2018.10.15
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「これならできる!」詩の創作指導

第23期の連載では、『「荒れ」と向き合う詩の授業』というテーマで、私的な実践報告をさせていただきました。今回からの第24期の連載では、連載中に読者の皆様からいただいた「うちの教室でも実践できる方法はないか」とのお声に応え、より一般化した詩の指導の方策について、ご提案していきたいと考えております。引き続き、よろしくお願いいたします。

なお、今後本文中で採り上げる児童の作品等につきましては、成年した元児童のものにつきましては基本的に本人に、未成年の元児童のものにつきましては本人および保護者の掲載許諾を事前に得ておりますこと、念のため申し添えます。

大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長 杉尾 誠

教科書通りにすると…

突然ですが、みなさんにお伺いしたいことがあります。小学校6年間で使用する国語の教科書のなかで、「詩の創作指導」を掲げた単元は、全部でいくつくらいあると思われますか。

検定教科書は数社より発行されていますが、例えば本市が採択している国語の教科書については、6年間分をくまなく見てみても、詩の創作指導に関わる単元は、わずかに2単元(2年生と4年生に配当)のみでした。ちなみに、「詩の鑑賞指導」は、表紙裏の扉のページに書かれたものなども含めると、年に2~3回は実施できそうです。

つまり、教科書の通りに学習を進めていくと、感受性豊かで、詩の創作にのびのびと取り組める貴重な小学生時代に、子どもたちは詩の創作にほとんど取り組まず、卒業を迎えてしまうことになります。個人的には、これは大変な「機会損失」ではないかと考えています。

いつ「詩の創作指導」をするか

では、教科書にない「詩の創作指導」をいつ行えばいいのか…という疑問も起こるでしょう。我々教員の授業はすべて、文部科学省の「学習指導要領」に示された時数や内容に則って行います。報道等で広く示された通り、今般の新しい改訂においてその時数や内容が、より密度の濃いものになりました。そのため、生徒指導に保護者対応、会議、出張…と、何かと多忙な業務柄、なかなか教科書を「こなす」以外の授業に躊躇されている方も多いかと推察いたします。

しかし、我々教員の授業指導は、「学習指導要領」という大原則は当然踏まえつつも、子どもたちの実態に合わせ、創意工夫を凝らしてデザインできるところが、大変面白いところです。私も常々、目の前にいる子どもたちに「こんな力をつけてあげたい」と願うなかで、今必要だと考える様々な取り組みを、楽しみながら構想しています。その中の一つが、先生方におすすめしたいと考えている「いつでもできる 詩の創作指導」です。

そう、まずは「いつ行えばいいか」と悩むのではなく、さあ「いつでもできる」ぞと、お考えのパラダイムシフトを呼び起こしていただきたいのです。そのために、私が取り組んできたことを少しご紹介いたします。

その1 「感想文」を「詩」に置き換えてみよう!

学校では、本当に多くの、そして様々な行事が行われます。運動会や遠足など、一日がかりの大きな行事もあれば、学習参観やゲストティーチャーの講話など、おおむね一時間で完結する行事もあります。その後、原稿用紙を配布し「はい、じゃあ感想文を書いてください」というところまでが、なぜか日本の学校行事のルーティンワークになっています。

行事で得た感動を、作文という形にして残させたい、あるいは子ども自身にメタ認知させたいなどの思いで、全国の先生方がされている実践です。中には当然そうするものだ、と思考停止状態で原稿用紙を配布する先生もおられると聞きます。ですが、残念ながら子どもたちから、この感想文や行事作文が「好き」だという声を、あまり耳にしません。

そこで提案です。配布する用紙を、原稿用紙から「詩の用紙」にしてみませんか。A4でもB5でも、あるいはそれ以上でも以下でも、また、罫線やマス目が入っていても、真っ白でも構いません。目の前の子どもたちの発達段階や、指導の実態に合わせてご判断ください。

作文に取り組む際の、例えば段落構成を意識したり、記述記号を正しく使ったり、原稿用紙のルールを守ったり…といった子どもたちが抱く「堅苦しさ」から解放し、行事体験で得た感動を焦点化できる詩の方が、より生き生きと子どもたちの思いを形に残せるように思います。

詩には、それぞれの心の景色を、そのまま表現できる(可能性が広がる)というよさがあります。厳密に言えば、もちろん詩には詩のルールがあります。それでも、作文に比べれば子どもたちの心の負担は軽くなる傾向にあるようです。指導する教員側からしても、その子の心がどこでどのように動いたのか、子どもの詩を味わうことで、つぶさに感じ取ることができるでしょう。

いつでも「詩」を身近に

かといって、作文指導を軽視しているわけではありません。むしろ私は、作文指導も大好きでよく実践しています。詩より作文の方が、形に残すときによい場合も多々あります。

しかし、作文が苦手な子どもが多いという実態が割と多くあり、それは間違いなく「作文指導の不足」が原因であると考えます。夏休みの宿題の定番である「読書感想文」を、事前指導なしに「書いてきなさい」では、子どもたちは路頭に迷ってしまいます。余談ですが、最近「読書感想文の代行業者」が一部で人気になっているのは、そうしたことに起因するものでしょう。

詩のよさは、子どもたちも先生方も「気軽に、すぐに取り組める」という点だと私は思っています。教室に常に用紙を準備しておいて、先生も子どもたちも「じゃあ、今の思いを詩に書いてみよう」と思える環境づくりをしておけば、限られた国語の授業時数にこだわることなく、素敵な詩の学習成果が残せるはずです。

「詩を身近なものに」できる教室では、先生と子どもたちの心がより深くつながっていくことでしょう。さぁ、難しく考えず、ぜひ気軽に取り組んでみてください!

杉尾 誠(すぎお まこと)

大阪府公立小学校 主幹教諭・大阪府小学校国語科教育研究会 研究部長
子どもたちの「自尊感情」を高めるため、「綴方」・「詩」・「短歌」・「俳句」などの創作活動を軸に、教室で切磋琢磨の日々です。その魅力が、少しでも読者の皆様に伝われば幸いです。

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