2021.08.06
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1年間の実践記録(後半)(第8回)

今回は前回の続きの授業実践を紹介します。前回の続きで1年生を担任したときの1年間の実践記録を公開したいと思います。
前回は、具体的な流れとして授業のルーティン化までを紹介しましたので、今回は具体的な手立てとして話し合いの流れのルーティン化から紹介します。

明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治

3.具体的な手立て(話し合いの流れのルーティン化)

クラスの子どもたちの声や新たな科目でも始めたいという意見からも「子どもたち主体の授業」が、「主体的・対話的で深い学び」のうちの、学習しようと思えるという意味での「主体的」にはなれるという検証はできたと考える。
しかし、それが「深い学び」を誘う上で、効果的なのかは、検証できていない。私が授業をする上で、大切にしているのは、クラス全員の子どもが「主体的・対話的で深い学び」を実現することである。
つまり、クラス全員が「やらされている感」を醸し出しながら学習するのではなく、主体的に学ぼうとしており、その中で、他者と協働して学んだり、時には合意形成を図ったりしながら深く学んでいる姿がみたいわけである。では、ここでいう「深い学び」とは何なのか。

この疑問について一昨年の第4回日本授業UD学会全国大会(2018年9月一般社団法人日本授業UD学会)の中で上智大学の奈須正裕教授は次のように説明されている。
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・浅い学び:個々バラバラの学び、自分と無関係な学び
・深い学び:知識が相互に、また自分と意味的に関連づく学び
・精緻化(elaboration):既有の知識と、新たに学ぶ知識が関連づくこと
・深い学び=精緻化された知識を生み出す学び
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つまり、表面的で一元的な知識が、新たに学ぶことでその知識が多元的になっていくというイメージであると私は捉えた。では、知識を多元的にしていくにはどうするか。そこで重要になってくるのが「対話」である。前述したルーティン化された授業の流れに4人班で行う「グループトーク」という時間を設定している。このグループトークの行い方が「深い学び」になるかどうか大切になってくる。従って、何でもありのグループトークではなく、ここでも班のキャプテンが司会者となり用意された台本に沿って進める形でグループトークをルーティン化している。その流れは、

  1. 話し合いの目的の確認(何を今から話し合うのかをグループで共有する)
  2. 一人学びで考えたことを順に表現していく
  3. お尋ねタイム
  4. 意見に変容がないかを確認または意見の集約
  5. 拍手(自信をもたせるため)

というものである。
この中で、「深い学び」を誘うために、必ず班の友だちの意見に対して「お尋ね」をすることを約束している。
というのも、小学生という発達段階で「深い学び」を実現するには、他者の存在が必要不可欠だと考えるからである。つまり、他者からの働きかけ(お尋ね)があって、初めて「深い学び」になっていく(もちろん、その深さの程度はどうなんだという問題もあるのであるが……)。
校内の研究授業の事後研でも同じである。授業者に対して、「いやぁ、子どもたちとうまく空気をつくっていて良かったよ」や「話し合いがあんまりできていなかったね」などの感想を伝えるだけでは、なんの発展性もなく、それこそ「浅い学び」で虚しく時間が過ぎ去っていく。
それよりも、「~はどういう意図で仕組んだの?」「この場面ではこういう言葉の選択でもよかったのでは?」等々、大人バージョンの「お尋ね」をしていくことで授業者はもちろん、その一つの授業さえも奥行きのある深いものとなっていくのである。
従って、子どもたちなりの「お尋ね」を通して表面的で一元的であった考えに、深さをもたすことができると考えている。

また、このグループトークの流れをキャプテンである子はもちろん、クラスの全員がこの流れを把握し、理解しなければならない。そこで、1学期の段階からスモールステップとして、「好きな食べ物は何?」などの取り組みやすいテーマでのグループトークを練習してきた。
そして、相手の意見を探ろうとしているお尋ねをしたり、キャプテンのリーダーシップが良かったりしている班を取り上げて、みんなで良かったところを研究して、できることを増やしてきた。

学び合いの様子

4.手立ての結果

「子ども主体の授業」改善に取り組み出してから自分たちのこと(授業)は、自分たちで創っていくという気持ちをもった集団になりつつあったたといえる。検証結果を2つ示す。

まず、1つ目は写真をご覧いただきたい。これは、体育の授業の一場面である。この時間は各班に分かれ、ブリッジの練習に取り組んでいた。練習タイムにふと見てみると、班での子どもたちが、自分たちの班でブリッジができない子を教え、支えていたのである。それまでは、できないことがあると「先生、ちょっときてー」と言っていた1年生がである。「自分たちの授業は自分たちで創る」という意識が浸透した結果であると言える。

2つ目は、子どもたちに2学期末にとったアンケート結果である。この結果で一番高い数値を出したのが、「わたしは、かかりやとうばんのしごとを、すすんでしています。」の項目である。約95%の児童が「とてもがんばっている」と答えたのである。クラスの仕事を進んでする。これは、「自治的集団」に近づいた結果の一つの基準であるとも言えるだろう。残念ながら新型コロナウイルスの影響で学年末は急に休校になってしまったため、アンケートがとれず変容を確認できないまま終わってしまったが、1年間をともに過ごしてきた担任の感覚としては、更に数値が向上していたように思う。

5.結果からの考察

この2つの結果からも、「子ども主体の授業」をすることで、自分たちのクラスは自分たちで動かすという「自治的集団」に一定程度近づくことが分かった。これは、学校生活の大半の授業時間に子どもが主体となるようにと教師の意識を転換したこと、そして、何より子どもたち自身が「自分たちの授業は自分たちで創る」という意識の下、学校生活の大半を過ごしたことで、係活動や当番活動等の授業外の生活の仕方にもその意識が転用できたのではないかと考える。

6.まとめ

今回、自分たちで考えて、合意形成を図りながら集団生活をできる「自治的集団」であってほしいと願い、始めた、子どもたちによる子どもたち自身の為の「子ども主体の授業」を目指し、授業改善を行ってきた。授業自体を、そして、その授業の一部であるグループトークをルーティン化することで、子どもたち自身でも、授業を司会進行することができるようにした。その結果、子どもたちの姿やアンケート結果からも、「クラスのために進んで仕事を行う」という意識を持って、集団生活をする児童が多かったことが分かった。

しかし、同時に2つの課題も新たに見つかった。
1つ目は、学力の問題である。この授業形態をとることで、子どもたちの意欲を喚起し、授業自体も主体的に受けられるようになった。では、それがどう学力向上に繋がっているのかという検証がまだ不十分である。私たち教師は授業を提供する以上、そこに学力を向上させなければならない。意欲だけ上がり、学力が低下するのであれば本末転倒の手立てになってしまう。
2つ目は、係活動や当番活動以外での活動、つまり、子ども間で問題が生じた時の解決の仕方や合意形成の図り方等は、自治的になっていたのかという部分も、まだ私の感覚的なものであり具体的には検証できていない。
この2つを今後、検証していけるようデータをとっていき、更に改善し、日々目の前の子どもたちの未来の為に、実践していきたい。

川上 健治(かわかみ けんじ)

明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。

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