2024.05.06
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「必要感」を持って、4年間を貫く大単元で探究(後編) 子どもの思考に寄り添ったカリキュラム開発

ここ数年、教育のキーワードとして注目を集める「探究」。2022年度から全国の高校で「総合的な探究の時間」が必修化されたほか、どの教科にも探究の視点が取り入れられるようになった。
今回は、放課後や休み時間に子どもたちが自由に実験・観察ができる「自由理科」や、保護者向け「サイエンスカフェ」などの取組を行っている東京・成城学園初等学校を取材した。後編では、日産財団や読売新聞、ソニー教育財団の教育賞に選ばれた実践などについて、同校理科研究部の古野博教諭、岡崎真幸教諭、林聖也教諭へのインタビューを紹介する。

エネルギーの大単元で卒業制作

岡崎 真幸 教諭

――日産財団理科教育助成 第12回理科教育賞大賞に選定された大単元「プロジェクト解決ハイブリッドカー」について教えてください。

岡崎教諭 「プロジェクト解決ハイブリッドカーを創ろう」は3年生から大単元で連続的に学んできた「車」に関するさまざまな知識をアウトプットするための6年生の課題です。“未来にあったらいいな”と思う車を子ども自身でイメージし、4年間で学んだ知識を組み合わせていきます。

この活動のねらいは「自分が作りたい車には〇〇という機能が必要」と考えてもらうことです。これこそ本当の意味での学習だと思います。実際に子どもたちからは「3年生のときに習った風の力を試してみよう!」や「4年生で学んだ乾電池のつなぎ方を工夫してみよう!」といった話が出ていますね。

古野教諭 「プロジェクト解決ハイブリッドカー」は卒業制作といった位置付けで、作品は校内に展示されます。全学年が見ることができるので、6年生になったときのお楽しみとして待ちわびている子どもも少なくないです。「自分はこんな車を作りたい」と話す子どもも目立ちますね。理科が得意・好きな子も、苦手・嫌いな子もいるという前提で、間口を広げた授業づくりを意識していますが、車づくりは、理科があまり好きでない子どもも、車をデコレーションするなどの楽しみを見出しています。

なお、子どもたちから非常に多様なアイデアが出て来たので、「ハイブリット」は 太陽光と電池で走るといった動力だけでなく、水陸両用車や、障害物と明るさ両方のセンサーを搭載した車、渋滞削減と景色がよいという二つの価値を持つ空飛ぶ車など、価値の「ハイブリッド」としています。

求めている理想と現実の技術との間のギャップを埋められずに、結果的にいい作品が作れなかったチームもありましたが、私たちは結果ではなく、一生懸命考えるという過程に価値があると考えています。下の学年に「解決方法を考えて欲しい」と、引き継がれることもあります。

――本時の授業「車を作ろう」で工夫した点を教えてください。

岡崎教諭 子どもの主体性を引き出すことを重視しました。「車を速く走らせるにはどうすればよいか?」と予想させたとき、「電池を2個にする」という答えが出た時点で次に進むことができましたが、他のアイデアも引き出したかったため、あえて続けました。結果的に「空気抵抗を減らす」「ウイングをつける」といった独創的なアイデアを出してもらえたのでよかったと思いますね。今日実験できなかったアイデアも、放課後の「自由理科」や6年生になったときに検証してもらえればと思います。

また、実験中も主体性に重きを置いたことで、「先生、車にプロペラをつけていいですか?」「電池を2倍にしても速度は2倍になりませんでした。重さが関係していると思います」といった質問やアイデアが出てきました。「もっと工夫したい!」という思いが高まることで、6年生の「プロジェクト解決ハイブリッドカー」にうまくつながるのではと考えます。

防災の視点で子ども主体に

林 聖也 教諭

――本時の授業「川を作ろう」で工夫した点を教えてください。

林教諭 この単元では「流れる水にはどんな力があるのか」を探究するのが目的ですが、内容的にどうしても教師主導となりがちです。そのため、子ども発信の問いを増やすよう心がけました。また、「災害から暮らしを守る仕組み」を学習している社会科と連携したことも工夫した点です。堤防一つとっても、「なぜ堤防があるのか?」「川には削る力があるのでは?」と逆算的思考を用いて、自然現象で起こる事象に気付いてほしいと考えました。

社会科で触れた要素でもあったため、授業中は積極的に発言する子どもが多く見られました。一方で、社会科では能登半島地震について調べた子どもが多かったので、洪水への理解を深める時間をもう少し取るべきだったと反省しています。

自分で課題を持ち、解決を目指せる「探究的理科授業」の開発

古野 博 教諭

――2019年に「第68回読売教育賞」優秀賞を受賞した、『自分の疑問を探究しながら、自然界をつなげていく』理科授業に取り組んだ背景を教えてください。

古野教諭 当校は長きにわたり仮説実験授業や経験主義に基づく授業を展開してきましたが、2012年の全国学力・学習状況調査の「理科の授業で学習したことを普段の生活の中で活用できないか考える」という質問項目で、「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」を選択した割合が全国平均より20%も低かったことをきっかけに、カリキュラム改革に着手しました。

