2021.09.27
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作文力を形成する国語授業(9回)

書くことは高等技術です。とても難しいことです。身についた国語学力をすべて使うのが作文です。では、どのように指導していけばよいのでしょうか。今回は作文力についてお話しします。

木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴

【書くことは難しい】

みなさんは文章を書くことが得意ですか。「はい、得意です」と即答できる方は少ないのではないでしょうか。これを読んでいる方は学校の先生が多いと思います。私も数多くの先生に出会ってきましたが、「文章を書くことが得意」な先生は数人しか知りません。書くことを教える教師ですら、苦手としているのが書くことなのです。

国語の技能は大きく分類すると「話す」「聞く」「読む」「書く」となります。この中でも最も高度な技能が「書く」です。大人でも難しいのですから、子どもはなおさらです。先生方の学級には、書くことを苦手としている子はいませんか。いることが当たり前でしょう。それほど書くことは難しいことなのです。

私の師である植草学園大学名誉教授の野口芳宏先生は次のように仰います。

「書くことは国語学力の総決算である」

つまり、小学校で身につけた読字力、語彙力、文脈力をすべて使うのが書くことです。これを野口先生は作文力と言っています。作文を書く力が身についていれば、小学校の国語教育は成功したと言っていいでしょう。

【文章力に関する調査】

2016年に公益財団法人日本漢字能力検定協会が文章力に関するアンケート調査を行いました。これは企業の新入社員を対象として行ったものです。「論理的な文章力が社会人にとって重要と思うか」という問いに対して「思う」と回答したのは実に全体の97.6%です。書く技能が非常に重要視されていることが分かります。

そして次の問いは「現状自分に論理的な文章力が身についていると思うか」というものでした。さて、「思う」と回答したのは何%でしょうか。

調査結果は21.9%でした。つまり、新社会人のほとんどは、書く技能は大切だと思うが、身についていないと考えているということです。学校教育を修了しても、書くことに対して自信をもてない人が多いということです。

では、子どもはどうなのでしょうか。2020年に小中高の子どもがいる父親を対象にしたアンケート調査を株式会社立命が行っています。そこで「自分の子どもの文章力に不安がありますか」という問いに62.4%の父親が「ある」と回答しました。父親から見て、過半数以上の子どもは作文力が身についていないということが伺えます。

このようなことから、小学校段階から作文力を身につけるための指導が必要となってきます。では、どのように指導すればよいのでしょうか。

【作文指導の流れ】

それでは、具体例を示して作文指導の流れを解説します。私は今、5年生を担任しています。9月初旬に夏休みのことについて生活作文を書く授業を行いました。文章量は約1000文字です。そこでは大きく6つのステップで指導します。

⓵教師の作例を見る
書く活動をする場合は、必ず単元の導入で教師の作例を示します。私は音読して子どもに聞かせます。そうすることで、子どもはゴールイメージを明確にしたり、文章構成を理解したりできます。短い文章や、時間にゆとりがあるときは視写が有効です。文章を書き写すことで、内容・構成を理解しやすくなります。

②テーマを決める
ここから作文構成シートを使用して、学習していきます。シートには、それぞれ書くべき内容と、文章例を載せておきます。初めにテーマを決定します。テーマは「何について書くのか」です。「プールに行ったこと」よりも「プールに行って友達と仲良くなったこと」などと焦点をあてると書きやすいです。
 例 コロナ禍で成長したことについて

③書く内容を4つのブロックで考える
書く内容は大きく4つのブロックに分けます。これは岩下修先生の四段落構成作文の実践をもとにしています。

〇1ブロック
これは「はじめ」の部分です。これから自分が書く内容を簡単に説明する文章を書きます。
 例 コロナ禍をチャンスだと考えた。

〇2ブロック
これは「中1」の部分です。テーマに関係すること1つを書きます。それを2段落で、別の視点から書きます。
 例 オンラインが進み、タブレット学習ができるようになった。
   また、テレビ通話で遠くの人に会えるようになった。

〇3ブロック
これは「中2」の部分です。テーマについて何かもう1つ書きます。これも2段落です。
 例 家で過ごす時間が増え、読書時間が増えた。
   また、本を読むことで趣味が増えた。

〇4ブロック
これは「まとめ」の部分です。2、3ブロックで書いたことをまとめます。そして自分の考えを書きます。
 例 コロナ禍は、考え方でプラスにもマイナスにもなる。

④下書きをする
構成シートをもとに、実際の文章を書いてみます。1ブロック書くごとに教師に持ってこさせます。教師はそれを添削します。ちなみに私は、このとき鉛筆を使って修正します。赤ペンで直されることで、書く意欲を削いでしまわないためです。自分が一所懸命に書いた文章に、大きく赤ペンを入れられたら、私は嫌だからです。

⑤清書する
下書きが終わったら、原稿用紙に清書します。この段階では、教師は添削しません。野口芳宏先生は「作文は事前指導がすべてである」と仰います。私も清書させたあとに読んでいて、直しきれていないところを見つけるときがあります。しかし、見つけることができなかった教師の責任だとあきらめています。

⑥読み合う
出来上がったものは学級で読み合います。私は学級でまとめて、ホチキスでとじて一冊にすることが多いです。そして学級文庫に置いておくことで、いつでも読むことができる環境にしておきます。次回の作文への意欲向上につながります。

【どこに本質があるのか】

「うちのクラスの子は、本当に文が書けないよ」

こんな発言を聞いたことはありませんか。私は何度もあります。それを聞くたびに悲しい気持ちになります。先程も述べたとおり、「書く」というのは高等技術です。言語活動の中で最も難しいものです。子どもが書けないのは当たり前です。逆に尋ねたくなります。そう言っている先生は、大人を対象とした「作文」ができるのでしょうか。

でも、実際書くことを苦手としている子は多いです。何故でしょうか。それは「反復」が少ないからです。例えば、かけ算の九九は教材として扱うのは数時間です。しかし、それ以外の時間で何度も何度も練習します。それでやっと身につくのです。そして、それ以降の算数授業でも繰り返し、九九は使用していきます。反復しているから九九はできるようになるのです。

作文はどうでしょうか。教材として扱っている場面では指導しますが、他は夏休みの自由課題や、コンクールに出すときしか作文をしません。つまり、圧倒的に「反復」が少ないのです。だから、子どもたち、そして大人になっても書けないのです。

では作文力をつけるためにはどうしたらよいのでしょうか。それは「たくさん書かせること」です。今はこの記事を書かせていただいている私も、昔は書くことが大嫌いでした。それでも書き続けるうちに、型を知り、技を知り、書くことによって思考を広めることができるようになりました。いつしか書くことが大好きになっていました。私もまだまだ「書くことが得意」とは言えませんが、子どもたちに作文力をつけさせるために試行錯誤を繰り返しています。

というわけで、今回は作文力についてお話ししました。これで、私の国語教育についての連載は終了になります。私が書いたことが、少しでも先生方のお役に立つことができれば幸いです。ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。

山本 裕貴(やまもと ゆうき)

木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属

高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。

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