はじめに
小学校に来年度入学する子どものための就学時健康診断などはもう終わったでしょか?
来年4月の小学校の入学式まで約4か月余りとなりました。
この10年程、「小1プロブレム」が大きな問題とされています。
「小1プロブレム」は、小学校に入学した一年生が小学校の生活リズムなどに適応することができず、様々な問題が発生する状態を示しています。
以前、小1プロブレムについて書かせてもらった文章があります。
興味のある方はご覧ください。
そういったことを踏まえ、今回は「保護者の立場」「小学校教員の立場」でこの「小1プロブレム」について書きたいと思います。
保護者の立場から
まずは「保護者の立場」で考えます。
保護者がこの時期にできることは、「一般的」なトラブルのきっかけを知ることと「自分の子ども固有」のトラブルのきっかけを知るということです。
一般的に小学校入学時に子どもが感じる不安感の高いものとしては、「通学」「給食」「友達」「勉強」などがあります。
「通学」に関しては、小学校の入学前までは、幼稚園・保育園共、保護者が送り迎えをしている場合が多いです。
小学校に入学すると、多くの場合、子どもだけで通学する形に変わります。
登下校中の交通事故や不審者の事件なども時折ニュースなどで流れています。
そういったことに対して、子どもは不安を抱いていると考えられます。
また、入学時とその後(6月、9月)で変化のある項目もあります。
先に挙げた「通学」については、一貫して子どもの不安度が高くなっています。
それとは違い、小学校に慣れるに従って、不安感が減っていくものがあります。
それは、「勉強」「先生」「休み時間」です。
小学校の勉強は、小1の始めの時期(4月、5月)は、小学校に慣れることに配慮するため、とても簡単な内容から始まります。
親に「小学校は、難しい勉強をする所なのよ」と強く言われ、不安に感じていた子どももいたのだと思います。
実際にやってみると、それ程大変ではなかったというのが、実情でしょう。
一方、6月、9月と学校生活が進むに連れて不安感が高まるものもあります。
それは「掃除」です。
幼稚園・保育園では、小学校で行っているやり方の「掃除」に取り組んでいないことが多いようです。
そういったことが影響し、実際に掃除をやってみて、大変だと感じることが増えていることが分かります。
(鈴木邦明「幼稚園・保育園から小学校へ入学する際に子どもが感じる不安について」国立オリンピック記念青少年総合センター研究紀要 第7号)
また、その子どもの固有のものとして子どもが感じる不安は、その子どもが置かれている環境が大きく影響します。
例えば、幼稚園に通っているのか、保育園に通っているのかの違いなどによる影響です。
これまで行われた研究によると、保育園に通っていた子どもの方が幼稚園に通っていた子どもよりも「友達」「運動」に強く不安を感じています。
「友達」に関しては、保育園の方がクラス替えのようなものが少ないこと、仲間の数が少ないことなどが影響していると思われます。
保育園では、赤ちゃんの頃から少人数の同じメンバーで過ごすということが多いです。
そういった経験の差が不安感の違いに影響を与えていると思われます。
「運動」に関しては、保育園は園庭などが小さい事などが影響していると考えられます。
幼稚園と保育園の設置基準を調べてみると、幼稚園の方が広いことが分かります。
保育園に関しては、「園児一人について3.3平方メートル以上」と決められているのですが、「保育所の付近にある屋外遊戯場に代わるべき場所を含む」となっています。
都市部の保育園を中心に、屋外遊戯場は無いケースが多くなります。
そういった環境から校庭の大きな小学校に移ったことで、校庭の大きさやそこで行わる体育を中心とした「運動」に不安感を抱いていると思われます。
(鈴木邦明「幼稚園・保育園から小学校へ入学する際に子どもが感じる不安とその子どもが置かれた環境との関連」日本子ども学会チャイルドサイエンスvol.4)
これまで書いてきたようなことを保護者が理解しておくことで、子どもへの関わり方が変わってきます。
現在(入学前の時期)、取り組んでおくと良い事としては、次のようなことがあります。
・通学に慣れるために、自宅から学校まで歩く練習をする。
・通学時の危険個所を一緒に歩きながら確認する。
・重い荷物を持って歩く練習をする。
・小学校の掃除のやり方で家の掃除をする。
・週末などに小学校の校庭で遊ぶ。
上に書いたようなことを行っていくことで、幼稚園・保育園から小学校に上がる際の段差を低いものにすることができます。
事前にできることをしておくことで、トラブルを回避または最小限にすることができます。
是非、取り組みやすいものから取り組んでみてください。
教員の立場から
次に、「教員の立場」で考えます。
小学校の教員がこの時期にできることは、「情報を集めること」になります。
学校側の難しい問題として、この時期には次年度の1年生の担任が誰になるのかが決まっていないということがあります。
多くの学校で次年度の担任が決まるのは、3月の半ば以降、場合によっては、卒業式、修了式が終わってからということもあると思います。
そういった状況から考えると、現在の段階でできることは、できるだけ子どもや親に関する情報を集め、それを共有していくということです。
管理職、養護教諭、特別支援コーディネーターなどが協力し、情報を管理していくことが求められます。
また、できる限り、小学校の教員の目で、その子どもを見ていくということも大事になります。
幼稚園や保育園などの教員からの聞き取りなども行われますが、見ている視点が違う場合があります。
小学校で行われる就学時健康診断において、できるだけ多くの教員の目で新しく入ってくる子どもを見ていく必要があります。
学校説明会などを兼ねて、子どもに学校体験をさせるという方法もあります。
親が説明会を聞いている間、入学予定児は実際に一年生が使っている教室などを使って小学校の模擬体験をするというものです。
そういった場で見られたこと、感じたことなどを積み重ね、職員間で共有していきます。
また、できるのであれば、小学校の教員が幼稚園や保育園に出向き、そこでの様子を観察するということもしていきたいです。
入学予定児童は多数の幼稚園・保育園に在籍しているので、全ての子どもの観察に訪れることは難しいと思われます。
そこで、小学校の近隣にある入学予定児童の人数の多い園から順に回っていくと良いと思います。
そうやって集めた情報も積み重ね、共有していきます。
最後に
「小1プロブレム」やそれに関連する「幼保小連携」については、事前にやることのできることがいくつかあります。
環境の変化などで、以前よりもトラブルの発生しやすい小学校入学時です。
できるだけ、苦労する子ども、保護者、そして、教員が少なくなることを願っています。
私が小1プロブレムや鬼ごっこなど個人的に研究をしているものをまとめたページがあります。
この文で紹介した論文のデータもあります。
興味のある方はご覧ください。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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