塙保己一翁の故郷を訪ねて
埼玉県の偉人として、よく次の3人が挙げられます。一人は昨年の大河ドラマの主人公にもなった日本の近代産業の父と言われる渋沢栄一、そして日本初の女性医師である荻野吟子、そして盲目でありながら国学の学者となり『群書類従』を編纂した、塙保己一です。
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当 菊池 健一
埼玉県の偉人「塙保己一」
塙保己一は、私が小学生のころ道徳の副読本に取り上げられていました。子どもながらに「目が見えなくなってしまったけれど、努力を重ねて偉い学者になった人」と思っており、目の不自由な方にお会いすると保己一翁について思い出していました。
しかし、その後にあまり保己一翁についての話を聴いたり本を読んだりする機会がなく、最近改めて埼玉県出身の偉人であったということを認識しました。来年には、映画も制作されるので、保己一翁の功績や生き方について改めて考えるきっかけになりそうな気がします。
私が小学校の教員になってから、担当する子どもたちに塙保己一の話をしたことは一度もありませんでした。道徳の副読本にも取り上げられていませんし、埼玉県の偉人とはいっても、勤務校のあるさいたま市から保己一翁の故郷である本庄市はかなり離れているのであまり話題になりませんでした。
しかし、体のハンデに負けず(時には負けそうになった時はあっても)努力を重ねること、そして子どもたちには、最後まであきらめずにがんばることを保己一翁から学んでほしいと思っています。そして、何よりも保己一翁を支えるいろんな方がいたからこそ、あれだけの実績が残せたということも知ってほしいと願いました。
授業の教材研究や打ち合わせの用事があり、久しぶりに保己一翁が生まれた本庄市を訪ねることになりました。そこで、塙保己一ゆかりの場所を訪ねてみることにしました。そして私自身保己一翁について改めて学びたいと思いました。
保己一翁の生家を訪ねて
これまでに埼玉県の本庄市の近くに来ることはよくありましたが、保己一の生家のある本庄に来るのは本当に久しぶりでした。
今回の訪問では、まずは保己一翁の生家に行ってみることにしました。駅から30分ほどの道です。令和の時代になりましたが、自然がたっぷりの風景と、遠くに見える赤城山も眺めながら歩くことができました。
生家が近づくにつれ、本で読んだ保己一翁の子どもの頃の様子が目に浮かんでくるようでした。きっと、保己一翁も目が見えなくなる前は、このあたりの風景を眺めていたのだろうと考えました。失明してから、ほおずきの色などをかすかに覚えている程度であると語っていた保己一翁ですが、子どものころにはこのあたりを歩き回っていたに違いありません。
生家の近くに来ると、
「保己一翁はこのあたりで子どものころに遊んでいたのかなあ…」
「江戸に出るときにはこの道を歩いたのだろうか…」
「保己一翁はどんな人柄だったのだろう…」
と、思いが高まってきました。
生家はかやぶきの家で、現在でも保己一翁の子孫の方が暮らしているそうです。生家を眺めていると、当時の様子が想像できます。保己一翁がどんな生活をしていたのか、これまで本を読んで知っていることと照らし合わせながら見学することができました。
そして、児童にもこの生家の様子を見せたいと思い、写真に収めました。写真を見せながら保己一翁のお話をしてあげたいと思っています。きっと児童も塙保己一という人物について興味をもつと思います。
保己一翁の史料館を訪ねて
次に、生家の近くにある「塙保己一記念館」を訪ねました。ここで一番見たかったのは保己一翁が母上様からもらった巾着袋です。保己一翁はその巾着を肌身離さずにずっと持っていたといいます。きっと母上との大切な、大切な思い出の品だったのだろうと思います。
保己一翁が、江戸に出てからうまくいかなくなり自殺を考えたことがあったそうです。その時に思いとどまらせたのがこの巾着です。実際に巾着を見てみると、本当に小さい巾着でした。しかし、ここに込められた愛は本当に大きく、本当に深いものだとしみじみ感じました。
そして、そのほかにも保己一翁が使っていた日用品や机などの展示物を見学しました。江戸時代の盲人の方が与えられる最高の地位である「検校」の位になられて、大名と同じような格式になったとはいえ、本当につつましい生活をされていたことにびっくりしました。塙保己一という人にさらに関心をもつことができました。
来年は塙保己一の映画が作られると聞きました。どのような映画になるのか楽しみです。きっと、埼玉県、いや全国で塙保己一翁のことを思い出す人が増えると思います。
来年度は塙保己一翁をテーマに道徳の授業、社会科の授業をやってみたいと考えています。そして児童には、自分が住んでいる県の偉人について知り、その生き方を自分の人生にも生かしていってほしいと思っています。これからも、塙保己一翁についての学習を私自身もしていきたいと考えています。
菊池 健一(きくち けんいち)
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。
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