2022.09.15
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国語科として有効な「発問」とは?先行研究に学ぶ(第9回)

今回は、先行研究に学びながら国語科として有効な「発問」について考えたいと思います。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

今回が、今期の最終記事になります。

最後に紹介するのは、「発問」についてです。私は、大学院で「逆向き設計論を用いた学習指導過程モデル」について研究しています。そして、その学習モデルを基に現任校に実習にも行きました。そこで、感じたことは、どんな優れたモデルを開発しようとも、授業の1時間1時間が大切であるということです。その授業の1時間を充実させないことには、先行研究で言われているどんな学習指導過程モデルに則ったとしても、結局児童の学力や意欲は向上しないということを感じました。そして、取り分けその中でも、重要になってくるのが「発問」であると思います。

このことについて、須田(1992)も、「課題が設定されても課題解決の学習展開がスムーズに進展しないという、実践上の問題が出ている。学習課題によって学習者の意欲が高められ、学習意欲が継続されていく力となっていくはずなのに、逆に興味がうすれたり、楽しい授業でなくなったりする逆現象が出現することがみられる」[i]とし、続けて、「学習課題を設定したとしても、その課題を解決したり追求したりする方法をどうするか。その方法として発問がある。」[ii]と述べています。このことからも、発問の重要性がみてとれます。裏を返せば、ある一つの学習指導過程モデルに則り、練りに練った学習課題を設定し、大枠を固めたとしても、「発問」が曖昧であると実践上に問題が出てくるということである。しかし、国語の授業では、「気持ち悪いほど気持ちを問う授業」という揶揄した言葉があるように、何かとすぐに「〇〇(登場人物)は、どんな気持ちだったでしょう?」という発問をしてしまいがちです。

では、どのような「発問」をすれば、児童の思考を揺さぶれ、学力、意欲向上に寄与する「発問」となるのだろうか。これについて、まず深川の見解を見ていきます。深川(1986)は、「教材は、いろいろなレベルの誘いかけ構造、つまり、表現装置を施して、学習者に合図を送ってはいるが、その誘いかけ構造を解明する作業は、学習者にまかされている」[iii]という立場に立っています。

そこで、学習者が豊かなイメージを形成できる発問の基本的観点として、まず「登場人物との共体験を促すイメージ化の段階」[iv]として、「登場人物との共体験を促す発問」[v]であるとしています。これは、所謂「構造と内容の把握」段階や「精査・解釈」段階における発問で意識すべきところではないかと思います。次に「自己を問い直すイメージ段階」として自分自身のものの見方や考え方を問い直せるような発問であるとしています。これは、精査・解釈段階で、共体験を促す発問によって視点人物の立場からものの見方・考え方を児童はしていることになります。そこから、現実世界の自分に問い直す必要があります。このことについて、深川は、「本来自分が持っている認識によってではなく、いわば、他人の認識によって、自分自身の物の見方や考え方、感じ方を問い直したとき、そこに、学習者自身が今まで意識しなかった自分を発見したり、自分の認識を変革させたりする、ということである」[vi]と述べています。

この深川の論からは、各段階によって「発問」の仕方を変容させるべきであるということが示唆されています。それを更に具体的に実践的に考えていく際には、佐藤の論が示唆的です。佐藤(2010)[vii]は、解釈する力を高めるための発問の要件として

①複数の根拠をあげることが可能となる発問
②複数の理由付けをあげることが可能となる発問
③複数の解釈の比較検討ができる発問

の3つを挙げています。そして、その具体例として

(a)「AそれともB?」…検討すべき解釈という出口を先に提示し、根拠となる情報部分と理由付けとなる推論過程を答えさせる発問
(b)「登場人物が、(X)したのはなぜか?」…凡庸な発問であるが、多くの根拠や理由付けを促すことができる発問
(c)「文章(X)が、もし仮に(W)であったら、どうなりますか?」…推論過程をそのまま提示する発問

の3つを挙げています。[viii]

上記のようなことを意識して、発問づくりに取り組むことで、より意図をもった発問ができるようになるのではないでしょうか。教師が意図をもって発問することで、児童はより思考を働かせることができます。それを一単元でも毎時間積み重ねることで大きな力となると思います。是非、意図をもった発問を意識したいものです。


今期もお読みいただきありがとうございました。全国のどこかの先生方のたたき台になればと思い自分の考えを紹介してきましたので、何かの参考になったのであれば幸いです。

[iii] [iv][v]深川明子「文学教材・イメージ化の内容と段階 : 発問考察の基本的観点」全国大学国語教育学会『国語科教育』第34集、1986年、p.26、p.30

[vii] [viii] 佐藤佐敏「解釈する力を高める発問 : C.S.Peirceの認識論に基づく「読みの授業論」の構築(2)」上越教育大学『上越教育大学研究紀要』第29巻、2010年、p.327、pp.327-328

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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