まずは理科担当メンバーで、当校の理科教育を1年かけて分析し、そこから必要なカリキュラムを模索していきました。そもそも、かねてより私たちは「なぜ理科を学ぶ必要があるのか?」を子どもに考えてほしいと願っていました。というのは、日本では小学校では理科が好きという子どもが多いものの、中学、高校になるにつれて減っていくためです。その理由の一つには「仕事で使わないから」があります。とはいえ理科の知識がなければ、災害があった際、自分や家族を守ることができません。言い換えれば「理科は生きるための大切な知識」と子どもたちに気づいてほしかったというわけです。この2つの他に、「農業」や「生物多様性」の大単元を構想しています。

理科探検地図

――理科研究部の4名の先生で、どのように4年間の理科カリキュラムを作っていますか。私立ならではの自由度の高い授業づくりについて教えてください。

古野教諭 カリキュラムづくりでは子ども目線を重視し、「物」「命」「空」「地」「力(エネルギー)」という5つのカテゴリーに分類しています。なぜこの5つにしたかというと、私がこれまで研究してきた結果、理科はこの5要素から構成されていると考えたためです。さらに、単元名を「○○のひみつ」とするなど、子どもたちが興味を持って学べるように工夫しています。

――古野先生は、ソニー子ども科学教育プログラム2021年度教育実践計画(入選)の中で、理科カリキュラムの中に自由度の高い探究ができる小単元を系統的に入れていくことを紹介されています。その中で、公立学校の先生も取り組めそうなものを教えてください。

古野教諭 僕は成城学園に移るまで30年間公立校で教師をしてきました。紹介している取組はすべてそこで行ってきたものです。つまり、全部公立で実施できるといえます。「トコ積み木」は今入手できないかもしれませんが、「すごい紙飛行機を作ろう」はどの学校でもできますし、「街に出て、大発見をしよう」はiPadを持って街に出れば行えます。単元の中でできなければ、学期終わりに「お楽しみ理科」といった時間を1~2時間ほど設け、応用のまとめとして展開するのもいいでしょう。

恐竜化石は地球と生物の歴史を知り、未来を想像する「教材」

恐竜図鑑

――杉の森館 恐竜・化石ギャラリーを活用した授業について紹介してください。

古野教諭 「恐竜・化石ギャラリー」は旧校舎を改修し、2020年秋に開設した施設です。卒業生から提供いただいた恐竜化石を中心に展示しています。地球と生物の歴史を知り、未来を想像する「教材」として活用しており、全学年が年に2回ほど授業で活用しています。

「恐竜」は、先ほど紹介した5カテゴリーで、空にも陸にもいるし、物と命を時間軸でとらえると真ん中に来ます。そもそも日本人はゴジラやウルトラマンの影響もあり、子どもも大人も恐竜が大好きな国民です。主体的に学べる教材はどんどん取り入れるのも本校の特色といえますね。

低学年は見学するだけですが、3年生ではまとめ学習として「恐竜図鑑」のページを作成します。6年生では興味を持った化石を1つ選んで、詳しく調べ、1年生に対して恐竜ガイドとして解説したり、質問に答えたりできるようにします。工芸の時間には、本物のアンモナイトの化石から石膏のレプリカを作ります。開設後まだ3年ですが、現在はカリキュラムの一つの柱となっています。

左から林教諭、笹井さん、岡崎教諭、古野教諭

――今後やってみたいことや課題を教えてください。

林教諭 子どもが主体的に学べるよう、子どもの思考に寄り添ったカリキュラムを開発することです。子どもが学びたいことは、時代によって変わっていくと思っています。特に、今の子どもたちは、幼い頃からiPadに触れていて、YouTubeなどで毎日多彩な刺激を得ています。ゆえに興味の対象はどんどん変わっていくはずです。こんな時代だからこそ、子どもたちに合うカリキュラムを開発することは、教師の大きな仕事だと実感しています。また、当校は新しいことに挑戦しやすい環境であることも特徴です。カリキュラム開発のみならず、さまざまな取組に注力していきたいと考えます。

理科室前の廊下の展示

※理科助手の笹井伸子さんが、その時々の単元などに合わせて更新している。

記者の目

2つの理科授業を取材し、どちらも子どもたちが積極的に自分の意見を発表する姿が見られた。また、それらは学校での学びだけでなく、インターネットや家庭など日々の生活での体験が軸となっていることも印象的だった。これも子どもたちの主体性を軸とした指導の表れに違いない。同校での取り組みは私立だけでなく、公立からも注目が集まりそうだ。

関連情報

成城学園 杉の森館 恐竜・化石ギャラリー リニューアル記念シンポジウム

宇宙物理学者であり、美宙天文台台長の佐治晴夫先生、恐竜研究の第一人者であり古生物学者・国立科学博物館副館長の真鍋真先生、そして司会・進行役には放送作家の倉本美津留氏をお迎えする、〈宇宙〉×〈恐竜〉研究の第一人者による公開対話企画です。
空を見上げたり、大地を見つめたりしながら、地球と私たちの近未来に想いを馳せてみませんか?

【日時】2024年6月1日(土)13:00~14:30
【会場】成城学園 澤柳記念講堂
【入場料】無料(完全予約制)
【お申込み】https://teket.jp/8739/30234
※「恐竜・化石ギャラリー」見学会を同時開催!

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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