2023.01.09
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生徒自身の言葉で課題を見い出し、見通しを持って検証(前編) 長崎大学教育学部附属中学校「理科」授業レポート

今年度、「メタ認知」に焦点をあてて各教科の授業の在り方について研究を進めている長崎大学教育学部附属中学校。202211月、山田佳明教諭による2年生理科の「電流と回路」の授業を取材した。生徒一人ひとりに問いかけ、対話を通じて生徒自身が課題を見い出し、その解決のための見通しを持ち、言葉で思考を説明して、クラスで共有するというスタイルの授業を展開している。

授業概要

学年:中学2年生
教科・単元:理科「電流とその利用 抵抗のつなぎ方と抵抗の大きさ」
授業者:山田佳明 教諭
使用教材・教具:黒板、実験器具(電源装置、電熱線、セメント抵抗、電圧計、電流計、豆電球など)、電子黒板、Google Classroom

「豆電球の明るさを決める要因は何だろうか。」

前時までの振り返り

授業が始まると、山田教諭は「豆電球の明るさを決める要因は何だろうか。」と生徒に問いかけた。

「この課題、どうやって設定しましたか?」

「(種類が異なる)豆電球が2つあって、同じ回路なのに片方が明るくなった。何で明るさが違うのかということで、明るさを決める要因を調べるために、この課題に決めたと思います。」と生徒の1人が答えた。

「そうでーす」と他の生徒も同意する。

続いて、山田教諭は「これを解決するために学習を進めてきましたね。解決の要因は何であるという見通しを立てましたか?」と問いかけ、前時の授業のポイントを生徒に説明させようとする。

「電流と電圧と抵抗」
「発見したことがありましたね」
「ぶり」
「出ましたね『ぶり』。『ぶり』って何?」
「電圧=抵抗×電流」(V=R×I)

テンポよく対話が進む。山田教諭の問いかけは本時の授業の目標でもある抵抗の直列回路と並列回路の規則性に及んできた。

「電圧、電流、抵抗の3つの規則性はオームの法則で分かっていますね。だけど、抵抗を直列つなぎしたときや、並列つなぎにしたときの規則性みたいなところは、まだ分かっていませんね。」と、授業の本題に入った。

演示実験から課題を見いだす

山田教諭は1つのテーブルの周囲に生徒を集めた。テーブルの上には、同じ種類の豆電球をつないだ2種類の回路があった。1つは抵抗を直列につないだ回路、もう1つは並列につないだ回路。2つの回路は抵抗のつなぎ方以外は、すべて同じ条件になっている。

「直列の方からつなぐね。」と、電源を入れると豆電球に弱めの光が灯った。

「おおー」「なんか暗い?」と生徒から声が出る。

「じゃあ、次は並列をつなぐね」と先生が並列回路に電源を入れると、豆電球は通常の明るさの光を灯した。

「おおー!」「もとの明るさと同じじゃない?」

先程よりも光が明るくなったからか、生徒の声も大きくなった。

すると、山田教諭が問いかけた。
「同じ大きさの抵抗を使っているのに、どうしてこういうことが起こるのでしょうか?」

これは、おそらくこの場にいる生徒全員が感じた疑問だろう。

「同じ抵抗を使っているのに、直列は暗くて並列は明るい。暗いということは、直列の方が抵抗値が大きいのでしょうか?」

生徒は小声で意見を交わすが、なかなか思考が追いつかないのかその声も途絶えた。少しの間、沈黙が流れたが、山田教諭は生徒一人ひとりが思考を整理するのを待った。

解決に向けて見通しを持つ

やがて、1人の生徒が言葉をつなぎながら答えた。そこから「電圧が関係しているんじゃない?」「電流は同じだけど、電圧が小さくなる…?」など全体でガヤガヤと生徒が意見を交わしだした。

いくつかの生徒の言葉を経て、「水の流れる速さで例えると、直列は2個分の水車の抵抗があって、流れる速さが減速される。並列は分かれているけれど水車は1個ずつあるだけなので、あくまで全体では1回分の水車の抵抗しかないってことじゃないかな」という集約的な意見が現れた。

