2023.01.09
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生徒自身の言葉で課題を見い出し、見通しを持って検証(後編) 「メタ認知」を活用させる理科指導

長崎大学教育学部附属中学校では、学校全体でメタ認知を研究テーマに設定し、生徒の自己調整力を育む。前編での授業レポートに続き、後編では理科指導におけるメタ認知の活用場面や、生徒自身の思考を言葉でつなぎながら、多面的な気づきを与え、課題解決の見通しを立てる授業づくりのポイントについて、山田佳明教諭にインタビューし、理科授業も担当する坂本隆典教頭にもところどころでコメントをいただいた。

生徒自身の思考を言葉で話させて、気づきを与える

長崎大学教育学部附属中学校 山田佳明教諭

―「電流と回路」の単元でつまずきやすい点について、教えてください。

山田 佳明教諭(以下、山田) 電圧や電流は直接見ることができません。電圧計や電流計を使って目に見える形にしますが、間接的な理解が必要です。実験を繰り返して概念を形成していくところが生徒には難しいようです。数学的な力が高い生徒は計算だけでも値を求められるのですが、苦手意識のある生徒は最初から気持ちが引けてしまう。そこにもこの分野の課題を感じます。

―単元の始めに、単元全体の課題「豆電球の明るさを決める要因は何か」を示していましたが、これに対し、一人ひとりが検証計画を立てたのですか。

山田 この課題は、豆電球の実験を見た生徒一人ひとりが感じた疑問でした。この課題を理解するために、生徒に学習したいこと、分かるようになりたいことを書き出してもらいました。「電池の仕組みを知りたい」「半導体とか導体って何なのか知りたい」といった書き出しが集まり、私が集約して単元計画に組み込んで授業を展開しています。生徒が知りたかったことを理解できると、課題とのつながりに気づくかもしれない。それは一人ひとりの検証計画に合うものだと思っています。

―今日の授業で工夫した点を教えてください。

山田 生徒自身の言葉で話させて、気づきを与えることを意識して、2つの工夫をしました。

1つ目は、同じ抵抗を用いた最初の演示実験です。抵抗のつなぎ方の違いに着目させて、つなぎ方を変えると全体の抵抗が変わるのではないか、という課題意識を持たせ、本時のめあての設定につなげようとした点です。

(左)長崎大学教育学部附属中学校 坂本隆典教頭

2つ目は、対話で解決の見通しを持たせた点です。検証計画について、生徒はまず「実験で」と言いました。対話を進めると「計算だけでもいける」「計算し実験でも確かめたい」という生徒も現れてきました。生徒の言葉で見通しを持たせようと工夫し、反応もねらいどおりでした。ただ、時間が掛かりすぎて、ちょっと尻切れになりましたが。

坂本 隆典教頭(以下、坂本)  山田先生と生徒の最初の演示実験でのやりとりでは、生徒一人ひとりの思考を待つ時間を取っていたのが良かったですね。生徒からの意見が詰まってシーンとなった場面もありましたが、教師がしゃべらず生徒の言葉を引き出し、そして、つなげたのは、生徒の学びになったことでしょう。

メタ認知を促す

―長崎大学教育学部附属中学校では、今年度からメタ認知に焦点をあてて研究に取り組まれているとのことですが、まず、メタ認知をどのように定義しているか教えてください。

山田 基本的に大阪大学大学院人間科学研究科の三宮真智子先生の学説*に則っています。認知に対する認知、つまり自分の見る、聞く、考えるといった認知的活動を、一つ上の高次な視点から見るという定義です。この定義を教育現場でどのように実践、応用できるかを私たちの教育の主眼に置いています。

*メタ認知とは、認知活動それ自体を対象として認知する心の働きである。メタ認知を働かせることにより、自分の判断や推理、記憶や理解など、あらゆる認知活動にチェックをかけ、誤りを正し、望ましい方向に軌道修正し、また、自分の認知的な弱点を補い、パフォーマンスを向上させる。いずれも学習活動を効果的に行うために欠かせない。
三宮真智子先生HPより

―研究テーマをメタ認知に設定した背景を教えてください。

山田 設定理由は大きく分けて2つあります。

1つ目は、現行の学習指導要領にメタ認知が深く関係するからです。学習指導要領の「学びに向かう力、人間性など」で、自分をうまく調整しながら資質・能力を高めていく調整力を担うものの1つとして、メタ認知を挙げています。

2つ目の理由は、過年度研究で実施した「批判的思考力テスト」の結果で、明らかなメタ認知の効果が見られたことです。メタ認知を働かせることで批判的思考力が向上し、教育的効果が高いのではないかという仮説に至りました。

―理科では、どのようにしてメタ認知的知識、メタ認知的技能の育成に取り組んでいますか。

山田 学校全体で「各教科の学びを活性化させるメタ認知の明示的な指導」をテーマに置き、メタ認知的知識の整理とメタ認知的活動の充実の2点を研究しています。理科では、課題を設定する場面と、見通しを持たせる検証計画の場面、そして振り返り場面の3場面に特化して、10項目のメタ認知的知識を活用する場面として設定しました。本時では、1、5、7、9をつかませたいなと考えました。

