2022.03.15
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NIEはじめました~実践報告~(2)

「阪神・淡路大震災をどのように報道してきたか」をテーマに神戸新聞の記者の方に出前授業をしていただいていたご縁で、本年度よりNIE実践校としての取り組みを始めた。正直に言って、この1年間で顕著な実践成果が見られたという実感を得るにはいたっていないが、ここで今年度の実践について振り返ってみたいと思う。

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭 山川 和宏

具体的な取り組み

今年度は、ねらいに沿って系統立てた実践に取り組んだというよりも、思いつくままいろいろなことに手を出したという方が正確である。中にはあまり長続きしなかったものもあるが、今年度具体的に取り組んだ活動は以下の通りである。

(1)新聞記事の紹介

➀図書室の活用
毎日届けられる購読紙(2紙)を児童が自由に閲覧できるように「新聞閲覧スペース」を設けることにした。当初は、校舎の1階廊下スペースにソファーを置いて閲覧場所にすることも検討したが、どの学年の児童も週1回は利用し、休み時間にも開館している図書室内に設ける方がゆっくり閲覧できると判断し、司書の先生の協力を得て、図書室に閲覧スペースを設けた。
直近1週間の新聞は、新規で購入した新聞用ラックに整理し、それよりも古い新聞は段ボールで作成した手作りのラックにストックした。その中から興味を持った記事を切り抜けるように、スクラップブックも用意した。
そして、児童会役員の子を中心に週1回集まって、気になる新聞記事を切り抜いて紹介するポスターを作ったところ、それを見て興味を持った児童が広く参加することにつながった。図書室の壁一面に、気になる図書を紹介するポップと、気になる新聞記事を紹介するポスターが張られ、読書力向上につながる活動になったのではないかと考えている。

②6年生の活動
6年生にはNIE実践に取り組む担当教員が2名いたこともあり、本校の中で中心的に実践に取り組んだ。
前述の図書室における新聞記事の切り抜き紹介にも積極的に参加し、一部を職員室前の掲示板に張り出したところ、地域の方から「面白い活動をしていますね」とお褒めの声をいただき、地域にNIEの活動をアピールすることにつながった。
また、夏休みの間に学校に配達されていた新聞の中から、テーマを決めて新聞記事を切り出し、模造紙1枚にまとめるグループ活動を行った。東京2020オリンピックや高校野球など、子どもたちにとっても興味・関心を持つテーマが多く見つかり、非常に熱心に記事を探していた。自分の目的に応じて、たくさんの新聞記事の中から情報を見つけ、それを取捨選択し、さらにその情報を整理するという活動は、子どもたちが目的に応じた情報収集と整理をする技術を身に着けるのに大いに役立った。自分が得た情報の中から自分の考えを持つことができるように、単なる紹介に終わらず、その出来事を通して考えたことを文章にすることも行った。

③5年生の活動
10月24日、神戸新聞から講師となる記者の方を派遣してもらって、神戸新聞「写真ニュース」など実際の記事を教材にして、その記事にどんな見出しをつけるかを考える授業を行った。内容を端的に伝えるとともに、読者へのアピールとなる見出しのつけ方について、児童は理解を深めていた。
さらに、教えてもらったことをもとに、タブレットを使って既成の新聞記事に自分なりの見出しをつける活動を行った。

④掲示板の活用
職員室前の掲示板をNIE実践の紹介スペースとして活用し、年間を通して、子どもたちが作成した新聞記事の紹介や、記者派遣事業における授業の様子、子どもたちが学習のまとめとして作成した学習新聞・壁新聞の紹介などを行った。

(2)ワークシートの活用

NIEホームページから各新聞社が作成している学習用ワークシートを入手し、お昼の帯タイム(10分間)に取り組んだ。簡単な設問がついているので、大事なところを読み落とさないように記事を読む習慣を身に着けるのに役立った。

