新学期に教師が心がけること
新学期が始まり、教師にとって子どもたちとの新たな出会いがありました。始業式では、校長先生が話している間にぴょんぴょん跳んでしまう子どもや、おしゃべりが止まらない子どもを目にしました。極端に目立たなくても、体がしょっちゅう動いてしまう子どもたちもいました。そんな子どもたちと、教室で出会い、教科の学習で出会ったとき、私たちには何ができるのでしょうか。
特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子
経験から子どものイメージを決めつけない
同僚の教師と話をしていると、教師は経験を基に子どもをイメージしがちだと気付かされます。以前にかかわった子どもの様子と似ているから、同じタイプの子どもだろうと思い込むことが多いのです。もちろん、それは悪いことばかりではありません。授業中に何度注意してもおしゃべりを止められない子どもに対して、経験を基にかかわり方を工夫しようとすることには意味があるからです。しかし、子どもたちは、一人一人異なる存在です。経験則から判断できないこともたくさんあります。
例えば、学習が困難でパニックを起こす子どもがいるときに、「あの子は、何を言っても理解ができない」と思い込み、積極的な指導をやめてしまうとしたら、それは大きな間違いではないでしょうか。また、何度言葉を掛けても反応が薄い子どもを、「何も考えていない」と決めつけることも問題だと思うのです。
予習型で解決できた例
課題ができないとパニックを起こすAさんは、周囲の教師から「手のつけられない子ども」と表現されることさえありました。確かに、算数の問題を解けないときなどは、大声で泣き叫んでしまい、何を言っても受け付けないことがあったのです。でも、関わっていくうちに、解けない自分が悔しいのだという気持ちが伝わってくるようになりました。自分はダメなのではないかという不安が先立って、パニックという形で表現されていることも分かってきました。
そこで、保護者と面談を重ね、予習型の学習をお願いしました。家庭で、学校よりひと足先に勉強してくるのです。その結果、幸いなことに授業でのパニックが減っていきました。もちろん、何もかもが解決したわけではありません。しかし、少しずつ自信が付いていっているのが分かりました。
それに加えて、何より素晴らしいと思ったのは、周囲の子どもたちの反応でした。「Aさんは、できるようになるまで頑張ろうとするから泣いちゃうんだよね」と、Aさんの努力を褒めてくれるようになったのです。また、私より何倍も優しく、Aさんに教えてくれるようになりました。それによって、Aさんの学力は上がっていったと思います。
子どもたちから解決方法を引き出す
あるとき、同僚が私を評して、「チューニングが上手いのよ」と言ってくれたことがありました。その表現に、私はとても癒されたのを覚えています。
私はどのようなタイプの子どもであっても、必ずどこかで繋がれると信じて教師を続けてきました。そのためには、子どもが教師に合わせるのではなく、教師が子どもに合わせる必要があるのです。クラスで教えるときにはクラスの学力や個性に合わせて、個人と関わるときには個人の個性に合わせてチューニングするのです。そうすることによって、何の反応もないと思っていた子どもたちからも、話しかけられるようになります。子どもたちとの信頼関係ができてくるのです。
そして、信頼関係ができた子どもたちから、その子どもの課題に対する解決のヒントが寄せられるようになります。前述したAさんの例も、Aさんの様子からヒントを得ることができました。それ以外の例であっても、子どもたちは、私たちに解決の糸口を見つけるアドバイスをしてくれることがあります。それを見逃さないように、子どもと関わっていきたいものです。
慌てることなく一歩一歩
新学期が始まってしばらくは、教師も子どもも、互いに理解し合おうとして探り合うことが多いため、見た目以上に疲労していると思います。ですから、一度に理解しようと思わず、夏休み前を目標に頑張っていきましょう。一日一日を積み上げていくことができれば、しっかりとした土台ができると思います。
荒畑 美貴子(あらはた みきこ)
特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com
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