今年度も残りわずかになりました。年度末の仕事で慌ただしい頃でしょうか。例年よりも遅めのインフルエンザの流行もまだ心配です。忙しい折、体を大事にしてください。
ところで、4月は進学、進級の時期となります。そこには少なからず「段差」が存在します。この段差を如何に乗り越えていくのかということがこの時期の大きな課題となります。幼保と小の段差で起こる「小1プロブレム」、小と中の段差で起こる「中1ギャップ」などがよく知られています。そういったことに関連して、今回は「小学校1年生の重要性」について書きたいと思います。
小学校1年生の時期は、「学び方を学ぶ」と言われています。それは、「椅子の座り方」、に始まり、「話の聞き方」、「道具の準備のやり方」、「鉛筆の持ち方」、「字の書き方」、「他の人との関わり方(謝り方など)」、「時間に合わせること」など多種多様に及びます。この時期に様々な理由でそういったことを習得することが出来なかった場合、その後の学びに大きな影響を与えます。小学校1年生で、学び方を学べていない子ども(子ども達)は、2年生においてもその影響で、学びの質が低くなりがちです。
小学校2年生は、1年生の時期と同様、重要な時期です。特に重要なのが、算数で習うことになる「九九」です。九九の獲得は、その後の人生を左右するほど重要な内容になります。その理由は、九九が「他の単元の基礎的な学力である」ということです。算数は、他の教科以上に積み重ねが求められる教科です。
九九の習得が十分でない子どもは、中学年(3・4年生)で「算数嫌い」になることが多いです。九九を用いた正確な計算を必要とする学びが多くなることなどが理由になります。学習内容、例えば、二桁×二桁の筆算のやり方が理解できたとしても、実際に計算をすると九九の習得が十分でないことが理由で、答えを間違えてしまいます。分数の計算、小数の計算、割合、面積など、どれも正確な計算力が必要とされます。(詳しくは「学習の積み重ねの大切さ~学習の石垣理論~」に書いてあります。)
算数で間違えることが多くなった子どもは、「算数嫌い」になり、その後、「勉強嫌い」、「学校嫌い」へとつながっていく可能性が高くなります。さらに「登校渋り」、「不登校」、「校内暴力」、「反社会的行動」、「触法行為」へと坂道を転がり落ちるように進んで行ってしまう可能性もあります。
このように小学校1年生、そして、その影響を強く受ける2年生の学習は、その子どものその後の人生へ大きく影響を及ぼします。また、小学校1年生は、人格形成においても重要な意味があります。「学び方」を学ぶことのできていない子どもは、教師から叱られることが多くなる可能性があります。そして、自己肯定感の低い状態で、育つことにもなります。様々な部分で周りの人との関わりでもトラブルを起こす可能性が高くなります。人との関わり方の質の低さが、トラブルを誘発し、それによってさらに自己肯定感が低くなってしまいます。負のスパイラルに落ち込み、投げやりな態度やあきらめの態度などがさらに状況を悪化させてしまいます。
ところで、子どもの成長は、学校だけの教育で行われるものではありません。家庭での影響も強く受けます。家庭における親などの関わり方によって、子どもの育ちは大きく違ってきます。その家庭は多様性に富んでいます。経済的にもそうですし、文化的にもそうです。 経済的に余裕のある家庭は塾なども通い、十分な学習をさせることができます。また、親も学習面などで関わることが出来ていることが多いです。
逆に、経済的に苦しい家庭では、親が多忙であったり、学習に関心が薄かったりなどの影響で、家での宿題などの補充の学習が十分にできないことがあります。その影響で、学力を十分に維持することが難しくなることがあります。(詳しくは「虐待の連鎖を防ぎたい」に書いてあります。)
家庭での学びへのフォローなどが十分でなかったとしても、学校での学びがきちんとできていれば、問題は大きくならずに済みます。また、学校での学びが十分でなかったとしても、家庭でのフォローがしっかり出来ていれば問題は大きくならずに済みます。
しかし、これまで書いてきたように小学校1年生および2年生の学びがきちんとできていない状況に加え、家庭でのフォローが十分でないことが加わると状況は厳しいものとなります。小学校1年生で学ぶべきことが、きちんと身につかないまま、2年生になり、その影響で、九九などの学びが不十分のままとなってしまいます。これまで書いてきたように、九九の影響はすぐには出てきません。その影響はしばらくしてから出てきます。そういったことに気付くのが中学年(3・4年生)では、遅すぎます。学習に関しては、その学年の内容を学びながら、九九などの復習をすることは、非常に労力が必要です。あまり勉強が好きでない子どもが、多くの時間や労力をかけて、学習に取り組むということは、困難を伴うことです。
それだからこそ、小学校1年生、そして2年生の時期が非常に大切になります。親や教師など子どものそばにいる大人が感度を高くして子どもに関わっていくようにする必要があります。小さなトラブルを見逃さず、しっかりと対処していくことが問題を大きくしないことにつながると思います。
小1プロブレムについて以前書いた文章があります。興味のある方はご覧ください。

鈴木 邦明(すずき くにあき)
帝京平成大学現代ライフ学部児童学科 講師
神奈川県、埼玉県において公立小学校の教員を22年間務め、2017年4月から小田原短大保育学科特任講師、2018年4月から現職。子どもの心と体の健康をテーマに研究を進めている。
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