何もいないなあと思っていた改修後の池に、生き物の気配が満ちてきたように思えちょっと感動しました。
子どもたちも待ち望んでいた学校ビオトープ
今年は、春から池の表面が緑の藻で覆われました。木の棒に絡みついてくる感じです。このまま気温が上がってくると枯死した藻で酸欠の恐れもあるかもと思い、水中で8の字を描いて緑の毛玉を作る感じですくい取り、子どもたちと藻の量の調整を試みました。これはどの子もとても楽しそうに取り組んでくれました。底が見えるようになると今度は、オタマジャクシ・カエルとヤゴを子どもたちが見つけました。いつの間にか住み着いていたのです。それも比較的大きめのオタマジャクシなので大喜びです。(たぶんツチガエルだと思います)
先週その学校ビオトープのことで、子どもたちの間でちょっとした言い争いが起こりました。ビオトープにいるカエルやヤゴの処遇についてです。
せっかくだからつかまえて教室で観察したいという主張とそのままにしておきたいという主張です。結果的にはそばにいた先生の取りなしもあり、少数に限って教室で観察しようということになりました。
何もかもが失われたところから再スタートしているビオトープなので、ルールも含め何もかもが初めてです。ですがこうした議論が起こるということは、ずっとビオトープの復活を待ち望んでいた子ども達(以前のビオトープを知っている子、そして新しくビトープに関心を持ってくれた子)がいるということなのだなと思えたのです。
学校ビオトープが機能するためには
静岡市では、教員養成課程のある静岡大学に優れた指導者の存在と全国に先駆けてビオトープができた経緯があり、学生の頃の私も影響を受けました。市内では20年で6校に勤務しましたが、市街化の進む地域では、ビオトープのように校庭に子どもたちが関われる安全な水辺があるのはとても貴重だなと感じました。
そこで、全滅のおそれがあるホトケドジョウの一時保護のために理科園の観察池をリフォームしたり、専門家の助言で観賞用の池をミズアオイ、オニバスの池に変えてみたり、ビル街の真ん中の池をトンボ池にしたり、既存のクリーク(入り江)型のビオトープの活用方法をあれこれ子どもと考えたりといろいろ携わってきました。今まで関わってきたビオトープの様子も、学校間の研修会等のついでに見守っています。
熱心な先生がいなくなれば維持できないという声を聞くこともありますが、どの学校に赴任しても関心のある先生はいらっしゃいましたし、地域の方の温かな支援もありました。そして何よりもそれぞれの学校の様々な学年の子どもたちが、いつも水辺に集っていたのです。
これはわたし個人の考えなのですが、ビオトープの維持管理には、直接体験をともなう子どもたちの参加が不可欠だと思っています。だから単に見守るだけではなく、時には触ったり捕まえたり動かしたりできるようなものであってもいいのかなと思っています。
学校にあるビオトープですので、子どもたちが失敗も含めて自分たちで何か始められるようなものなら、私たち職員の構成がどうであっても年代を超えても教育の場として機能していけるのではないでしょうか。そこで育った子ども達が、いろいろな意味でこれからも見守ってくれると思うのです。
さて、本校ではいよいよ委員会活動の中でもビオトープについての話題が出てきました。私は、あまり出過ぎずに子どもたちの考えの行く末を見守ろうと思います。まずこうした話題や関心を育てて考えてもらうことこそが、学校にあるビオトープの役目であり、またビオトープを維持していくための大切な過程なのですし。
学校のビオトープは、なかなか奥が深いです。だから先生もその岸辺にぜひ足を運んでくださいね。普段とは違う子どもたちの姿や地域の生態系のもたらす癒やしの風景が、今日も見られると思うのです。
渡邊 満昭(わたなべ みつあき)
静岡市立中島小学校教諭・公認心理師・学校心理士・環境教育インタープリター・森林セラピスト
いつの間にか、小中学校全学年+特別支援学級+特別支援学校+通級指導教室での担任を経験し、生徒指導主任+特別支援教育コーディネーター+教育相談担当経験も10年を超えていました。すると担任を離れたとたんに何かを忘れてしまって、担任に戻ってみると忘れていたことに気がつくということがたびたびありました。それはうまく言えないけど何だかとても大切なもの。先生を続けていくための糧のようなもの。
その大切なものについて、自分の実践と合わせお伝えしていこうと思います。
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