2023.09.04
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

主体的に探究する心を育む(前編) 大阪学園「地学基礎」授業レポート

高度情報化社会を迎え、調べることへのハードルが下がり、子どもたちは簡単にスマホで「答え」を得ることができるようになっている。しかし、探究心をより深く掘り下げ、自身の生きた知識にするにはそれだけでは足りない。今回は主体的に学ぶ力を身につけさせる「探究コース」を2019年にスタートした大阪高等学校を取材した。

大阪北部地震の震源を調べよう

今回取材したのは、前時に習った「大森公式」を使って、2018年6月18日に発生した大阪北部地震の震源を決定する授業の様子である。教室の仕切りが外され、2クラスの生徒たちが合同で授業を受ける。

<授業概要>

学年:高等学校1年生(探究コース2クラスの合同授業)
科目:地学基礎
授業者:谷脇 鉄平 教諭、彦野 冬馬 教諭
使用教材・教具:コンパス、定規など

冒頭では大森房吉によって1899年に提唱された震源地を求める公式が確認された。

 D=kT
 D:震源距離
 k:大森定数 6~8km/s ※本時では約7km/sとする。
 T:初期微動継続時間(P-S時間)

≪実習1≫では、A地点(京都府京都市伏見区醍醐)、B地点(兵庫県伊丹市千僧)、C地点(奈良県大和郡山市北郡山町)の地震計の波形データから、初期微動継続時間を読み取り、大森公式に代入して震源地までの距離を求める。

≪実習2≫では、10kmを2cmとして、地図上にコンパスで、3つの観測点を中心に距離を半径とする円を描き、その交点から震央を決定する。

≪実習3≫では、震源の深さを求める。

これらの課題に4~5名のグループで取り組む。

「どの数字を割った?」
「震源、どっちだと思う?」

スラスラと計算を進める生徒もいれば、なかなか進んでいないように見えるグループもあったが、教員は見守っていた。

一番先に課題を完成させたグループは16分ほどで答えを導き出した。しばらくして彼らは、教員からの声掛けにより、進み具合が遅いグループの支援に向かった。

「どこで困っているの?」と問題点を確認して、どのような助けが必要か判断し、解き方を導き出す方法を共有している姿が印象的だった。

正解がひとつではない問いを教員と生徒が共に探究

課題の答え合わせの前に、谷脇教諭は「誤差が生じるので、正答はひとつにはなりません。正答の範囲から外れている答えはどこかの計算方法が間違っていた可能性があります。」と話した。

「なぜ間違った答えが出てきたのか?」「なぜ誤差が生じるのか?」といった疑問を生徒たちが持つことで新たな探究の場が生まれるというわけだ。

生徒たちは「この前の計算が違っていたのではないか?」など、ごく自然に間違った理由をその場で協力して解明しようとしていた。

谷脇教諭は「実は、三平方の定理などを使っても震源の深さを求めることはできます。しかし、中学で習った知識とコンパスや定規などを使っても震源の深さを求めることができます。今日の授業で学んでほしかったことは、資料を読み取る力を身につけ、答えにたどりつく方法は必ずしもひとつではないということです。」と授業を締めくくった。

授業者の振り返り

―本時の授業で工夫した点を教えてください。また、生徒さんたちの反応はいかがでしたか。

「今回の教材資料は彦野先生が作ってくれたのですが、前時に地震波の見方を学んだことを活かしたものとなっていたと思います。今日はほとんど教えることなく、生徒が主体的に動くという目的において非常に有意義なものになりました。

大阪北部地震を題材として取り上げることで、大森公式が身近なものであるという認識を強くするねらいがありました。5年ほど前のことなので、生徒たちの記憶の中でまだ新しく、彼らにとっては体験した地震といえば大阪北部地震なので、それを題材として扱うことで地学が生活に根付いたものであることを自然と感じ取ることができたと思います。」(谷脇教諭)

筆者が、何人かの生徒にこの単元についてどう思うか聞いてみたところ、「生活の中で起こることを題材にしているので興味が湧きやすい」「計算は苦手だけど、地震については興味があるから面白い」「この計算自体は簡単だけれど、地学はいろいろ考えることがあるから難しい分野だと思う」といった答えが返ってきた。生徒が興味を持ちやすい課題を取り上げることで、自分ごととして捉えさせることに成功していた。

後編では、授業者の谷脇教諭、彦野教諭と、探究コースについて、岩本信久校長、玉川輝久教諭へのインタビューをリポートする。

記者の目

正解がひとつではない問題に取り組み、正解のない問いを探究していくことは知的好奇心を刺激し、後の人生において大きな影響を与えるだろう。この単元は地学基礎であったが、学んでいることは広い意味での生きていく力なのではないだろうか。実際に起きた地震を例に挙げ、生活の中で起こりうるできごとにチーム一丸となって向き合う。わからないことは素直に教えてもらう。また、同時にコミュニティの中で自己主張(大阪高校では自己主張しないことも自己主張で個性という考え方だ)を行なっていく中でこの年代の子どもたちがどれだけの知識を吸収し、また発信していくのか、未知なる可能性を感じる授業だった。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop