2020.08.15
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発達障害のある子どもへの支援の実際(NO.5「こだわりの強い子どもたちへの対応のヒント」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

前回までにお話しした「キレやすい」という特性と「こだわりが強い」という特性は、表面上は異なって見えるものの、似ているところがあります。活動のエネルギーや処理能力のキャパシティを超えた場合に、極端な形として表現されることが多いからです。

では、こだわりが特定の子どもや大人がもっているものかというと、決してそうではありません。誰もが一つや二つ、こだわるものをもっていると思います。それに、こだわりをネガティブに捉えると扱いが難しいものになるかもしれませんが、こだわりがあるからこそ生活の質が上がったり、仕事の成果が大きくなったりすることが期待できるのです。

ただ、膨大な情報の中で様々な期待に応えながら生活していくことは、我々大人であっても簡単なことではありません。ときに息が詰まりそうになったり、相手に合わせることに我慢の限界を感じたりすることもあるでしょう。ですから、こだわりの強さを目立った形で表現しない子どもであっても、内面では困っている場合があるかもしれないのです。こだわりの強い子どもたちと関わるときには、周囲の子どもたちの悩みや困惑にも思いを寄せて、関わっていってほしいと思います。

「こだわり」が感じられる場面

「こだわり」は様々な場面で見られます。物事の手順やスケジュールが予定通りにならないと戸惑う、物の置き場所や並べ順にこだわることなどは、よく知られた例です。その他、衣類にこだわりをもち、同じ洋服しか着られない子どももいます。ぬいぐるみやタオルを、擦り切れるまで持ち続ける子どもは珍しくありません。味へのこだわりがあり、給食のような不慣れな味の食物を食べられないこともあります。

さらに、自分の考えにこだわることもあり、話しかけに応じるときに「でも」「だって」と言い返す姿が見られることがあります。自分の考えをゴリ押しするような話し方をする子どももいます。空気が読めないとか、暗黙のルールを理解しにくいといわれることもあります。そのため、人との関わり方はあまり上手ではないようです。関わりたいという思いも、それぞれの子どもによって異なっているように感じます。

ある子どもは、冬の寒い時期であっても、外套を羽織らないで登校してきました。私は寒さに強いのだろうと思っていたところ、保護者からこだわりが強くてコートを着てくれないという悩みを打ち明けられました。

また、別の子どもは、どんなに時間がないときであっても、おやつに食べると決めたクッキーを食べ終わらないと、習い事などには向かえないということでした。私はその子に、あるときマフラーをかけてやったことがあったのですが、そのやり方が違うからとやり直しをさせられた経験もあります。何でも、自分の決めた通りにすることから、抜け出せないでいるように感じました。

対応のヒント

お互いが気持ちよく関わっていくために、まず始めにこだわりをもちたい点について、子どもと一緒に確認していくことをお勧めします。そして、自分自身で完結するようなこだわりに対しては、見て見ぬ振りをしてもいいというカテゴリーに分類しておきます。例えば、机の上に何かを出しておかないと気が済まないといった場合、それが周囲の子ども達に大きな影響を与えないのであれば、見過ごしてもいいのです。完璧な姿を求めることは、好ましいことではありません。

ただ、周囲への影響が大きいとか、本人に大きな不利益があると考えられるような場合には、説得することも必要になります。話し合いの中で折衷案を出すことも大切です。程度や時間を決めることで、互いの求める点を明確にするのです。こだわりがあったとしても、ある程度は我慢する力も必要ですから、話し合いを通してどこまで折り合いをつけられるかを確認していくことも大切だと思います。

また、食事に関することは成長期の子どもにとっては重要な問題となりかねませんので、給食を十分に食べられないようなときには、保護者と話し合いをしていきましょう。お弁当などで対応することも可能だと思います。

漫画をご覧ください。こだわりの強い子ども達に対して、学校でできることのひとつはスケジュールに関することです。これからどんなことを行うのかを伝え、見通しをもたせましょう。予め知っていると、安心して活動することができるからです。その際、声に出して説明するだけではなく、時系列を書いて示すとか、図や絵を使ってわかりやすくしておくと効果的です。残り時間をコールすることも、時間を守らせるためには必要なことです。

これは、取り立てて珍しい支援ではありません。耳からの情報だけでは理解しにくい子ども達のためにも、必要不可欠のものだからです。それに、スケジュールなどを音声だけで説明されても、聞き逃したり忘れてしまったりすることは想定内のことです。ユニバーサルデザインを意識した支援を心がけていきましょう。

漫画には描かれていませんが、指導する上で見逃しやすいのは、作文などの学習へのこだわりです。書き出しは、「ぼくは」でなければならないと思い込んでいるような子どももいますし、何から書き始めていいのかを戸惑う子どももいます。「なんでもいいから、書いてごらん」という課題が、最も苦手だと感じる子どもは少なくありません。同様のことは図工などの課題でも見られます。具体的に示すことで安心感を与え、モチベーションを上げることができることも覚えておいてほしいと思います。

一方、こだわりの強さを、よい方向に生かすやり方もあります。窓をキレイに拭こうとするこだわりを認められて、仕事が充実したという例をテレビニュースで目にしたこともありました。欠点と見える特性でも、それを生かすこともできるのです。

最後に、こだわりを周囲が受け止めきれずに、いじめに発展してしまうことも考えておかなければなりません。目立ったこだわりがあったとしても、誰もが異なる存在であり尊重し合う関係をつくらなければならないと思えるような子どもに育てていく必要があるのです。どんなときであっても、子どもたちの言動には注意を払い、誰もが穏やかな気持ちで学校生活が送れるよう見守っていってほしいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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