2021.09.16
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魅力的な学習課題への道程~6~「逆向き設計」論(第10回)

今回は、「逆向き設計」論について紹介させていただきます。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

「逆向き設計」論とは

「逆向き設計」論とは、G.ウィギンズ氏と、J.マクタイ氏(1998)によって提起され、「どんな設計についてであれ、理解をゴールとする設計の本質について、より意図的にかつ注意深く配慮する考え方」[i]という考え方に基づいている。また、この考え方は、「どんなカリキュラムであれ、生徒の理解(と一般的に求められている結果)をもたらす可能性を高めるようなカリキュラムを設計したり再設計したりする仕方」[ii]を提供していることから、奥村好美氏(2020)は、「育てたい子どもたちの姿を実現する可能性を高めるために何を考えるべきかという『枠組み』を提供しているのである。」[iii]と述べている。

従来、指導過程を考える際に、単元ごとに、その教材で「何を学ばせるか」の内容に重きを置き考えられてきた。例えば、東京書籍のホームページ[iv]には学習の系統が掲載されている。小学校3年生の文学教材『モチモチの木』での学習すべき内容としては、「感想や考えを持つ」とされている。多くの教師は、三読法(通読・精読・味読)の指導過程にのっとり、感想や考えをもたせるために中心人物である豆太の気持ちを読みとっていく。そして最後に、児童の理解を評価する鑑賞文や新聞を作成させて、本単元を終わるという流れをとっている。

「希望的観測」よりも「意図的設計」を行う

こういった「結果ではなく、内容に焦点を合わせた設計」をウィギンズ氏たちは、「意図的設計」というより「希望的観測」[v]であると捉えている。つまり、教材である『モチモチの木』をなぜ、児童が読むように求められているのか、という問いを把握していないまま授業が進行しているのである。そこでは、子どもたちは、「何のために」今その活動を行っているのか、「なぜ」その文学作品を読んでいるのかということを理解しないままに、「何となく」その授業を受けるという事態になる可能性もはらんでいる。そうなれば、本来、能動的であり、自ら意味を創造していく読書行為に対して、子どもたちはどんどん消極的になり、受け身になっていくことに繋がってしまう。

また、ウィギンズ氏たちは、教師側の指導法についても言及しており、「学習者が学習ゴールを達成するために何をしなくてはならないかについて、最初に考慮していない。むしろ、自分が何をするか、どんな題材を使うか、何を生徒に尋ねるかを第一に考えて、ほとんどの時間を使ってしまう。」[vi]と指摘している。そこでは、学年当初から単元を包括するような本質的な問いを持ち合わせずに、単元ごとの指導内容に焦点を当てているために「いくらかの内容と活動を壁に投げつけて、そのうちいくらかがくっつくことを望む」[vii]というような事態になってしまう。このことからウィギンズ氏たちは、「希望的観測」と述べているのである。従って、教師は、「希望的観測」ではなく、「意図的設計」を行っていかなければならない。

では、ここでいう「意図的設計」とは、どういうものか。ウィギンズ氏たちは、「設計を始める際に、求められている結果―優先される学習―をよりいっそう注意深く言明することを求めている。また、ゴールによって要請または暗示されているパフォーマンスから、カリキュラムを導き出すことを求めている。(中略=引用者)『どんな活動やテキストを使うにせよ、教室を出ていくときに彼らは何を理解しているべきなのか?』、そして『そのような能力を示す証拠は何か?』、さらに、したがって『そのような結果がもたらされる可能性を最大にするには、どんなテキスト、活動、方法を用いるべきなのか?』といった問いから始めることとなる。」[viii]と述べている。

この考えを西岡加名恵氏が端的にまとめている。西岡氏(2015)は、「『逆向き設計』論では、『①求められている結果(目標)』『②承認できる証拠(評価方法)』『③学習経験と指導(指導の進め方)』を三位一体のものとして計画することが提唱されている。通常、指導を行った後で考えられがちな評価方法を指導の前に考えておく点、また単元末・学年末・卒業時といった最終的な結果から遡って教育を設計する点から、『逆向き』と呼ばれている。」[ix]としている。

つまり、従来のように、三読法の指導過程にのっとり、内容を理解させたあとに、単元末の活動に移る。そして、市販のテストや出来上がった児童の作品をもとに評価方法を創出するというものではない。そうではなくて、単元を設計する際は、何が求められているのかという教育目標、そして児童がその目標を達成できたかどうかを承認できる証拠となる評価方法、目標を達成できるための学習経験と指導の計画という3段階で行うことが求められている。

以上が、「逆向き設計」論の概要である。まだまだ紹介しきれていない部分もあり、また、具体的な実践内容にまで踏み込めていないことが心残りではあるが、紙幅の関係で割愛させていただくことにする。

引用文献

[ix] 西岡加名恵『「逆向き設計」論に基づくパフォーマンス評価の進め方:言語活動の評価への応用可能性を探る(国語科授業づくりと言語活動のあり方-言語活動をどのように評価するか―シンポジウム)』全国大学国語教育学会『全国大学国語教育学会要旨集』第128巻、2015年5月、p.167

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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