2020.03.04
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

世界の教員の働き方と課題

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今回のテーマは「世界の教員の働き方と課題」についてお話したいと思います。現在、日本では教員の働き方改革が課題に挙げられていますね。私や息子たちが留学したアメリカや私の故郷でもある香港では、教員の働き方とそれにまつわる課題として何が議論されているのでしょうか。

貧困層と富裕層の間に教育格差が広がるアメリカの教育現場

アメリカの場合、州によって教育の財源が異なるので、住んでいる地域ごとに予算にばらつきがあります。予算の少ない地域では先生の給与や、教科が削減されることも。本来は必修である体育や音楽、美術などが削られ、そのうち文房具や備品の支給もおぼつかなくなります。補填するのに教員が実費で必要なものを買い揃えることもあるのです。日本では信じられないことですよね。そういった予算の少ない地域の教育現場の教員から給料の値上げや材料の支給、授業の復活を要求するなど不満が噴出しています。

裕福な地域、つまり住人がきちんと税金を納めているなら予算も潤沢で、給料の高い先生を雇うこともできます。裕福な地域には先生の応募が集まり、教育の質も担保できる一方、貧困層の住む地域は教育が不十分と教育格差が問題になっています。

現在アメリカでは、「自分の住んでいる地域外の学校にも通えるように」との声も上がっていますが、「そうするとますます学校ごとに偏りが出る」との意見も。他の地域の学校に通える子は良いかもしれませんが、通えない子もいますから、さらに深刻な格差が広がっていくことになりかねません。長い間議論されている課題ですが、やはり予算が足りない地域には最低限国が補填するべきだと私は思っています。

適材適所の体制が整っていない香港の教育現場

香港の教員の給料は決して低くありません。ですが、ひとクラスの人数が多いので、もう少し教員を雇いたいところ。ですが正規の教員の給料は高いので、契約の教員を採用しています。1年ないしは2年くらいで契約を切られることもあるので、契約の教員はビクビクしながら働いています。

また、美術や科学といった専門性の高い教科を教える先生が不足しています。教育大学出身の教員の方が給料が高いので、専門教科を指導できる教員を契約教員で補足しようと思っても、給料も雇用も安定しない業界に飛び込む人は少ないです。結果、しかるべき人材が教育業界にいかず、今学校にいる教員が教えるといった状況になっています。

先生のオーバーワークは世界共通の課題

正直なところ、教員という仕事は“自己犠牲”みたいなものが、大前提にあるように感じます。どの国でも先生のオーバーワークは共通の課題なのです。最近の香港では17時位に学校が閉まってしまうこともあるので、採点作業は自宅で行い、その時間は労働にカウントされません。また、アメリカの場合はスポーツ大会や学芸会などのイベント事は夜に行います。土日も仕事をしている保護者を配慮して、幼稚園でもイベントは夜に開催するのが一般的なのです。先生の拘束時間がとても長いですよね。

日本では、今まさに教員の働き方改革が議論されているところ。できることであれば国の教育への予算を増やし、クラスを少人数制にしてほしいと考えています。北欧は20名程度の少人数制にすることで、成果にも結びついています。少人数制が無理でもアシスタントを雇って生徒一人ひとりに目が行き届くよう配慮することができれば、教員一人あたりの負担は軽減されるでしょう。教員の余裕ができれば生徒とのコミュニケーションも増えますし、好循環が生まれます。

また中国では、教員としての生涯のうち2/3は学校で教え、残りの1/3は研修の時間に当てられています。研修の時期に入ると、大学に行って学びを深めたりと色々なコースが用意されています。例えば、新しい学習体制になったり、新しい指導要領が出たりすると研修を受けられるのです。自分の学習に使う時間と生徒のために使う時間がはっきり分かれているので、先生方の気持ちも楽になるのではないでしょうか。

まだまだ日本の教育現場には課題が山積みかと思いますが、世界に目を向けてみるとまだ日本はよく機能している方なのかもしれません。それは教員の方々の努力の賜物。まずは誇りを持っていただきたいです。先生方の負担を分散し、生徒一人ひとりに丁寧な教育が行き届くことを願っています。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

構成・文・写真・イラスト:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望・気になることなど、お寄せください!

「アグネスの教育アドバイス」では、取り上げて欲しいテーマ、教育指導や子育てで気になることなど、読者の声を随時募集しております。下記リンクよりご投稿ください。
※いただいたご意見・ご要望は、企画やテーマ選びの参考にさせていただきます。
※個々のお悩みやご相談に学びの場.comや筆者から直接回答をお返しすることはありません。

pagetop