2020.07.23
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発達障害のある子どもへの支援の実際(NO.4「キレやすい子どもたちの実例」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

キレやすい子どもと接するには

「キレる」という言葉から、皆さんはどのような姿を思い浮かべられるでしょうか。

暴言を吐く、泣きわめく、イライラする、暴力を振るうなど、火山が爆発するようにエネルギーが一度に放出される様は人それぞれに思い起こされることがあると思います。そして、誰もが「キレる」という経験をもっていると思います。ですから、キレることに対してイメージをもったり共感を寄せたりしやすいはずなのです。しかし、キレやすい子どもたちの、些細なことへの反応の大きさに、周囲は戸惑ってしまうことが多いようです。自分が精神的にいっぱいいっぱいになっているときには、それを察して優しくしてほしいと思うのに、キレやすい子どもに対しては寛容になりきれない自分を感じるのは、私だけではないでしょう。

彼らは、自分ができないことにイライラしてしまうのかもしれません。自信がないのかもしれないのです。また、刺激を強く受け取りやすいタイプなのかもしれません。

今回は、具体的な姿を通して、どのように接していけばいいのかについて考えるきっかけにしてほしいと思います。私の体験や同僚たちから話、書籍からの情報などを元に子どもの姿を描いていますが、特定の人物ではないことをあらかじめお断りしておきます。

A君の場合

A君は、キレてしまうと2時間くらいは立ち直ることができず、周囲からも手が掛かると思われているような子どもでした。自己肯定感も自尊感情も低く見えました。しかし、みんなが窮地に立たされるようなときには、それを打開できるようなアイディアを出せる良さがあったのです。空気が読めない弱点が、逆に表現するときの勇気に変わった例です。

子ども祭りの準備をしていたとき、男子がふざけたりサボったりしていて、担任が子ども達を叱ったことがありました。子ども祭りに参加するのをやめるべきだとも伝えました。その膠着した空気の中で、「もう一回頑張るしかないだろ?」と発言することで、みんなのやる気を引き出したのがA君でした。

思春期に入りかけの時期ですと、そういった発言によって周囲から「カッコつけている」と思われるのが嫌で、躊躇することが多いものです。しかし、きっぱりと言い切る勇気があったせいか、A君は友達からも一目置かれるようになっていきました。彼の良さが認められていくうちに自信もついてきて、卒業のころには、「自分はもう大丈夫」という気持ちになっていったようです。

B子さんの場合

B子さんには、自分に自信がない場面では、すぐにキレて不貞腐れたりどこかに行ってしまったりするようなところがありました。とくに不器用さが目立ってしまう図工の時間には、戸惑う様子が頻繁に見られました。それで、少しでも不安な表情があるときには真っ先に声を掛けたり、糊付けなどを手伝ったりしました。それでもイライラが収まらないときには全く関係のない話をして、気を紛らわせることができるように仕向けることもありました。

B子さんと出会ったのは、彼女が高学年に差し掛かったころだったので、友達の前で印象の悪い姿を見せることがないように配慮した例です。こういったやり方を、「甘やかしている」と捉えることは不適切だと思います。実際、数ヶ月もするとイライラすることが激減し、友達との関係も改善していったのです。適切な場面で、適切な分量を支援すること、子どもをよく観察して答えを出していくことの大切さを感じた出会いでした。

C君の場合

C君はキレるとブツブツと文句を言いながら歩き回ることがあり、ドッジボールなどで負けると友達に暴言を浴びせるような激しい面ももち合わせていました。

あるとき、担任は周囲の子どもたちが理不尽な思いをしていることを可哀想に思い、「C君のことは、しばらく放っておいたらどうですか?」と、教師としては不適切と思われるような提案をしたことがありました。しかし、落ち着いているときには愛嬌のあるC君を、友達は見放しませんでした。どんなに暴言を吐かれても、彼らは友達関係を崩すようなことをしなかったのです。友達の支えもあって、C君は次第に落ち着いた気持ちを維持できるようになっていきました。

残念なことに、C君を取り巻いていたような優しい子ども達の集団には、なかなか出会うことができません。彼らは、稀有な存在であったと思います。そして、私に本当の優しさを教えてくれた存在だったとも思っています。

D君の場合

最後にD君の例を挙げておきます。キレやすい子ども達の中には、物を破壊してしまったり友達に暴力をふるってしまったりする子どももいます。D君はそんなタイプの中の一人でした。物を弁償で済む話ならまだしも、相手に怪我を負わせるようなことがあると、問題は深刻なものになってしまいます。どのようにして、大きな問題を引き起こさないように対応していくのか、周囲にいる大人の腕の見せ所でしょう。

さて、一向に暴力の収まらないD君を担任したときに、ある保護者から、「先生は指導をしていないのですか? それともD君の保護者に弱みでも握られているのですか?」という厳しい苦情をもらったことがありました。今でも当時を思い出すと涙が出そうになります。毎日毎日、どうやったらこの現状を打開できるかと試行錯誤を繰り返して努力しても、周囲に理解してもらうのは難しいのです。そして、教師の努力は、直ぐに実を結ぶとは限りません。

キレる子どもたち全てに言えることですが、特に暴力的な行為が発生しやすい場合は、それをどのようにしたら避けることができるかを、よく観察して見つけ出すことが必要だと思います。キレるときには、必ず前兆があるのです。パターンも決まっていることが多いように感じます。同じようなシチュエーションは起きたとき、そして子どもの表情に変化が見られたときには、すぐにキレるエネルギーを逃す(のがす)対応をしましょう。

私はよく、D君にお手伝いを頼んだり、教室を離れるような作業に誘ったりしました。いつも上手くいったということではありませんし、担任が授業を中断せざるをえない状況を作ることが好ましいとは思っていません。学校にはたいていSOSカードというものがあって、教室で緊急事態が起きたときには、それを活用することがあります。そのカードを子どもに頼んで、近くの大人に持って行ってもらうのです。そうすると手の空いた教職員が駆けつけてくれるという仕組みです。D君を担任したときにも、多くの職員に助けられました。また、学習指導員を配置してもらって、補佐してもらった時期もあります。

まとめ

全ての子ども達に対して、私たち教師は何らかの働きかけを行っています。その対応をより有効なものにするために、普段から保護者と信頼関係を築き、自分の思いや指導について理解してもらう機会をもっていってほしいと思います。マグマのように溜まっていくネガティブなエネルギーは、疲れやすいときにこそ爆発に繋がるからです。家庭での生活が、学校生活での感情コントロールを左右すると言っても言い過ぎではないのです。また、保護者の皆さんには、教師を責めるだけではなく、どうしたら教育環境がよりよいものになるのかを考え、支援していってほしいと願っています。

最後に、教育的な力で改善が見られない場合には、専門機関と連携することをお勧めします。学校では、子ども達を支援するための組織化が進んでいますが、教師が一人で抱え込まないことが大切だということを強調しておきたいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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