子どもの行動
「椅子に座らず、床に寝てしまう」「唾を吐いてしまう」「わざと先生を怒らせるようなことをする」
私たちは子どもたちの特別な行動を見るとついつい「不思議な行動」や「困った行動」と決めつけてしまうことはありませんか?
それは本当に「不思議な行動」「困った行動」なのでしょうか。
「なんで子どもがそんな行動をするのか」ということは、私にもまだまだ分かりません。それでも、とても大切なことなので考えることはしていきたいですね。
今回は「子どもの行動」に焦点を当てて一緒に考えてみたいと思います。宜しくお願いいたします。
信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭 丸山 裕也
見る人によって変わること
私たちが「変だな」ととらえていることは、実はその当事者にとっては大切な行動であることもあります。
実は「この行動をしないと、気持ちが悪いんだ。もやもやするんだ」と心の中では思っているかもしれません。
ところがその気持ちがうまく私たちに伝わらないとき、その行動は私たちの眼には「変な行動」として映ってしまうことがあります。
私たちは無意識のうちに、これまで学んできたことや、自分の人生経験、価値観など、自分が持っているフィルターで物事をとらえています。
このフィルターが子どもたちの行動を見る時にも当然働いているわけですね。
「違和感」のバックグラウンドには何があるのか。
私たちが感じる「違和感」のバックグラウンドには何があるのでしょうか。
時期を少し過ぎてしまいましたが、キノコを例に考えてみたいと思います。
世の中にあるキノコのうち、その詳しい生態がわかっているのはごく一部だそうです。
これまで食用とされてきたキノコであっても、実は後で毒があるとわかったものもあり、それは決して珍しいことではないそうです。
スーパーで売っているあるキノコを見た時に「これはおいしそうだ。このキノコを買って、鍋に入れて食べたいな」と思うのは、これまでの経験で、「スーパーで売っているキノコに毒はなくて安全で、美味しい」ということを体験的に知っているからではないでしょうか。
ところが、これが全く同じ形でも山にはえているキノコを見た時に、同じように「鍋に入れて食べたい」と思うでしょうか。
きっと「このキノコ、見たことがあるけど、食べられるのだろうか?」と考えるのではないでしょうか。そして脳裏にはニュースなどで流れた「毒キノコで中毒」の文字が駆け巡っていることでしょう。
私たちは自分の思っている以上に、これまでの経験に左右されて生きています。
そんな中で過ごしている私達ですから、当然、自分の経験や体験に当てはまらないことは「違和感」を感じてしまうわけです。
では、そんな私たちは「子どもの行動」をどのようにとらえていけばいのでしょうか。
三項随伴性で考える。
三項随伴性と聞くと、とても難しく聞こえるかもしれません。
先行条件(A)、行動(B)後続条件(C)のこの3つの枠組みから、子どもたちの行動をとらえることを三項随伴性と言い、この仕組みを利用したものにABC分析というものがあります。
例にして考えてみましょう。
「ある子が、公園に行くと、必ず唾を吐く。その姿を見て先生が怒る」
この場合、先行条件(A)は何でしょうか?
もし、プールに行っても唾を吐かず、体育館に行っても吐かず、公園でだけ唾を吐くのであれば、これは「公園に行く」ということが先行条件(A)になっている可能性がありますね。
先行条件(A)の「公園に行くこと」をやめると、問題であった行動もなくなるかもしれません。
ところが、これでは公園に行くことができなくなってしまいますね。それは困るかもしれません。
それでは後続条件(C)を考えてみましょう。後続条件はどうでしょうか。
この場合は「唾を吐く」という「行動(B)」を見て、「先生が怒る」ということが後続条件(C)であるかもしれませんね。
例えば、この「唾を吐く」という行動がその子にとっての「注意獲得行動」であるとき、この行動をすることで怒られると、それがうれしくなって更に「唾を吐く」ようになりますね。
であれば、この後続条件(B)を変える。つまり「怒らない」ということが効果を示す可能性はあるかもしれません。
行動の特徴を「正確に」、「誰が聞いてもわかるように」とらえる。
先ほどの例をもとに考えてみましょう。
「ある子が、公園に行くと、必ず唾を吐く」
これだと、どのくらいその行為が起こっているのか、聞いた人によってとらえ方が違うかもしれません。
どのくらい、起こるのでしょう。1回唾を吐いておしまいなのか、それとも10回も20回も唾を吐いているのか。
どんな時にその行動が起こるのでしょう。
公園に行くといつでも起こるのでしょうか、一定の時にのみ起こるのでしょうか。季節で変わることもあるのでしょうか。お腹がすいていると起こるのでしょうか。
学校で見ている姿は子どもの生活の一部です。実は家庭でも起きているかもしれません。
もしかすると、別の先生と公園に行くとしないのかもしれません。様々な可能性がありますね。
そういった様子は担任一人ではすべてをカバーすることはできません。つまりチームで連絡を取り合ってアプローチしていく必要がありますね。
「子どもの行動」の特徴は「正しく」そして、「誰が聞いてもわかる」ように情報を整理していくことが大切だと私は考えています。
それでもわからないことも、当然あります。
いろいろ情報を集めてみても、検討をしてみても、それでもわからないこともたくさんあります。
その行動をしていても許されるのであれば、無理に辞めさせる必要はないかもしれません。もしくは別の行動を提案してみてもいいかもしれません。
でも「どうしてもその行動の背景に何があるのかを知りたい」、そんな時は…。
私は一緒にその行動をしてみることも検討しています。
クラスのある子とのかかわりの中で、冬以外の季節、その子はいつも床に寝そべっていました。床は固いので布団やいぐさのマットを用意しても、頑なとしてそれを受け入れません。
私が「床は固いから、こっちにおいでよ」といっても、「行かない」と話していました。
ある時、私も一緒になってその子の横で床に寝そべってみました。
すると…、夏場はなかなか涼しくて快適なんですね。確かに固いし、決してきれいではないのですが、床のひんやりとした涼しさはなかなか快適でした。
私は「床は固くて心地悪いだろう」と勝手に思い込んでいたのですね。
さて、今回は「子どもの行動」について考えてみました。
冒頭にも申し上げました通り、その行動は子どもにとって大切なことかもしれません。
「やめなさい」と言ってしまうのは簡単ですが、その行動の背景に何があるかを一緒に考えていきたいですね。
丸山 裕也(まるやま ゆうや)
信州大学教育学部附属特別支援学校 教諭
公認心理師、学校心理士、障害者スポーツ指導員(初級)、福祉用具専門相談員
「あした、またがっこうでね。」と、子どもも教師も伝え合うことができるような、楽しい学級づくりを目指しています。また、障害のある子どもたちの心の健康について、教育と心理の二面からアプローチしていく方法を考えています。
特別支援学校で出会ってきた子どもたちとの学びを、皆さんにお伝えしていきたいと思っています。
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