2021.07.30
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コロナ禍での職場体験

今回はコロナ禍での職場体験について書きたいと思います。
コロナ禍は職場体験の意味を改めて問いかけているように思えてなりません。

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任) 酒井 淳平

コロナ禍でも実施できる職場体験とは

職場体験とは生徒が職場で働くことを通じて、職業や仕事の実際について体験したり、働く人々と接したりする学習活動です。今ではほとんどの中学校で行われています。
特に中学校における職場体験は、小学校での街探検や職場見学などから、高校でのインターンシップなどへと体験活動を系統的につなげていくという意味においても重要な役割を持っています。

職場体験は、生徒が直接働く人と接することにより学ぶことの意義や働くことの意義を理解するという点からも、また生徒が主体的に進路を選択決定する態度や意志・意欲などを培うという点からも重要な意味を持っています。
職場体験の意義については文科省のページにも詳しくまとめられています。

こんなに大事な職場体験ですが、コロナ禍で実施が難しくなっています。たしかに生徒を受け入れてもらえる状況ではないというのは紛れもない事実でしょう。しかし、本当に中止にするだけでいいのでしょうか。私は、職場体験を生徒が職場を訪問する形で実施するか、または全く実施しないかの2択で考えることこそが間違っているのではないかと思います。

コロナ禍でも生徒にとって、働くことの意義を理解することや働いている大人との出会いなどが大切なことは変わりません。コロナ禍の中でこうした大切なことをどうやって実現するか、これを考えることが今こそ重要なのではないでしょうか。
生徒が職場に訪問することはできなくても、働くことの意義の理解、働いている大人との出会い、職業理解などを達成するために実施できることはあります。
今回はその一例としてコロナ禍でも実施できる職場体験として、『アクティブ10 ミライのしごとーく』というテレビ番組を紹介したいと思います。

ミライのしごとーく

『ミライのしごとーく』とは、NHKのEテレ(水曜日・午後3:30~3:40)で放送されている、仕事の「やりがい」と「未来」を考えるキャリア教育番組です。

「将来どんな仕事がしたい?」。
そんなこと言われても、先のことすぎて現実味がないし、どんな仕事があるかもよく分からない。「そもそも、働くのって楽しいの?」、多くの中学生や高校生が抱える悩みです。
『ミライのしごとーく』は、この悩みに答える番組です。番組は前編と後編の2部構成で、前編は「仕事の楽しみ・やりがい」、後編は「これからの仕事に求められる力」がテーマです。毎回ゲストが3名登場して仕事について語ります。
たとえばプロスポーツの仕事をテーマにした番組ではプロサッカーチームのコーチ、運営担当、プロモーション担当の3人がゲストとして登場します。3名のゲストが前編ではそれぞれの仕事ならではのやりがいや悩みを、後編ではプロサッカー業界の課題について語ります。日本と世界の差、もっと地域密着にすること、将来はこのようにしたいという夢など。最後にはこの業界に向いている人はどんな人かということも語られます。

『ミライのしごとーく』は前編・後編ともに10分でまとまっていること、インターネット上で視聴できること、指導案やワークシートが用意されていることも大きな特徴です。
教員の立場で考えると、特別な準備をすることなく、それなりのレベルの授業が実施できるのです。私自身この番組を実際にキャリア教育授業で活用しましたが、「なんとなくスポーツ業界」と思っている生徒たちが仕事について深く理解できたのはもちろん、スポーツとは縁遠い生活を送っている生徒たちも、「こういう形でスポーツ業界とかかわることもできるのか」ということや、「自分はどのような仕事がしたいのだろう」などと考えていて、大変有意義な時間になりました。

コロナ禍だからこそ、“何のために”を問う

「何のために職場体験を実施するのか」。職場体験が多くの学校で実施され、定着する過程で、この問いがあまり意識されていなかったように思います。職場体験は準備も実施も大変な労力を伴います。実施する意味を理解せずに例年通りで実施すると、「労力>成果」となってしまうことも少なくないでしょう。そして、コロナ禍で職場体験ができないという状況に直面したときに、何のために実施するのかが意識されてなく、職場体験を実施することが目的になっている学校では、中止してすべて終わりになってしまうでしょう。
しかし、「働く人との出会い」「出会いにより学ぶことの意義や働くことの意義を理解する」「生徒が主体的に進路を選択決定する態度や意志、意欲などを培う」という目的に立ち返れば、教室の中からでもできることはあります。実際に『ミライのしごとーく』はこれらの目的を意識して作られています。もちろん実際に会う方が得るものは多いかもしれませんが、オンラインだからこそ普段だと会えない方と会えるというメリットもあります。

福岡県の城南高校でドリカムプランを立ちあげられた和田美千代先生は講演の中で「Whyが大切。Whyがしっかりすれば、What、Howはついてくる」と語られていました。職場体験も同じです。
コロナ禍の今こそ、なぜ実施するのか(Why)という原点に立ち戻るいい機会ではないでしょうか。それを考えるとこの状況でもできること(What、How)に気づきます。コロナが落ち着き、職場体験が対面で実施できるようになったときに、ここで原点に立ち戻った経験はより大きな成果として明らかになるでしょう。
たとえばコロナ禍で原点に立ち戻った学校は、コロナ禍が落ち着けば『ミライのしごとーく』を事前学習や事後学習で活用し、職場体験をより充実したものにするということを実施するでしょう。コロナ禍で例年通りが通用しないからこそ、何のためにを問ういい機会だと思いますが、皆さんはどう思われますか。

お読みいただきありがとうございました。引き続きよろしくお願いします。

酒井 淳平(さかい じゅんぺい)

立命館宇治中学校・高等学校 数学科教諭(高校3年学年主任・研究主任)
文科省から研究開発学校とWWLの指定を受けて、探究のカリキュラム作りに取り組んでいます。
キャリア教育と探究を核にしたカリキュラム作りに挑戦中です。

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