2020.06.13
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発達障害のある子どもへの支援の実際(NO.1)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

この連載を書こうと思ったきっかけ

学校現場で発達障害についての研修が始まり、私がADHDとかLDという言葉に初めて接したのは、今から25年ほど前だったと思います。これらの名称のアルファベットの並びに、一体何を意味するのだろうと、とても不安に思ったことを覚えています。

それからときが過ぎ、発達障害への理解は確実に深まっていると感じますが、とても残念なことに、偏見がなくなったわけではありません。発達障害のあるお子さんを持つ保護者との面談では、周囲の人たちからの心ない言葉に傷ついたという経験をうかがうことも度々あります。また、先生たちの発達障害のある子どもたちへの関わり方は上手になってきたとはいえ、十分とはいえない実態も見聞きします。しかし、そんな中でも発達障害のある子どもの割合は、通常学級では確実に増えているようにも感じます。それは、多くの専門家や教師が感じていることと一致します。

そのような中で私は、小学校の通常学級や通級指導学級での経験と、R.シュタイナーから学んで実践してきたことについて、次の世代に伝えていかなければならないと思い始めました。それを若い先生たちが生かし、発展させていってくれることを願うからです。

また、発達障害のあるお子さんを抱えていらっしゃる保護者の皆さん、周囲に発達障害のお子さんがいらっしゃる方、教育に関心をおもちの方にも、有効な情報をお伝えしていくことによって、社会が誰もが暮らしやすい優しいものになってほしいとも願っています。

ただ、シュタイナーの考え方の裏側には、スピリチュアルな要素を含んでおり、なじみの薄い方もいらっしゃると思います。スピリチュアルなことだからと否定的な見方をするのではなく、彼が本当に伝えたかった事柄を、咀嚼してお伝えできるように努力していこうと思いますので、どうぞお読みください。

今回のシリーズも、漫画家の「まつやま登」さんに漫画イラストをお願いしています。二人三脚で頑張っていこうと思いますので、よろしくお願いいたします。

R.シュタイナーの人間の捉え方をのぞいてみましょう!

私たちの多くは、誕生から死までを固有の人生と捉えています。確かに、例えば「佐藤花子」と名付けられた、AさんとB子さんの間に生まれた子どもの人生は、誕生から死までということができるでしょう。

しかし、私たちの魂は不滅であり、何度も生まれ変わると考える人たちもいます。シュタイナーは、この輪廻転生の考えもとに人間の一生を捉えた一人でした。「私たち教師が子どもたちを迎え入れるときには、その魂が生まれる前にいた世界での教育を引き継がなければならない」「次に生まれ変わってくるときのことを視野に入れなければならない」といったことを繰り返し述べています。

その考え方に加えて特徴的なのは、人間を肉体とエーテル体、アストラル体、自我から構成されていると考えたことです。これは、シュタイナーによって紹介されたために広く知れ渡っていますが、もっと古くに考えられ、伝えられてきたことといわれます。

図Aをご覧ください。このように鉱物、植物、動物、人間と並べると理解しやすくなります。

私たちの肉体は、鉱物や植物、動物と同様に地球上の物質からできています。その肉体に命を与えるのがエーテル体と呼ばれるものです。体といっても、物質的なものではありません。オーラが見える人たちにとっては、エーテル体は肉体を取り巻き、肉体の輪郭を超えた大きさであるといわれます。このエーテル体を、私たちは植物や動物と共有します。

次に、命ある肉体に動きを与え、感覚をもたらし、感情を与えるものが、アストラル体と呼ばれるものです。これは、動物と共有する部分です。

そして最後に、人間を人間たらしめているもの、個性として表現される元になっているものが自我です。自我は、輪廻転生を信じない方や、唯物的な考え方を主張する方であってもなじみのあるものだと思います。スピリチュアルな考え方をする人たちは、アストラル体と自我を合わせて「魂」と表現することがあります。

自動車と運転手にたとえると

私はこの考えを皆さんに強要するものではありません。ただ、考えるヒントにしてほしいと思っています。そこで、人間がこのような4つの部分から成っているというイメージを、より分かりやすくするために、自動車と運転手にたとえてみたいと思います。

図Bをご覧ください。まず、車のボディが肉体です。車は便利な乗り物であっても、エンジンをかけ、誰かが運転しなければ、地面に落ちている石と変わりありません。ですから、車を活用しようとするなら、誰かがエンジンをかけなければなりません。エンジンをかけることによって、車が動く状態にするのがエーテル体の働きです。

次に、車は走るために、周囲の安全を確認しなければなりません。そのために、人が乗車します。目で見たり、音を聞き取ったりして安全を確認することは、アストラル体の働きにたとえることができます。情報を得ることで心が動くのもアストラル体の働きです。

最後に、運転手はどこに行くのかを考え、車を走らせます。何をしようか、どこに行こうかと考えるものが、自我ということになります。

私たちは誕生と共に、命をもった肉体を得ます。そして、命を維持させるために、栄養を得ようとします。また、感覚器官を発達させて周囲を感じ取ろうとします。ただ、そこまでの存在であるならば動物と変わりなくなってしまいます。本能のままに生きるのであれば、動物との区別がなくなってしまうからです。人間が人間として生きるためには、そこに学びが必要となるのです。倫理的に正しく、道徳的な言動をしていくために、学んでいかなければなりません。そして、体も心も成長させていくのです。

自動車と運転手のイメージには、「成長」や「学び」の視点が欠けています。運転手である自我が、この世界で生きていくために、自分の身体をふさわしいものとして成長させていく、変化させていくことができるということを覚えておいてください。

次回は、このイメージを元に、発達障害をどのように捉えていくのかについて話を進めていく予定です。そして3回目からは、具体的な子どもの様子に対して、どのような関わり方や指導が有効なのかについて、お伝えしていきます。

【参考】
R.シュタイナーは、オーストリアやドイツなどで活躍した教育者として知られます。
現在、世界中にシュタイナー学校が作られ、シュタイナーの考え方(神智学)に共感する人たちも数多く存在します。

【参考文献】 
『治療教育講義』(筑摩書房、ルドルフ・シュタイナー著、高橋巖 訳)
『オックスフォード教育講座』(イザラ書房、シュタイナー講演録、新田義之訳
『ルドルフ・シュタイナー教育講座 1教育の基礎としての ─教育の基礎として一般人間学』(筑摩書房、ルドルフ・シュタイナー 原作 、高橋巖 訳)
など

イラスト:まつやま登

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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