(3)記者派遣事業

➀6月25日、毎日新聞阪神支局より講師の先生として記者の方を派遣してもらい、6年生に新聞の構成や紙面の作り方などについて授業を行った。新聞には政治・経済・社会・地方などの紙面があり、新聞は日々出稿される記事や写真を、編集部門で整理して紙面を作っていることを紹介してもらった。また、2005年のJR福知山線脱線事故の紙面を教材にして、見出しを考える活動も行った。

②10月24日、神戸新聞の記者の方による「見出しのつけ方」についての授業(前述)。

③2月28日「有事におけるメディアリテラシー」をテーマに、神戸新聞の記者の方が、ロシアのウクライナ侵攻を題材に、真偽入り交じった情報とどう向き合うかを考える授業を行った。神戸新聞「写真ニュース」の2021年12月号~2022年3月号の中からイチオシ記事を選ぶ活動も行い、大きなニュースを家族や友人で語り合うことの大切さについて学んだ。

(4)デジタル新聞の活用

デジタル朝日新聞を3か月無料で利用できるキャンペーンに応募し、4~6年生は毎朝10分間の読書タイムなどを通して、日常的に新聞記事を読む活動を行った。家で新聞をとっている家庭が少なくなっている中、新聞を読む習慣につながった。また、デジタル朝日新聞で紹介されていた新聞記事を紹介するポスターを6年生がタブレットを使って作成し、掲示板に張り出した。

(5)新聞紙のその他の活用

①演劇ワークショップ
NIE担当の教員が演劇の指導者でもある関係で、児童に演劇を教える際に、新聞を使ったワークショップ形式の活動を取り入れた。具体的には、グループで新聞記事の中から一つを選びその記事に書かれている内容を端的に表現する即興劇を披露しあう活動や、新聞紙を2枚用意し、新聞紙の上だけを歩いてゴールまで競走するリレーをする活動などである。

②エコバッグづくり
古い新聞紙を活用したエコバッグ作りにも取り組んだ。古新聞は整理して保存しているが、切り抜きの活動をしたことでどうしても処分しないといけないものが出てくる。そこで、処分するものの中からエコバッグに転用できそうな新聞紙をストックしておいて、エコバッグを作成した。思いのほか丈夫に作れたので、児童も喜んでいた。

成果と課題

NIEの実践に取り組むことで、大事なポイントを落とさずに情報を読み取ることができる読解力の向上につながるのではないかという期待を持っていた。実践を始めて1年足らずだが、その成果が目に見えて現れているかというと、必ずしもそうとはいえない。日常的に新聞に触れようとする機運が児童全体に広がっているかというと、その点についても心もとない。

しかし、特に社会科の授業をしていて感じることだが、児童の中に今の社会への興味や関心が広がっているように思う。実際、尼崎市が独自に行っている学力テストの意識調査で、社会への興味・関心や、学習したことを新聞にまとめる活動の経験を問う項目が大きく向上していた。これは、新聞を活用してきた効果であると考えられる。

また、児童の間で日常的にニュースが話題になることも多い。ロシアによるウクライナ侵攻のニュースは、教員よりも先に児童の方が見つけていたほどだ。
さらに、本年度から児童一人に一台タブレットが配布されたことで、ネット記事に触れる機会が飛躍的に増えている。あふれるネット上の情報の中で、正しい情報を見抜く力がこれからはますます必要になってくるだろう。

新聞という情報の宝庫に日常的に触れていくことで、正しい情報を手に入れるチカラを児童が身に着けていけるよう、これからも実践を継続したいと考えている。

山川 和宏(やまかわ かずひろ)

尼崎市立立花南小学校 主幹教諭
富良野塾15期生。青年海外協力隊平成20年度1次隊(ミクロネシア連邦)。
テレビ番組制作の仕事を経て、小学校教師になりました。以来、子どもたちと演劇を制作し、年に2回ほど発表会を行っています。

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