義務教育学校が切り拓く未来「教科担任制」
私が勤務する学校は、校舎一体型の小中一貫校から2016年に義務教育学校となり、これまでにあった小学校と中学校の校種差をなくし、9年間の連続性を意識した教育を展開しています。そして、この教育活動をすべて活用し、子どもたちを、義務教育の先にある、これから生きていく社会に通用し、その社会を支える人材となるよう育てています。今回は、その取組のひとつ「教科担任制」について紹介していきます。
東京都品川区立学校 平野 正隆
小学校高学年からの教科担任制が2022年度より導入予定とされていました。しかし、教員の加配が少なく、工夫して実施していたり、実施すら困難なのが現状であるようです。私が勤務する学校は義務教育学校では、5・6年生の教科担任制を以前から実施しています。学級担任制ではなく教科担任制を実施するメリットは何なのか、実施にあたって注意すべき点は何かを現場での経験を踏まえて、お伝えできればと思います。
⑴ メリット「授業の質の向上」「教師の負担軽減」
ひとりの教員(担任)がほとんどの教科を指導する学級担任制では、教材研究に割く時間が短くなってしまいます。しかし、特定の教科を担当することで、教材研究を充分にできるばかりか、進度の調整も教員が個人で行うだけで済み、授業準備の回数も極端に減ります。また、年間を見通した系統的な指導ができることも大きなメリットです。
今年度、私は4つの学級の理科を担当しています。といっても、教員の人数が確保できているわけではないので、他にも算数や市民科(品川区独自の教科)も担当していますが。
理科に関して言えば、一度、実験の準備や予備実験をしておけば済みます。理科室に各学級が入れ替わって来るため、同じように実験を進めることができるのです。
⑵メリット「小中の円滑な接続」
学級担任制から教科担任制になることで、最初に不安を感じる子も少なくありません。しかし、多くの教師と関わり、多様な価値観に触れることは、将来的にも大切です。そして、それは安心感にもつながることに次第に気付き始めます。
実際に経験した子は、「そういう学び方・考え方もあるのか」「悩みがあるけど、どの先生に相談しようか」などと考えることができるようになっていきます。小学校全科の免許を持った教師が教科担任をするわけですから、他教科の相談にものりやすいのです。
⑶メリット「多面的な児童理解」
私個人の考えとしては、これが一番のメリットではないかと思います。学級担任制では、ひとりの教員(担任)がほとんどの教科を指導するため、深く児童理解ができるメリットがあります。しかし、担任と子や親との関係性がうまくいかない場合も少なからずあるのではないでしょうか。
多くの教員が見ると、担任一人では気付けない子の魅力に気付くことがあります。また、クラスの子が問題を起こした際、学級担任制では担任が強く思い悩んでしまうことも多いですが、それも担当する教員がチームとなって課題を共有し、解決に向けた取り組みを冷静に行うことができます。
子どもの立場から見れば、先にも述べたように「悩みがあるけど、どの先生に相談しようか」と、自分が話しやすい相手を選択することができます。私も担任以外の児童から相談を受けることもあります。学力、友達関係、家族関係、教師との関係…様々な悩みを抱える子に、それを相談できる選択肢の一人になれているのは、教師冥利に尽きます。
⑷実施にあたって
教科担任制を導入するにあたって、初めに準備すべきことが2つあります。
まず「時間割の作成」です。学級担任制と違い、様々なクラスを受け持つため、パズルを組み立てるような時間割調整が必要です。私の学校では、教務が担当して作成しています。
次に「子どもに教科の担当をつけること」です。担任が全ての教科の連絡はできません。朝や帰りの会に、学期初めに決めた担当の子が、「明日はテストがあります」「来週までに縄跳びを持って来てください」などと、担当の先生から聞いた連絡をします。
⑸終わりに
これまで教科担任制のメリットばかりを述べてきましたが、何事でも新しい体制へと変化させるには不安はつきものです。デメリットも抱えることになることは言うまでもありません。実際、私も最初は不安ばかりが先行していました。教育体制に明確な正解はなく、その体制の中で自分に何ができるのかを追い求めることがよりよい教育になるのではないかと考えます。
平野 正隆(ひらの まさたか)
東京都品川区立学校
研究会での実践報告や校内での若手教員育成などの経験を通して、自分の経験や実践が広く皆様のお役に立てるのではないかと考えております。大人・子どもに関わらず、「明日から頑張れそうです」「明日が来るのが楽しみです」と言ってもらえるのが私の喜びです。
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