前回は、「要約」とはどういったものなのかという大きなイメージを子どもたちにまずは、もってもらうことについて紹介させて頂きました。今回は、その続きで、実際に、子どもたちとどう要約を作っていくのかの具体的な実践を紹介させて頂きます。
1.文章構造を意識させた「要点」指導から
前回にも書きましたが、要約とは、極端な話、各段落の要点を組み合わせたものが要約になります。例えば、①から④段落の文章だと「①+②+③+④の要点=要約」となります。だからこそ、まずは「要点」を書けなければ、その次の要約にも手が届きません。ですので、まずは、要点から書かせます。ここは、どれだけ授業時数が足らなくても省いてはいけないところです。要点指導をする際は、よく「大事な言葉(キーワード)にアンダーラインを引く」という指導があります。ここで、気をつけなければいけないのは、文章構造までを俯瞰的にみる視点です。その段落だけの大事な言葉を探していては、何が大事なのか、どの言葉がキーワードになっているのか分かりにくくなってきます。ですから、文章構造を理解しながら要点もおさえていくことが肝要です。
例えば、本文の1段落と2段落を抜粋します。
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2020年に東京で開かれたオリンピックとパラリンピック。
オリンピックが4年に一度開かれる世界的なスポーツの祭典であることは、みなさんもよく知っていることでしょう。東京で開かれたのは1964年以来二度目となり、多くの人によるじゅんびが行われてきました。(『新しい国語 三下』.東京書籍,P10.11)
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さて、この1段落と2段落の要点は何でしょう。私は、要点を書かせる際は、文末だけ「~について」と型を決めて書かせます。まずは、1段落。これは、「オリンピックとパラリンピック(の紹介)について」程度でいいのではないでしょうか。ここを変にこねくり回して難しい印象を与えるより、さらっと流して、「ね。できるでしょ」と不安に思っている子に自信を与えてあげればいいと思います。
そして、2段落。2段落だけをみていたら、例えば、「多くの人によるじゅんびが行われてきたことについて」という誤答がでてくるかもしれません。確かに、この段落だけをみると、「多くの人がかかわっているんだな~」と感想をもった子は、この部分がキーワードと思い、ここに線を引く気持ちも分かります。しかし、先に述べた文章構造を理解しておけば、この捉えの違いにも気が付くはずです。というのも、1段落では、「オリンピックとパラリンピックを今から紹介していくんだよ~」という筆者のメッセージがあり、それを「オリンピックとパラリンピック(の紹介)について」として要点をまとめました。それがあっての2段落です。「オリンピックとパラリンピックを今から紹介していくんだよ~」の次にくるのはやはり「オリンピックってね…」という「オリンピックの説明」ではないでしょうか。だから、2段落の要点の最低合格ラインとしては「オリンピックの説明について」です。
もう少しレベルの高い子向けには、
私:オリンピックってどんなものなの?
児童:4年に1度開かれる世界的なスポーツの祭典
私:2段落はあくまでオリンピックの説明について書かれているから、文末は「オリンピックの説明について」じゃなきゃだめだよね。じゃ言葉の順番入れ替え作れる?
児童:分かった。「4年に1度開かれる世界的なスポーツの祭典であるオリンピックについて」でいいんだ。
私:そう書けたらより分かりやすいよね。
というやり取りをします。ここで、再度自分の力で書かせることが大事です。こういうのは、頭で理解できても「書く力」にはつながりません。必ず、自分の手で書くという時間をとる必要があります。この時間をとることで、より正しいものを書きたいという子どもたちの心理上、「オリンピックの説明について」とだけ書いている子も、よりよい解答を目指して自分の力で書きます。
2.要約は基準を明確に
今回は文章全体の要約の練習も兼ねて、文章全体の要約の前に「はじめ・中・終わり」の3つの要約も書かせていきました。ここでは「はじめ」の要約の部分を紹介します。
「はじめ」の要約と言っても、基本は同じです。はじめは1~4段落でできていますので、基本4つの要点を組み合わせるという仕方です。ただ、それは、先にも書きましたが「極端な話」です。厳密に言うとそんな簡単な話ではありません。では、どうするか。ここでも、大事になってくるのは文章構造の意識です。1~4段落の中でも強弱をつけていく必要があります。そもそもこの文章の題名は「パラリンピックが目指すもの」です。オリンピックではなく「パラリンピック」なのです。ですから、1~4段落の中でも「オリンピックについての段落」<「パラリンピックについての段落」となるわけです。
要約をさせる前に、そこの強弱をつけなければならないことをまずはおさえます。そうすると、2段落はオリンピックの話題ですので、ここをメインに書いていてはダメです。
次に、字数を制限させます。これをしなければ子どもたちはゴールが見えずに、際限なく書かないといけないという意識になります。すると、書く必要がない細かな情報まで書いてしまい、結局「本文と何が変わるの?」という要約が出来上がってしまいます。では、字数はどう決めるのか。それは、教師があらかじめ自力で書いてみて決めればよいのです。私は、今回必要な情報を含め自力で書くと100字程度でおさまったので、子どもたちにも「100字程度」という条件を出しました。
要約指導をするときは、何を書くべきなのかの判断基準、そして、それらを書かせるにはどれくらいの分量が必要なのかを明確に教えることで、次にも活かせる「知識・技能」になるのではないでしょうか。
川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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