鹿児島・知覧をたずねて
以前、ある講演会に参加した際に講師から「一度、鹿児島の知覧を訪ねるとよい」と言われ、10年以上前から一度機会があったら訪ねてみようと思っていました。知覧は言わずと知れた先の戦争の沖縄戦で特攻隊の方が飛び立った飛行場があった場所です。今回、九州に教員研修で行くことになったため、思いきって知覧まで足を延ばすことにしました。
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一
一度訪ねたかった知覧
知覧は大変静かな町で、戦争のときに特攻部隊が飛び立った町とは思えませんでした。知覧平和公園につくと、最初に目にするのは兵隊さんたちが出撃前の数日を過ごしたといわれる「三角兵舎」です。当時の様子が復元されていました。アメリカ機に見つからないように屋根だけが地面から出ている小さい小屋でした。
公園は大変静かで、ここに飛行場があったことなど信じられませんでした。
知覧特攻平和会館を見学して
知覧の平和公園内には、特攻隊の当時の様子を伝えるために「特攻平和会館」が開設されています。そこでは、当時の特攻隊の方々の遺品や遺書、当時の様子を伝える資料などが展示されています。
その中で印象に残ったのは、埼玉県の桶川飛行場から知覧まで飛び立ち、特攻隊として命を落とした伍井芳夫隊長の遺書です。伍井隊長は当時32歳、特攻隊員の中では最年長だったそうです。この方は、若い兵隊さんの教師のような立場だったそうです。きっと、教え子たちだけ特攻に行かせるわけにはいかないと考えて自ら特攻兵に志願されたのだろうと思います。
遺書には3人のお子さんに対する心を込めたメッセージが込められていました。お母さんの言うことをしっかり聞いてほしいこと、立派な日本人に成長してほしいこと、そしてお父さんは亡くなってもずっと見守っていることなどです。その遺書を見ながら涙が流れました。
私がもし伍井隊長の立場だったら自分の子どもにどんなメッセージを残したであろうかと考えてしまいました。その前に、自分の死を目の前にして冷静に手紙など書けただろうかと思います。
「三角兵舎」の中に入ると、布団だけが敷かれ、その狭さに驚かされます。隊員の方たちは、そこで仲間と短いながらも楽しい時間を過ごされたとのことです。しかし、夜になると家族のことなどを考え、涙を流している隊員さんもいたという話を聞きました。兵隊さんたちはいったいどんなことを考えながら過ごしていたのだろうと考えてしまいました。
まだ、20歳前後の若者たちがこのような状況に追い込まれていった戦争は絶対にいけないことだとあらためて感じました。そして、私自身も戦争の悲惨さを忘れず、これからも学び続けていかなければならないと気持ちを新たにしました。
これからに生かしたいこと
小学校では6年生の社会科の歴史で戦争についての単元があります。そこでは、どうして日本が戦争をするに至ったのか、そして戦争によってどのような被害があったのか、さらには戦後どのように復興を成し遂げてきたのかなどを学びます。
私もこれまでは、戦争について教えるときに、大きく日本がどのように戦争を行ってきたかということに絞って授業を行ってきました。しかし、今回知覧で見てきたような、ある人について取り上げることで、子どもたちが戦争について自分事としてとらえられるのではないかと考えています。次回6年生を担当した際には、今回学んできたことを生かして授業をしてみたいと考えています。
また、6年生以外の学年でも、読み物などを通して戦争について学ぶ機会があります。その際に知覧で見てきたことも話ができたらと思っています。
今年度は3年生の担任ですが、クラスの児童が夏休みに戦争関連の展示を行う博物館を見学したり、戦争関連の映画などを見たりしたそうです。そこで、それらの感想を述べてもらう機会を作り、私も知覧で見てきたことを話しました。
話を聞いた子どもたちは、もうすぐ自分の命がなくなる兵隊さんたちが、家族のことを想って手紙を書いていたことにびっくりしていました。そして、「もし自分だったら・・・」と思いをめぐらせていました。このような話を聞くだけでも、戦争のことについての関心が高まったのではないかと思っています。子どもたちにはぜひこれから自分の足で戦争の史跡などを訪ねてほしいと思っています。
私自身もこれからも機会を見つけて戦争の史跡を訪ね歩きたいと思っています。そしてできる限り、戦争を経験した方の話も聞いてみたいと考えています。
前の職場では、東京大空襲を経験された方が地域にいらっしゃり、子どもたちによく話をしに来てくださいました。図書のボランティアもされていたので、よくお話をさせていただきました。まずは、その方にもう一度お会いし、当時の様子についてお話を伺いに行きたいと思っています。
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菊池 健一(きくち けんいち)
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。
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