深い学びを誘う大前提条件(第2回)
前回は、私のぶれない軸である「自治的集団」にする意義について書かせていただきました。学校教育で行われる結果の質を上げるには、人間関係を構築し、学級を最高のチームである自治的集団にしなければならない。そして、学級がチームになれば、自ずと結果も変わってくるという内容です。
今回は、クラスを「自治的集団(チーム)」にしていくためのいくつかの手立てを紹介しています。
明石市立錦が丘小学校 教諭 川上 健治
どうやったら最高のチームである自治的集団にしていけるのか
今回は、「では、どうやったら最高のチームである自治的集団にしていけるのか」という具体的な手立てを紹介します。念のために書きますが、私自身のクラスも毎年毎年、自治的集団を作れてはいません。もっというと、一度も作れたことはありません(笑)。けれども、毎年、あらゆる手立てを施し、作ろうとはしています。そんな手立ての一部を紹介できればと思います。
まずは学級をチームにするために、最初にしなければならない手立ては、「ルールの確立」だと思っています。これはさまざまな学級経営本にも書かれていることですが、私自身そこまで重要視をしていませんでした。というのも、今までは、そこまで意識しなくとも、ある程度で一応はなんとかなっていた(と思っていた)からです。しかし、ある年に少ししんどい学年を担任した際、いつも通り何となくルールを曖昧にしながら4月を迎えてしまったことがありました。すると、なかなか、学級での活動が軌道に乗らず、残りの数か月、学級経営がかなりしんどい思いをしたことがあります。問題が起きればルールを作り、確認していき、また起きれば……というように「もぐら叩き」状態になってしまいました。そんな経験をしたからこそ、翌年から、4月の段階でよりルールの定着化を意識するようになりました。そこで、私はこの時期に3つのルールを定着させたいと思っています。
学級をチームにするための3つのルール
その3つとは、Ⅰ.仲間、Ⅱ.聴き方、Ⅲ.挨拶ーーです。
もちろん、他にも挙げれば山のようにありますが、ルールで縛りすぎても、反発を招く材料になる可能性を含んでいますし、一気に多くのルールは定着せず、教師も何のルールを作ったか分からなくなるからです。では、なぜこの3つなのか。理由は2つです。
1つ目は、この3つは、子どもたちが社会に出て、組織で仕事をする上でも必要不可欠なものだと考えるからです。
2つ目は、前回の記事で紹介したマズローの5段階欲求から考えると生理的欲求の次にくるのは、安全欲求です。この安全欲求を4月のなるべく早い段階から確保していくことは、社会的欲求や承認欲求を満たし、学級をチームにしていくには、非常に重要なことです。また、Googleが行った研究でも、生産性を上げられる組織は、「何を言っても大丈夫」という心理的安全が確保されているというデータも出ています。具体的に仲間を大切にすることとは、裏を返せば仲間の心も身体も傷つけないということです。また、仲間の話をしっかり聴くというのも、やはり、仲間を大切にすることにつながります。
最後の「挨拶」も、人と人とがつながる最初は挨拶というコミュニケーションだからです。これらのことについて合言葉を作りながら子どもたちにも説明し、なるべく早くに浸透をさせ、クラスを子どもたちの安心できる場として整えていきます。
チームを育てる16の条件
次に、日常生活を行う上での手立てです。そこで、1冊の本を紹介します。それは、組織開発ファシリテーターの長尾彰さんが書かれた『今いる仲間でうまくいくチームの話』です。そのその中に「チームを育てる16の条件」というものが紹介されていました。
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① 一人では達成できない ②全員で協力せざるを得ない ③メンバー同士の共有化 ④対話をする ⑤制限(時間、道具)がある ⑥「テーマを実感できる」 ⑦行動の理由が明確になっている ⑧省察がある ⑨ゴールが明確になっている ⑩目標とレベルを決められる ⑪再チャレンジ可能 ⑫理想と現実のギャップが分かる ⑬参考にできる事例が少ない ⑭達成できるかどうか分からない ⑮レベルが調整できる ⑯フロー体験ができる
(長尾彰『今いる仲間でうまくいくチームの話』学研プラス 2019.8.p48)
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これを全て満たさなければいけないというのではなく、この中の一つでも多く満たされることで、チームが育つと述べられています。
学校でできる、4つのプロジェクト
それでは、これらを学校教育に置き換えて考えるとどうなるでしょう。
