2021.03.12
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「Lifelong Learner」を育てるー「楽しい」授業で力を伸ばしたいー(No.8)

今回の連載では、生徒の「学ぶことは楽しい」という気持ちを大切にしたいという原点に立ち返り、学校の授業を通して少しでも「生涯を通して学び続けることの大切さ」や「勉強することの楽しさ」を実現させるためにはどうしたら良いかということを考えてきました。
特に評価方法に焦点を当ててお話してきましたが、改めて生徒の声をふまえながら効果的な授業方法についてまとめていきたいと思います。

小平市立小平第五中学校 主幹教諭 熊井 直子

学期や年度の最後に授業評価アンケートをとることの意味

私はいつも、学期や年度の最後に授業評価アンケートを行います。
アンケート項目はその時々で変えていますが、毎回必ず聞いているのは

①1年間の国語の授業を通してどんな力がついたと考えますか。
②これからの国語の授業でさらにどんな力を伸ばしたいと考えますか。
③国語の授業でこんなことがしてほしいということがあれば書いてください。

の3点です。

特に、学年を持ち上がる時などは、②と③を参考にしながら次年度の授業を考えたりもします。今回は③の項目で今年度特に回答が多かった4点をご紹介します。

1.単元の流れが見えてわかりやすかったので続けて欲しい。

前回の記事でも紹介した「振り返りカード」のように、私の授業では、単元の目標や流れ、評価基準を生徒に明示します。手順としては以下の通りです。

①単元のはじめに「単元の目標」を提示し、これまで学習してきたこととのつながりを説明する。
②場合によっては何時間構成でこの単元を学習するか、各時間の目標や学習の流れを説明する。
③適宜目標や流れを確認しながら授業を進める。
④単元の評価を行う前(主に一番最後の時間)に、これまで学習してきたことの振り返りと課題の評価基準を説明する。

こうした内容は、口で説明するだけでなく、使用するプリントに記載して配布していますが、アンケートの回答でも「流れが見えたことが良かった」というものがありました。

よく、「頭のいい生徒には先が見えてしまうことが逆効果なのでは」「何を答えれば良いのかが先にわかってしまうのでは」という声もあります。しかし、全員に単元の目標を達成させることを目指して授業を行っているので、流れを示しただけで目標が達成できるのであればその生徒にはさらにその上を目指せるような声掛けや支援をしていけば良いと考えています。また、生徒たちにとって、国語は9つある教科の中の1つでしかありません。他の教科にも学習時間を割かなければならない生徒にとって、学習の見通しをもたせる工夫を行うことは、負担を軽減し、学習の効率化を図る効果があると思います。

2.他の人と話す時間があると、飽きないし、合っているか確認もできて良い。

私が授業でどのように対話を取り入れているかについては、「『主体的対話的で深い学び』を支える言語スキル」のシリーズの中でご紹介したので詳細は割愛しますが、授業で行う対話のポイントは次の2点です。

①近くの2人組や3人組で、短時間で話す時間を作る。
②話し合いのメンバーを固定せず、毎回変える。

今年度は新型コロナウィルスの影響で話し合い活動をいつものように行うことはできなかったのですが、1人で考えたあとに考えたことを周りの人と共有するという時間をとることは行っていました。また、ずっと座って話を聞いたり1人で考えたりしているだけだとストレスがたまってしまうので、時々「席を立って動いてもいいよ」と言って、自分が話したい人と話す時間を作ったり、作文を書く時にも「机を移動させてもいいよ」と言って、困った時にはすぐ周りの友達と話せる雰囲気を作ったりしました。このような自由な形にするときには、学級の人間関係には十分注意しています。今はやらないほうがいいなと思うときには行いません。中にはいつも1人で作業を進める生徒も出てきますが、「1人でやった方が効率がいいなと思う人はそれでもいいよ」と言って、適宜声をかけながら見回るので「この時間が苦痛だった」という回答はありませんでした。

