2024.02.22
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「それは他の人には真似できない」は即ち、学ぶ価値がないということなのか?(前編)

おかゆとするめ、みたいな話。

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭 今村 行

どうも、今村です。
教育書のタイトルやセミナーのお題目、研究会の謝辞などで「明日から使える」とか「すぐにでも真似したい」という言葉が行き交っているような印象があります。
「明日から使える」ことも「すぐにでも真似したい」ということも、勿論悪いことではありません。自分にとって速効性があって使いやすいものをもらいたいという受け手のニーズ、そうした受け手へ届けたいという送り手の意図、それらも決して悪いことではないと思います。
ただ一方で、「明日からすぐ使える系」のものが当たり前になってくると、そうではないものに対してはしばしば「それは他の人には真似できない」という言葉や、直接言葉にしないまでもそのような雰囲気をぶつけている現場に立ち会うことがあります。まるで「明日からすぐ使える系」のものでないと価値がない、というような…。
私は、それはずいぶん乱暴な話だな、と思っています。

「明日からすぐ使える系」躍進の理由

なぜ、こんなにも「明日からすぐ使える系」のものがもてはやされるのでしょうか。私は、次の3点が大きな理由なのかな、と思っています。

①受け手の時間がない
②受け手が疲弊している
③「明日からすぐ使える系」は受け手にとっても送り手にとっても負担が少ない

順に説明します。
まず①受け手の時間がない、について。
これはもう、教員をやっている皆様からすれば、自明のことだと思います。
出勤して8時過ぎに教室で子どもを迎えて、授業や給食指導、休み時間は子どもと一緒に遊んだり提出物の確認などをしたりして、下校の時刻の15時前後までは怒濤のように毎日が過ぎていきます。
それから会議が入っていたり保護者に電話したり子どものノートに目を通したり、退勤時刻までもまさにノンストップ。
「働き方改革」が叫ばれる今、時間外の研修なんてとてもじゃないけれどできないし、それを強いてしまったらなんらかの「ハラスメント」に引っ掛かります。

次に②受け手が疲弊している、について。
これは①に大きくつながる部分ですが、みんな時間がない中でなんとかやっています。
で、勤務時間内に終わらない教材研究や明日の授業の準備などは、勤務時間外にやることになります。
力のある先輩はもう既に退勤してしまって、焦りが募る。これで明日の授業がうまくいくのかな?と不安だけれど、もう誰にも聞けない。自分がやっていることに価値があるのかどうかもわからず、前に進んでいる実感が得られない。
一方で力のある先輩の方々からしても、自分のやり方を伝えるにしても「やり方を押し付けられた」なんて言われてしまうこともありますから、「教えてください」と向こうから来てくれない限り、なかなか自分から伝えられない…。
そうした中で、身体も、心もそれなりに疲弊していきます。自分がやったことがどのように価値・意味があるのかを実感できないと、不安も募るし、エネルギーもどんどん中空に放出されていってしまうような感覚に陥ります。

最後に、③「明日からすぐ使える系」は受け手にとっても送り手にとっても負担が少ない、について。
①、②で見てきたように、みんな時間がなく、みんな疲弊しています。そんな中で、「噛み砕くのに時間がかかる」ようなものが目の前に差し出されても、とてもじゃないけれど口に入れてみようと思えない、というのは理解できます。
受け手も送り手も時間がない中で、双方に納得感があって、喜びを分かち合えるような時間を過ごしたい、となれば「明日からすぐ使える系」は重宝されます。「明日からすぐ使える系」は、送り手にとってもインスタントに伝えられますし、受け手にとってもすぐ理解できるし、前に進んでいる実感を得やすい。両者に利益があります。「ハラスメント」などの問題もそこには介在しにくい。

ただ、納得はしません。

以上のようなことから、「明日からすぐ使える系」のことがもてはやされることは、個人的には理解できる現象だな、と思っています。
みんな時間がなくて、みんな疲弊している状況で、「それは他の人には真似できない」というものの価値が相対的に下がってしまう、ということも理解はできます。

ただ、納得はしません。

「明日からすぐ使える系」のことを吸収すればするほど、そこに傾注すればするほど、多くの教師が似通ったようなことをするようになります。「すぐ真似できる」ことであふれかえっていく。子どもの視点からしてみれば「またこのパターンね」ということにもなる。

私は、それは、納得はできません。(後半へ続く!)

今村 行(いまむら すすむ)

東京学芸大学附属大泉小学校 教諭

東京都板橋区立紅梅小学校で5年勤めた後、東京学芸大学附属大泉小学校にやってきて今に至ります。教室で目の前の人たちと、基本を大切に、愉しさをつくることを忘れずに、過ごしていたいと思っています。

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