学級経営について―学級開き前の「心得」―
今回からは、学級経営について勝手に連載していこうと思います。まず第1弾は、「学級開き前の心得」についてです。
なるべく、理論と実践を融合した形でお伝えしていこうと思いますので、お付き合いしていただけたら幸いです。
明石市立高丘西小学校 教諭 川上 健治
今回は、学級経営として「学級開き前の心得」について書こうと思います。
そもそも「学級経営」とは、白松(2017:16-26)によると、学級における学習のための秩序をつくることをねらいとした「狭義の学級経営」と児童生徒の立場を重視し、先生と児童生徒との協働の立場を重視してきた「広義の学級経営」の二つがあると捉えています。そして、この二つに生徒指導との関係を踏まえて学級経営を領域で整理すると、「必然的領域」「計画的領域」「偶発的領域」の3つがあるとしています。この中で、今回は、どの先生であっても、必ず同じように指導する領域と設定されている「必然的領域」と学級において子どもたちの「できること」が増えるように計画的に指導する領域と設定されている「計画的領域」について焦点を絞り紹介します。
というのも、学級経営においてその先生の性格(所謂キャラ)が大いに影響されると考えるからです。特に、初任の先生方は、先輩の先生のアドバイスを受けることが多々あると思います。しかし、その先輩がうまくいっているからといって、自分がしてもうまくいかないことは多々あります。例えば、自分は「ほんわかキャラ」であるにも関わらず、「児童に舐められたらだめだから厳しく接するように」というアドバイスを受け、実践しても、次第に無理が生じます。それは、そもそも自分のキャラと合っていないからです。それは、子どもも見抜きます。ですので、まずは自分がどういうキャラなのかを把握することが大事になってきます。
話は逸れましたが、以上のような理由から、「必然的領域」と「計画的領域」に絞りたいと思います。
1.「必然的領域」の指導ポイント
「必然的領域」とは、先述したように、どの先生であっても、必ず同じように指導する領域です。では、どういうものが指導に挙げられるのでしょうか。白松(2019:20-21)は、「きちんと叱ってくれる先生」が好きな先生アンケートの上位にくる理由として、「何かあれば守ってくれる信頼感」に繋がっているという例を出しています。赤坂(2020:149)も、学級集団づくりは、まず、教師の基礎的信頼感から始められると述べています。つまり、「信頼感」を得るためにも、「ダメなものはダメ」という明確なルールを児童と共有しておく必要はあると分かります。だからこそ、白松は、「必然的領域」で、「自己と他者の『心と体』を傷つける言動や行動は許さない」指導を挙げています。
そして、
①仲間を大切にする
②仲間の話を大事に聴く
③挨拶をする
の3点の「ルール」に落とし込んで学級開きの際に伝えます。いずれも「自己と他者の『心と体』を傷つける言動や行動は許さない」指導を具現化したものです。②と③は結局①に繋がっていることなのですが、この3つのルールを児童と共有します。本来は、もっと細分化もできるのでしょうが、多すぎてもだめです。1年間常にこのルールを軸にして指導していくことになりますので、3つ程度が丁度いいと思います。
但し、留意しなければならないのは、ルールは何のためにあるかということです。たまに、警察のようにルールを破るのを目の前で見届けてから罰を与えるという先生もいます。しかし、ルールは罰するために設けているわけでは決してありません。ルールは、「その集団全員が幸せに生活できるため」に設けているのです。ですので、「仲間を想った行動」をとればやはり褒めてあげてほしいですし、「話を目と耳と心で聴いている」子は評価されるべきです。評価されると、「しなければならない」から「してみようかな」というように前向きにこの3つのルールを捉えられるようになります。
こういった軸をもって信頼関係を築いていくことが、特に若い先生には必要になってくると思います。
2.「計画的領域」の指導ポイント
「計画的領域」とは、先述したように、学級において子どもたちの「できること」が増えるように計画的に指導する領域のことです。では、ここでも、どういうものが指導に挙げられるのでしょうか。
白松(2017:22)は、この領域の学級経営の主眼は、教室(学校)における学習や生活をルーティーン化(きまりごとの習慣化)することや教室(学校)における学習や活動(作業)の手順の見える化によって、教室を秩序化することにあると述べています。また、高橋(2015:32)らは、一定の所作(ルーティン)を決めておくこと、常に実行することで普段どおりのことを行えるという確実感・安心感を持つことができると述べています。これは、スポーツにおける世界のことですが、「確実感・安心感を持つことができる」という点においては、教室内の子どもたちにも「ルーティン化」するというのは、じゅうぶん適用できるものであると考えます。そこで、「もし、私なら」という視点でルーティン化できるものを時系列で列挙します。
≪登校時≫
①教室に着くと、用意をしてから連絡帳を書く。
②宿題と共に連絡帳も班の「宿題係」に出す。「宿題係」は、自分の班のBOXに提出する。
③「宿題係」は自分の班のBOXに入っている返却物を班員に返す。
④班員は返却されたものを受け取る。
⑤自由時間
≪朝の会≫
進行表に沿って、日直が司会進行
≪授業時≫
各教科の係が進行表に沿って、司会進行(※詳しくは過去の日誌にも掲載しています)
≪給食事≫
①全員手を洗いに行く
②当番は配膳用意
③当番以外は静かに席で待機しておく
④全員揃って「いただきます」
⑤おかわり等は、子ども達と話し合ってからルーティン化
⑥食べ終わったら静かに待機しておく
⑦全員食べ終わるか、時間がきたら全員揃って「ごちそうさま」
⑧そのまま掃除へ
≪掃除後≫
授業までに10分間空き時間があるので、そこで手紙を配布
≪終わりの会≫
①終わりの会までに「宿題係」は自分の班のBOXにチェック済の宿題等を各班員に返却
②BOXが空になっていることを確認してから終わりの会開始
③進行表に沿って、日直が司会進行
とざっと挙げただけでもこれだけのルーティン化が我がクラスにはありました。(もちろん抜け落ちているものもあると思います)
これは、児童が自分たちで何をすべきかを考えて動きやすくするためのものです。「守・破・離」でいうところの「守」の部分です。このルーティン化された行動様式に自信をもって取り組むことができてこそ、自分たちで率先して色々なことに挑戦できるものだと思います。逆に言うと、この行動様式すら守れない児童に「何でも考えてやっていいよ」というのは非常に危険です。従って、私ならこのルーティン化した行動様式を4月の間に徹底して共有します。
何をやるべきか分かった状態の学級は、やはり子どもたちにとっても安心感のもてる状態にあると思います。なるべく、早い段階で、この状態にもっていきたいものです。その為にも、春休み児童と出会う前に、最低限どういうルーティン化をするのかというのを考えておくとよいのではないでしょうか。
以上、今回は「学級開き前の心得」について紹介しました。ここに書いていることは、最低限のことです。これをやれば学級経営がうまくいくとは限りませんが、これをしなければ学級経営が難しくなるのでは?と思います。特にまだ現場に出たことのない方や、経験の浅い先生方は是非、参考にしていただけたらと思います。
次回は、「学級開きにすること」について紹介できたらと考えています。
関連リンク
参考資料
- 赤坂真二(2020)「学級経営のユニバーサルデザインの方法」日本授業UD学会編『授業のユニバーサルデザイン特別支援教育・学級経営』日本授業UD学会
- 高橋直矢、岡田雅次、内藤祐子「大学陸上競技選手の心理的競技能力とルーティンの効果について」『体育・スポーツ科学研究』国士舘大学体育・スポーツ科学学会

川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立高丘西小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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