このような「自由に移動」「好きな人と相談しながら」という形式は、私が2016年にフィンランドの学校を見学しにいった時に見つけた手法のひとつです。フィンランドの学校の授業では「ストレスを感じさせない」ということを大切にしているので、全員が一斉に話を聞く時間と場所を移動して自由に自分の作業を進める時間とが授業の中で確保されていました(高校生にもなると、教室を出てパソコン室や図書室、教室の外のベンチ等で作業を進める生徒もいます)。

今回のアンケートの回答でも「他の人と話す時間があった方が良い」という声が多かったので、集団の人間関係には気を配りつつも、こうした自由な時間をできるだけ作ることの大切さを感じました。

3.ゲーム等をして遊びながら覚えたい。

この点については言わずもがなだとは思うのですが、遊びの要素を求める声も非常に多かったです。準備に時間がかかるのでいつもはできないのですが、できる時にはゲームを取り入れて授業をしています。今年度新たに取り入れてみて面白かったのは次の2点です。

①部首カルタ

部首が印刷されたカードを用意し、教員は「穀物を表すのぎへん」「心を表すりっしんべん」などと部首が意味しているものと部首の名前を読み上げる、というカルタです。だんだん覚えてくると「心を表す……」と言っただけで取れるようになります。これは1学期に実施したゲームですが、この直後に行われた漢字検定を受検した生徒は、「漢字の部首」の分野で高得点を取っているものが多く、効果を感じました。

②イラストつなぎゲーム

幼児がひらがなやものの名前を覚える時に使うイラストカードと、接続詞カードをそれぞれ用意します。接続詞カードをひとり4枚ずつ配ります。ランダムに2枚ひいたイラストカードを手持ちの接続詞カードでうまくつなげて文章をつくることができたらOK、というゲーム。これは接続詞(接続語)の働きを学習する際の導入として行いましたが、何のイラストが出てくるかわからない意外性があるところに楽しんでいる生徒が多く、どの接続詞が使いづらかったか、それはなぜか、などを考えるきっかけになりました。

4.問題演習がしたい。

2や3のようにリラックスしたり、遊んだりしたいという気持ちは、「その方が授業に集中できたり暗記が楽になったりやる気が起きたりするから」。つまり、生徒は単純に「楽がしたい」のではなく、「力をつけたい」という気持ちが根本的にはあります。その気持ちが一番表れている回答が、この「問題演習がしたい」だなぁと思いました。

特に、国語の力がどの程度身に付いたかは、初めて読む文章をどのくらい理解できるかでしか測ることができません。一度読んだ教科書の問題を改めて解くことにも「理解を深める」という点では意味がありますが、初見の文章で力試しがしたいという気持ちが生徒にはあるのだなということがこの回答から伝わってきました。

今年度は、正進社の「読み方レスキュー」というプリント教材を使用して時々問題演習を行っていたので、「このプリントが良かった」という回答もありました(この教材は「精読」の力を上げるには非常に良いと私も思います)。が、もう少し長い文章での問題演習を取り入れても良いのかなと考えています。

おわりに

このように、生徒にアンケートをとってみると授業の参考になるのでおすすめです。そして、今回ご紹介した回答からも、生徒たちは「力を伸ばしたい」と思っていることが伝わってきます。また、今年度の授業実践からも「リラックス」「ゲーム性」を取り入れることも生徒の力を効果的に引き出すひとつの方法であることがわかります。

これまでできなかったことができるようになること、わからなかったことがわかるようになることは、うれしいですし、楽しいことでもあります。学習とは本来このような「うれしい」「楽しい」ものであるべきだと思います。そのような生徒の学びを実現し、学校を卒業しても「じゃあ次は何に挑戦してみようかな!?」とわくわくする気持ちを持ち続けられるようにするためにも、教員には授業の方法だけでなく、評価方法の工夫が求められているのではないでしょうか。

熊井 直子(くまい なおこ)

小平市立小平第五中学校 主幹教諭
英語もできる国語の先生を目指しています。2016年度に1年間フィンランドの高校で国語の授業を研究していました。英語教育に力の入る今だからこそ母国語教育のあり方を今一度よく考える必要があるのではないかと考えています。

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