そこで、山田教諭は「皆さんの考えをぐぐっと集めたような意見ですね。」としつつ「でも、これって本当ですかね?」と疑ってみせた。

すると、生徒から「実験で確かめたい!」という声が上がった。

山田教諭は、演示実験から生徒一人ひとりに「豆電球の明るさを決める要因は何だろうか」という課題を考えさせ、問いかけによって要件整理をしながら、1つの見通しへと導いた。そして、その見通しは本当かどうかを検証する必要があるのだ、という気づきを生徒に与えた。

検証計画を立てる

実験を始める前に、山田教諭は検証計画の立案を促した。いきなり実験をするのではなく、具体的にどんな実験をして、何を検証をするのかを明確にするためだ。

合成抵抗の値を求める検証計画を考えていく段階になると、山田教諭は「今まで学んだ、オームの法則のようなものは使えそうですよね。」と話しながら、黒板に書いた直列と並列の回路図を指して問いかける。

「それぞれの抵抗の大きさは変わらないのだけど、つなぎ方によって、もしかしたら2つ合わせた全体の抵抗は変わるかもしれないぞ、という予想なのですよね。どう検証すればいい?」

回路図の直列の抵抗の上に、紙に大きく描いた抵抗の図を重ねて見せ、「これを1つの抵抗と見立てて、電圧と電流から全体の抵抗が何Ωになっているのか調べる。そして、1つ1つの抵抗と比較したら分かってくるんじゃない?」と問う山田教諭。

「2つのセメント抵抗の端をつないで、2つまとめた電圧を測ればいいのでは。」という意見が出た。理論的には測らなくても電源の電圧と同じだが、「測りたい人もいるかもね。」と選択肢を残す。並列でも同じようにすれば、実験とオームの法則で全体の抵抗が出せる、という見通しが立った。

実験や計算でグループで解決する

ここで山田教諭はさらに畳み掛けた。
「他の方法がいい、という人はいますか?」

「(規則性を使って)先に1個のセメント抵抗にかかる電圧と電流を出す。電流はオームの法則で出る。その後で実際に違うのか、変わらないのかを確かめる。」と、計算で抵抗値を出してから、実験で確かめるという生徒が出てきた。

「もしかしたら、実験せずとも関係性が見えてくるかもしれませんね。あえて実験しない班もあっていいと思う。でも、確かめたいという班は実験して構わないです。それぞれのやり方で協力してやってみてください。」と言い、生徒は班ごとに分かれて、それぞれのやり方で検証することになった。

実験をする生徒は、セメント抵抗や電源装置などの必要な器具を選んで、回路を組み立て始めた。

どの位置に何を配置したらよいのか、計測器はどこにつなげばよいのか分からなくなって、生徒同士で相談し合う班もあれば、実験と計算を分担している班もあった。

計算だけで値を出すと決めた班は、ノートだけを出してオームの法則を表す式に数値を当てて計算を進めた。

一方、班内で意見が合わず、なかなか検証が進まない班もあったが、山田教諭は各班の様子を見守った。

結果の共有:デジタル機器と発表の両方で結果を共有

アラーム音が鳴り、検証時間が終了した。それぞれの結果をGoogle Classroomで共有する。山田教諭があらかじめ全9班の検証方法、直列、並列の抵抗値を入力できるスプレッドシートを作成していた。それに、生徒がタブレットから結果を直接入力する。ノートを撮影した画像を提出した班もあった。

山田教諭が班の検証方法の説明を求め、ある班の生徒が答えた。その班では、計算も実験も行い、並列回路の場合は全体の抵抗値が5Ω、直列回路の場合は20Ωになったと発表した。発表の過程では、黒板に計算して導いた電流の大きさを書き入れて説明した。

説明はこれまで学習した回路のつなぎ方と電流、電圧、抵抗の規則性やオームの法則を理解して結果を導き出していることが伝わるものだった。

電子黒板に映し出された検証結果では、実験のみで検証した班は数値に若干の誤差が出ていたが、おおむね、並列回路が5Ω、直列回路が20Ωを示していた。

今回の授業では、同じ抵抗の大きさを使ったとしても直列つなぎと並列つなぎで、全体の抵抗が違ってくることを予想し、検証して確かめることができた。山田教諭は迫る授業の終了時間に早口になりながらも、最後に生徒に伝えた。

「今日は一人ひとりが思考する姿が見えて非常によかったと思います。次の時間は、考察をしっかりやっていきましょう!」

後編では山田教諭に授業の取り組みの裏側と、長崎大学教育学部附属中学校で取り組む「メタ認知」の活用についてインタビューする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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