2021.01.31
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

発達障害のある子どもへの支援の実際「小さなつまずきのある子どもたち(LD)」(NO.15)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

学習障害(LD;Learning Disability)といわれる困難さを抱えた子どもたちがいます。学習するにあたって大きな遅れがないのに、ある部分だけに苦手さが強く出る場合には、学習障害を疑ってみるといいかもしれません。しかし、これまでお話ししてきたように、これは程度の差こそあれ誰もがもっている特性ということができます。ただ、困難さが大きいときには適切な支援が必要ですから、WISC(ウイスク)などの検査を受けることをお勧めします。スクールカウンセラーに相談されたり、自治体が設置している相談窓口を利用されたりするといいと思います。

さて、これからお話ししていくのは、これまで同様、私が通常学級で見かけた子どもたちをベースにしています。もっと詳しく知りたい方は、ぜひ専門書をお読みください。

聞くのが苦手な子ども

文章を読んだ方が内容を理解しやすい、資料もない中で説明されると意味を捉えにくいといった経験は、誰もがもっていると思います。説明者のスキルにも左右されるからです。しかし、説明者が様々な努力をしても伝わりにくい場合、聞くことに困難さを抱えているのかもしれません。

授業中は、いうまでもなく「説明」という時間が多く盛り込まれます。そして、その中には膨大な情報が散りばめられています。教師は聞くことだけでは困難な子どもが、クラスの中には必ず存在することを意識して、画像や図・絵などを提示しながら理解しやすいように説明することが絶対に必要です。しかし、そうであっても理解できない子どもたちはいます。理解力に課題がある場合もありますが、聞くことそのものに困難さを抱えている子どももいるのです。

私が関わった子どもの中にも、極端に聞くことの苦手さを抱えた子どもがいて、それを前の学年の担任が見逃していたために不登校になりかけたことがありました。保護者にその経緯を伝えたところ、「なぜもっと早く気付いてくれなかったのか」と言われてしまいました。担任や関わりのある教師が感覚を研ぎ澄ませていないと気付くことが難しいかもしれませんが、子どもを観察する目を磨くことを忘れないでいたいと思います。

話すのが苦手な子ども

極端に不安感や緊張感が高かったり表現に自信がなかったりすると、誰であっても話すことに消極的になってしまいます。しかし、相手との関係に慣れてくれば、その苦手さはいくらか解消されていきます。それが上手く解消されず、常に話すことに困難さを抱える場合には、支援が必要になってきます。

学校では、低学年から説明ができる子どもを育てるために、様々な工夫が行われています。例えば、例文を示す、話し方の型を示すなどです。定型文を覚えさせ、それを活用できるように仕向けていけば、ある程度の改善が見られるようになります。

私が関わった子どもの一人は、初めのうちは何を言っているのかさっぱりわからないという感じでした。ところが、何度も例文に沿った説明を繰り返すうちに、話す要点がはっきりし、順序立てることも得意になっていきました。

「普通に生活していれば、話せるようになる」というのは、少し違うのかもしれません。「おしゃべり」と「話す」ことの間には、差があることを覚えていてほしいと思います。

読むのが苦手な子ども

説明してもらえると分かるけど、資料を読んだだけでは理解できないこともよくあります。また、読みそのものが苦手なこともあります。情報を目よりも耳からから得ることの方が得意な子どもたちです。しかし、読むことがとても苦手な場合には、支援をしていってほしいと思います。

国語の教科書には、「総ルビ入り」(全ての漢字に読み仮名が振ってあるもの)が作られていることがあります。また、文節の間に空間をとって書き示している「分かち書き」のスタイルがある場合があります。子どもの読みの力に合わせて、そういった教材を活用することも大切です。

もし手段を講じても、内容を理解できない場合には、読み聞かせをする必要があるかもしれません。テストなどでは、問題文を読めないために、分かっていることも回答できないことがあります。

私は中学生のときに、宮澤賢治の「雨ニモマケズ」を読んだときに、カタカナの文字列が何を語っているのかをほとんど理解できませんでした。カタカナや漢字に抵抗のある子ども達は、珍しくありません。

書くのが苦手な子ども

漢字の形が取れない。図形を読み取ったり描いたりすることができない、地図が読めないなどの困難さを抱えることもあります。いくら教えても、漢字の横画が一本多いとか、グラフを読み取れないとかといった様子が子どもに見られたときには、なぜそういった状態なのかを専門家と相談すべきだと思います。

私たちは、物を見て形を捉え、色を感知しています。しかし、それが全員一致していると、証明することはできません。赤を赤と呼ぶときであっても、赤という色の認知が一致しているかどうかは疑問です。

ですから、この認知の部分に不具合があるとすれば、専門家の見立てが必要なのです。ひとつには、視力の問題です。メガネで調節することによって、改善が測られる場合があります。また、眼球の動きなどに困難さがある場合には、ビジョントレーニングなども効果的だと聞きます。カラー印刷ではなくて、白黒印刷の方が認知しやすいという話は、以前にもお伝えしたと思います。

そのような方法を取るまでもないときには、漢字の学習の際に大きく書き示すようにするとか、平仮名などを大きく書いた床の上を歩かせてみるとか、工夫をしていくといいでしょう。大きく書くということ、からだ全体を使うことは、何よりの助けになります。

計算が苦手な子ども

算数を教えていて感じるのは、数に対する強さや弱さは人それぞれだということです。同じように教えても直ぐに理解できる子どももいますし、理解させるまでに繰り返し説明を要する子どももいます。説明をかなりの回数繰り返しても、全く理解できない場合もあります。

私が受けもった子どもの中には、読み書きは得意なのに、算数だけは全くできない子どもがいました。若いころの話なので、その子どもの生活の中には、数が存在していないのかと疑ったこともあります。今では冗談のような思い出ですが、子どもが生活する中で、トランプをしてみるとか、カルタをして枚数を数えてみるとか、お箸を並べる際に数を把握させてみるといったことは、とても大事なのだと思います。

文字を学んだり数を数えたりすることを、小学校の授業で初めて出会うのでは困るのです。早期知的教育をしてほしいと申し上げているのではありません。文字や数に慣れ親しんだ後で、学ぶ必要があることの大切さに気づいていただければ嬉しいです。

推論が苦手な子ども

どういう手順で考えたり仕事したりすればいいのかわからない、優先順位を決められないということもよくあることです。見通しをもつ、予想を立てる、応用を利かせるなどなど、求められることは多く水準も高まっていくのに、追いつけないことがあります。

子どもたちが学習の中で、そういった困難さを抱えるときには、丁寧に説明すること、見通しをもてるような示し方を工夫するなどの支援が必要になります。


様々書いてきましたが、正解はありません。子ども一人一人の課題は、他の子どもと全く同じということはないからです。子どもの様子を観察し、子どもに合った支援を試行錯誤していってほしいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

同じテーマの執筆者
  • 松井 恵子

    兵庫県公立小学校勤務

  • 松森 靖行

    大阪府公立小学校教諭

  • 鈴木 邦明

    帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師

  • 川村幸久

    大阪市立堀江小学校 主幹教諭
    (大阪教育大学大学院 教育学研究科 保健体育 修士課程 2年)

  • 髙橋 三郎

    福生市立福生第七小学校 ことばの教室 主任教諭 博士(教育学)公認心理師 臨床発達心理士

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop