2022.02.14
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学校での心理検査を考える(後編)

新型コロナウイルス感染症で休校や分散登校など、きっとこの記事をお読みの先生方もその対応に追われてお忙しいことと思います。「子どもの学びを止めない」ということも大切ですが、急な休校や行事変更などで不安を抱える「子どもの心のケア」も大切にしていきたいですね。 前回は心理検査についてお話をしてきました。後編の今回は「その活用について」を話していくことができたらと思っています。よろしくお願い致します。

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭 丸山 裕也

心理検査を活かすには①

苦手にアプローチしていくことを考える。

お昼休みを伝える四コマ(筆者が実際に生徒に使用したメモ)

WISC-Ⅳ(ウィスクフォー)等の検査を行うと、FSIQだけでなく、それぞれの指標の数値からその子の苦手なことや、得意なことがわかってくることがあります。
前半でもお伝えしました通り、WISC-Ⅳでは「言語理解指標(VCI)」「知覚推理指標(PRI)」「ワーキングメモリー指標(WMI)」「処理速度指標(PSI)」の4つの指標を基にしていきます。

この記事をお読みの貴方が、自分のクラスの生徒に対してWISC-Ⅳを行った、もしくは行った検査の結果を読む機会があったとします。
するとその中でA君という子が「ワーキングメモリー指標(WMI)が他の指標と比較して低い」ということがわかりました。
「ワーキングメモリー」とは、「見たり聞いたりした情報を一時的に記憶しておく能力のことであり、その 情報を適切に処理して、適切に利用する力」だといわれています。この指標が低いということはどのようなことが考えられるでしょうか?

例えば「2つの事柄を覚えることが苦手」ということがあるかもしれません。
貴方が「お昼休みに封筒を職員室の○○先生に届けてください」とA君に頼んだとします。ところが、A君はすでにお昼休みに友達と遊ぶ約束をしています。
A君は「昼休みに友達と遊んでから、職員室に届ければいいや」と考えるかもしれませんね。

さて、昼休み。A君は元気に友達とサッカーをして楽しんでいます。サッカーの試合はとても白熱しました。大盛り上がりです。A君はシュートも入れて、この日のMVPになりました。
昼休みが終わり教室に戻ってきました。大活躍だったA君はニコニコ顔で教室に戻ってきます。
そんなA君に担任の貴方が「封筒は○○先生に渡してくれましたか?」と尋ねます。
するとA君はハッとした表情でこう言います。「アッ!忘れてた」

この時に「WISCの検査結果からワーキングメモリーに苦手さがあるかもしれない」ということがわかっていると、何かしらの手立てを考えることができますね。
例えばこんな支援はどうでしょうか。

これは市販されている4コマのノートを使って、実際にワーキングメモリーに困難さのある生徒にお昼休みのスケジュールを示したものです。
この4コマを見た生徒は、①給食を食べる→②友達とサッカーをする→③職員室の○○先生に封筒を渡す→④封筒を渡したことを担任の先生に教えるーーという流れを理解することができます。
検査結果から「これは苦手かもしれない」と予測されることにアプローチをすることで、「苦手なことを苦手なままにしない」ことができるのではないでしょうか。
もちろん、絵と文字で伝える四コマから、文字だけで伝えること、自分でメモを取れるようになることなど、段々とステップアップしていくことができるようになるといいですね。

心理検査を活かすには②

得意なことにも目を向けて。

グラフを文字で補足をする(言語理解指標が高い場合)

さて、先ほどと同じように自分のクラスの生徒に対してWISC-Ⅳを行った、もしくは行った検査の結果を読む機会があったとします。

するとその中でBさんという子が「言語理解指標(VCI)が他の指標と比較して高い」ということがわかりました。
「言語理解指標」とは、簡単に説明をすると言葉の意味やその内容、言葉の性質を考える力や、語彙の知識、言葉を通して培われる社会的ルールやマナー、言語情報に基づく推理を反映する指標と言われています。

「言語理解指標」が高いということは、もしかすると、Bさんは「ことば」というツールが一番理解しやすいのかもしれません。
表やグラフで説明するときは、赤字の文章のように「言葉で補足する」ことで、理解がしやすくなるかもしれません。
もちろん、段々と情報を自分で書いてまとめられるようになっていけばいいですよね。

心理検査を活かすには③

結果だけを鵜呑みにしない

ここまで、A君、Bさんの例をあげて検査結果を基に、「苦手なことを苦手のままにせず、良さを伸ばしていきましょう」というお話をしました。
そして検査結果からは、確かに「〇〇が苦手だろう。××が得意だろう」ということは予想ができそうです。今回の二つの例も、そのように説明をしてきました。
しかしながら、子どもたちの実態は本当に様々で、その子が抱える困難さも様々です。それらを把握していくためには、担任の先生をはじめとする、先生方のきめ細かい様子の観察や実態把握が必要不可欠になってきます。
検査結果で「ワーキングメモリー」が低いA君は、「タブレットのアプリでスケジュールを組むことで、実は全然困ってない」ということもあるかもしれません。
検査結果で「言語理解指標」が高いBさんは、実は「文字よりもグラフを読むことが好き。将来は科学者になりたいから、グラフや表を覚えたい」と願っているかもしれません。

検査結果はあくまでも、その子のほんの一面を把握するためのツールです。それだけを鵜呑みにして支援をするのではなく、普段の様子やその子の願いなどと合わせて、支援に向けての手立てを考えていきたいですね。

丸山 裕也(まるやま ゆうや)

信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
公認心理師、学校心理士、障害者スポーツ指導員(初級)、福祉用具専門相談員
「あした、またがっこうでね。」と、子どもも教師も伝え合うことができるような、楽しい学級づくりを目指しています。また、障害のある子どもたちの心の健康について、教育と心理の二面からアプローチしていく方法を考えています。
特別支援学校で出会ってきた子どもたちとの学びを、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。


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