2022.11.30
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傾聴することの大切さー聞き上手を育むー

コロナ禍が続き、感染者の数も再び増加に転じようとしている。バスや電車の中では「黙乗」という張り紙があり、話したくても黙って窓の外から風景を見ていたり、スマートフォンを覗いていたりすることが多くなっている。そんな中で「きく」ことの大切さを改めて考えてみたい。

大阪大谷大学 教育学部 教授 今宮 信吾

三つの「きく」

図1 聴解力としての「きく」

「個別最適な学び」と「協働的な学び」の両方を促進していくことが求められている。その際に話し合いなどによって対話的に学ぶことが多くなっているが、「話せる子」を育てようという方向性ばかりが強調されていないだろうか。よい聞き手を育てることこそが、対話的で協働的な学びを創ると思っている。
図1を見てほしい。三つの「きく」を示した。これらの聞くは子どもたちの状態が違っている。「聞く」は、自然な形で音として聞こえてくる状態、「聴く」は心を寄せて自分から聴こうとする状態、「訊く」はあまり耳慣れないかもしれないが、相手からことばを引き出そうとする状態である。
私はこの「訊く」こそ、これからの学びには必要ではないかと思っている。「話せる子」ばかりが活躍する授業は、本当の個別最適な学びではないと思っている。「訊く」が育つと学びが活性化する。

「訊く」ことの効果

図2 授業スタイルの変容

「訊く」ことの効果として、協調的な関係ができるという良さもある。令和の日本型学校教育ということで、主体的・対話的で深い学び、いわゆるアクティブ・ラーニングが推進されているが、それを効果的に行うことにも通じる。
それは、学びを深めるためには、対話によって自分の考えや知識が新たな枠組みでつながったり、新たな発見をしたりということになる。そのためには先生と子どもたちのやりとりだけではなく、子どもたち同士がつながる必要がある。しかしながらこれは従来型の授業スタイルを否定しがちにもなる。
私の考え方としては図2の左側のように、先生の発問や発話に対して子どもたちが応えることを基本にしつつ、子どもたち同士がつながる働きかけをすることが21世紀型の学力を目指すという図2の右側のような授業スタイルに変容すると思っている。いきなり、子どもたち同士だけで行なっても学びが深まることは期待できない。

つなぎ方を知る

図3 意見をつなぐ方法

そこで最近各学校への指導助言でお伝えしているのは、発言の繋ぎ方を可視化して伝える必要性である。「みんなで発言をつないで」と言っても話せる子はどんどん話していくが、つなぐということ自体がわからない子どもたちにとっては話し合いが苦痛な時間になる。
図3のようなものを示して、今日はこのつなぎ方をしてねと話し合いの目的を方法を伝えることが必要ではないだろうか。左上は、一人の意見をサークルのようにつなぐ方法、その右はイメージマップのようにどんどん付け加えて広げていく方法、下の二つはよく似ているが、左側は単純にいくつかの意見を足して意見を創る方法、その右は、意見を足すことによって新たな意見が生まれるような方法である。この話をすると多くの学校でこのスライドをコピーして裏に磁石を貼り、「今日はこの方法の話し合いをします」と取り組み始めている学校もある。
コロナ禍で話すことが制限されていることはチャンスだとも言える。聞き上手を育てていくことがこれからの社会で生きていく子どもたちには必要である。そしてみんなが人の話を傾聴できるような人育てることこそ、令和の日本型学校教育と言えるのではないだろうか。

今宮 信吾(いまみや しんご)

大阪大谷大学 教育学部 教授


国公私立の小学校で教員を経験し、現在未来の教師を育てるために教員養成に携わっています。国語教育を核として、学級づくり、道徳教育など校内研究にも携わらせていただいております。ことば学びのできる教師と学校づくりを目指しております。

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