新聞を活用する難しさ
私の勤務校があるさいたま市では、市の教育委員会と埼玉県のNIE(教育に新聞を)推進協議会が協定を結び、さいたま市内の全市立小中高等学校、特別支援学校でNIEが実践されています。「新聞を開くことは、社会への窓を開くこと」という理念のもと、平成23年度より取組が行われています。
具体的な取組は、学校への新聞提供(年に2回程度・8紙)や新聞記者などの講師派遣事業、そして教員対象の研修会の実施です。教育委員会が積極的にNIEを推進している例はまだ少なく、全国的にも注目されています。
しかしながら、指導を行う教員が新聞を積極的に活用するようになったかと聞かれると、自信をもって首肯できないのではないかと考えています。研修会で参加をする先生たちと情報交換をすると、
「低学年では新聞は使えないですよね。」
「新聞をどう使ってよいか分からないです。」
「新聞を使う単元があるので、それをやればよいですよね。」
という話がいつも出てきます。それは、おそらく、先生自身が新聞に慣れておらず、「新聞を教材化する感覚」がまだ身についていないのではないかと思っています。その「感覚」を身に付け、高めていくような取組を行っていかなければ、本当の意味でNIEが広まっていかないのではないかと考えるようになりました。
現在、勤務する学校では、日本新聞協会より委嘱を受けて、NIE(教育に新聞を)の実践校として実践に取り組んでいます。しかしながら、学校には若い先生方も多く、また、新聞を普段あまり使ったことのない先生方もいらっしゃり、すぐに授業などで活用できません。そこで、先生方に、昇降口に貼って児童に紹介するための新聞スクラップをやってみることを提案しました。
「カラーバス効果」を起こす
私は、日本新聞協会からNIEアドバイザーの委嘱を受けて活動を行っています。その中で、先生方に新聞の活用について話をする機会が時々あります。そこで、話しているのが、新聞について「カラーバス効果」を起こすようになる必要があることです。
「カラーバス効果」とは、ある特定の色を意識してしまうと、それ以降その色ばかりが目に入ってしまい世界がその色だらけに見えてしまうという心理効果のことです。例えば、はがきを投函しようと新聞ポストを探していると、新聞ポストが目に飛び込んでくるようにたくさん目につくようになるという効果です。新聞活用についても、必要な記事にアクセスできるようにするためには、このカラーバス効果を利用するべきだと思います。
ワークシートづくりの取組
「カラーバス効果」を起こし、必要な記事を集めることができるようにするために効果的な活動としてあげたいのが、ワークシートづくりです。先生自身が自分の選んだ記事でワークシートを作ることで、自然と「〇〇に関する記事はないか」「今学習している〇〇に関連した資料がほしい」という意識をもつようになります。そういう状態で、新聞を見る(学校の若い先生たちには、新聞を読むのではなく見るというつもりで新聞に接してほしいと話しています。)と、不思議なことに記事の方から自分の目に飛び込んできます。
私自身が、今、障害を持っている方のための工夫について取り上げる学習を行うので、そのワークシートづくりをしています。すると、新聞を見ているうちに、聴覚障碍者の方が映画を楽しめるようにする機械についての記事や歩けない方のためのロボットスーツの記事がすぐに見つかりました。
このようにワークシートを作るという目的をもつことで、自分がほしい記事が明らかになり、その記事との出会いがスムーズに進むようになります。
新聞が先生たちの授業ツールになることを期待
次期学習指導要領でも、「社会に開かれた教育課程」の観点から、引き続き新聞を活用する重要性が確認されるようです。さいたま市では全国に先駆けてNIEを全市立学校でスタートしていますので、その実践が本当の意味で効果的に行われるようにしていきたいと考えています。さいたま市の先生たちにとって、新聞が一つの重要な授業ツールになることを目指してこれからも活動していきたいと思います。

菊池 健一(きくち けんいち)
さいたま市立植竹小学校 教諭・NIE担当
所属校では新聞を活用した学習(NIE)を中心に研究を行う。放送大学大学院生文化科学研究科修士課程修了。日本新聞協会NIEアドバイザー、平成23年度文部科学大臣優秀教員、さいたま市優秀教員、第63回読売教育賞国語教育部門優秀賞。学びの場.com「震災を忘れない」等に寄稿。
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