1.全員で取り組むプロジェクト
・長縄チャレンジ(ギネス記録が1分間に225回なので、そのあたりを参考に子どもの実態に合わせ回数を設定する)
・毎日、全員完食する。
・毎日、全員発表する。
私のクラスでは、全員で取り組むことをこの3つに絞り、できた回数を黒板に書き、可視化していています。あまり多くても指導が行きわたらなかったり、途中で挫折したりしてしまうので、私はこの3つが丁度いいように思います。この「全員」で取り組むことで、上の16項目の①「一人では達成できない」こと、②「全員で協力せざるを得ない」ことの条件に当てはまります。全員で取り組ませることには賛否ありますが、「チーム」にする上では、やはり「全員」に拘りたいと思います。
もちろん、給食など無理は禁物です。
(私のクラスでは、減らしたい子は自分で減らしてもいいようにしています。最後に残った量を分け分けして、完食するという形です。「一人で1㎏食べるのは無理だけど30人で割ったら30gだけでいいんだよ」というようなことも伝えています)
が、全員だからこそ、一人では出来ないことが出来るようになるということもあると思います。
2.一人一役プロジェクト
これは、実践されている多くの先生方を参考に今年度から取り入れてみました。簡単に言うと、係活動を全員に毎日行うようにさせることです。今までは、各係には所属していたものの、週に1回、ひどいときは月に1回くらいしか仕事がなかったり、珍しく仕事をしても、すぐに片付いてしまったりして、中々、係活動でクラスへの貢献を感じさせてやれませんでした。その課題を取り除くために、全員が少しずつでもいいので、毎日決められた仕事を行うことにしました。
例えば、施錠係や励まし係など毎日できそうな係もクラスの人数分を私が作って子どもたちに提示しました。今までは、係活動はクラス文化を豊かにするためのものだと捉え、子どもから出た係を作っていました。しかし、それでは、上に書いたように毎日仕事をしなくても良い係が存在してしまい形骸化してしまいます。子どもから出た「やらない、できない」が存在する可能性のある係か、私が提示するが毎日確実にできる係か、どちらがいいかを天秤にかけたところやはり後者でした。私から提示した数ある係の中から、何の係をするかを最終的に選択するのは子どもたちなので自己選択もできています。
そして、毎日の仕事が終われば、名札をひっくり返すことで、誰がまだ終わっていないかもすぐに分かります。このプロジェクトをすることで、16項目の中の⑤「制限がある」や⑦「行動する理由が明確になっている」を満たしています。また、クラスを動かすために、一人ひとりの力がなかったら成り立たない、裏を返せば、「自分が働くことでクラスが成り立っている」という承認欲求にもつながる活動です。
3.クラスミーティングプロジェクト
私のクラスでは、学級活動の時間にクラスミーティングを行っています。また、クラスミーティングではありませんが、ミニクラスミーティングとして、朝の会の代わりに「モーニングミーティング」を行っています。クラスミーティングの方法については、上越教育大学大学院教授の赤坂真二先生の著書『赤坂版「クラス会議」完全マニュアル 人とつながって生きる子どもを育てる』(ほんの森出版 , 2014/1/10)に詳しく書かれていますのでそちらをご覧いただけたらと思い、今回は割愛させて頂きます。
このクラスミーティングをすることは、16項目の中の④「対話をする」や⑧「省察をする」、⑩「目標とレベルを決められる」などの条件を満たしています。また、サークルになって話し合いを重ねることで、社会的欲求である、「ありのままの自分を受け入れてくれるという所属感」も得られるものだと思います。
4.サイコロトーキング
私のクラスではモーニングミーティングで「サイコロトーキング」のプログラムを入れています。サイコロトーキングは一昔前の「ライオンのごきげんよう」という番組を参考にしています。出た目によってトークテーマが決まっているものです。例えば、1の目が出たら「ドラえもんにお願いするとしたら何をお願いする?」や2の目がでたら「最近面白かったこと」を話すといった感じです。これは、前日の日番がサイコロをふり、次の日番が翌日までに考え、朝に話します。これは、16項目の中の③「メンバー同士の共有化」や⑭「達成できるかどうか分からない」を満たしています。
まとめ
川上 健治(かわかみ けんじ)
明石市立錦が丘小学校 教諭
クラスの全員が楽しく学び合い「分かる・できる」ことを目指して日々授業を考えています。また、様々な土台となる学級経営も大切にしています。
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