理科で育成する10項目のメタ認知的知識
  1. 課題を設定するときは、自然事象を比較し、何が問題で、自分は、何を明らかにしたいのかを明確にする。
  2. 仮説を設定するときは、既習事項や実生活と関連づけて、考えると良い。
  3. どんな学びがあれば、課題の解決につながるのか考え、見通しを持つと良い。
  4. 検証計画立案は、仮説に基づいて、独立変数と従属変数を設定し、条件を制御する。
  5. 検証計画立案は、自己が獲得した習得した技能を俯瞰し、観察・実験の手順や準備物を明確にすると良い。
  6. 結果は、目的に応じて、スケッチや写真、動画などの記録方法や、表やグラフなどの表現方法を選択すると良い。
  7. 検証計画や結果の妥当性を考える際には、他の要因による影響がないかどうかを考える。
  8. 振り返るときは、既習事項や実生活と関連づけて、意味づけたり、価値づけたりする。
  9. 振り返るときは、学習前後の自分を比較することで、自分の変容を明らかにし、次の学びにどうつなげるかを明確にすると良い。
  10. よりよい学びにするためには、他者と協働すると良い。

―この10項目はオリジナルですか。

山田 生徒のメタ認知能力の度合いを測るアンケート調査をベースに、現行の学習指導要領の考え方と私たちの研究の3場面、附属中の生徒の実態を合わせて、理科の研究部員で考えたものです。もう一つ参考として、岩手大学教育学部 理科教育学研究室の久坂哲也先生の文献も参考にしました。久坂先生とはオンラインで10項目の妥当性も協議しています。

生徒一人ひとりの興味・関心を授業に組み込む「単元デザイン」

―メタ認知以外ではどのような取組をしていますか。

山田 理科が育成したい生徒を目指して「自己調整力を育むパーソナライズド・ラーニングの展開」を掲げ、生徒一人ひとりの好みや興味、関心をベースにした授業づくりをしていきたいです。先ほどの生徒に学習したいことを書かせたという話、あれも1つのパーソナライズド・ラーニングの展開です。自分が「どの程度解決できたか」を確かめ、「どうしたらできるようになるか」というメタ認知を働かせながら、自己調整力を育成できると期待しています。生徒の好みや興味、関心を、学習指導要領の中で最大限に取り入れていきたい。そのために、授業の単元計画を結構綿密に立てています。

坂本 これは単元の指導計画に生徒一人ひとりの好みや興味、関心をどう取り入れて、組み立てるかという、教科担任の「単元デザイン」であり、とても重要なことです。デザインされた単元の中で、生徒は基礎的な知識や技能、思考する方法を身に付けていき、「学びに向かう力」についてはメタ認知という方策をとり、単元の終末でさらにレポート、また自分の調べ学習や、新たな課題の解決につなげていくということです。

生徒の自己調整力を育む指導をめざす

―新しい学習指導要領になってどのような変化がありましたか。

山田 「学びに向かう力、人間性」に該当するのですが、生徒一人ひとりがある単元の学習をする前と後の自分を比較し、自分の成長を実感したり、友達などの意見を参考に自分の意見を組み立てたりできるように、私から生徒へのアプローチを意識的に増やしています。生徒も以前よりは自分たちの資質・能力の成長に着目して授業に臨めるようになったかなと思います。

―1人1台端末が配付されて、変化はありますか。

山田 まず1つは、調べ学習が容易になり、実験の記録のあり方も多様になりました。ドキュメントだけでなく、写真や動画で記録するなど、学習スタイルの自由度が広がりました。今日の実験の検証結果を大画面に映し出したように、情報共有も容易になりました。ただ、端末は文具のようなものなので、ノート、教科書類などと合わせて使い方は生徒自身に任せています。

―最後に、今後、構想している新しい取り組みはありますか。

山田 先ほどの実験記録のあり方にも関連しますが、ポートフォリオとして写真や動画、制作物を生徒が個別に残す「スタディ・ログ」も研究の手立ての1つとしています。また、生徒一人ひとりに5時間くらいの小単元の計画を立てさせ、教師は単元の目標を提示し、生徒一人ひとりに問いかけをしながら意見の共有や振り返りを促す伴走者のような役割で授業を展開してみたい。生徒の実感を伴う学びになり、自己調整力を育む手立てになりうると考えています。構想段階で、すべての単元で実現可能というわけでもないですが、できることを広げていきたいですね。

記者の目

長崎大学教育学部附属中学校では「授業は生徒が創る」という生徒学習の姿勢があるという。課題のめあての設定も、解決への仮説も生徒一人ひとりが考えて言葉で説明し、実験手法も生徒が決めていた。教師は生徒の思考のヒントを与えることもあるが、「それ本当〜?」と仮説に疑問を投げかけるときもあった。生徒一人ひとりの思考が整うようにガイドする山田教諭の教育スタイルは、綿密な単元計画があって実現していることをインタビューで知った。学校教育の向上を志す教師の取組をもっと知ってほしいと思う。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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