2022.01.12
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対話を促す先進テクノロジーの可能性 北海道教育大学 未来の学び協創研究センター 寄稿 vol.1

国立大学法人北海道教育大学は、GIGAスクール構想推進拠点の一つとなるべく2020年10月1日に「未来の学び協創研究センター」を設立しました。また、同年12月23日に株式会社内田洋行と包括的事業連携を結び、次世代における子どもの学びの質の向上を目指し、仮想と現実を組み合わせたハイブリッド型授業の研究や教材開発などを通じて、次世代の教育を提案、推進しています。

「学習コミュニティ研究部門」「アクティブラーニング授業開発部門」「教職キャリアデザイン研究部門」の各部門から取組を紹介いただきます。vol.1では「教職キャリアデザイン研究部門」の北海道教育大学札幌校の中島寿宏(なかじま としひろ)准教授に寄稿いただきました。

現在、様々な分野において新しいデータ収集・解析システムや人工知能(AI)といった技術が開発され、事業化・社会実装されるようになってきています。教育分野においても同様に、先進的なテクノロジーの活用によって授業改善や授業検討に役立てようとする試みが多くみられるようになっています。

1.先進技術を用いた子どものコミュニケーションの可視化

改訂された新しい学習指導要領では、すべての教科において伝え合う力の育成が求められるようになりました。各教科の授業では対話的学習活動が重視されるようになっていますが、実際に子どもたちがグループでの話し合いにどのくらい参加しているのかについては、教師側からの観察のみではその状態を正確に把握することは難しいと考えられていました。しかし、最近ではウェアラブルセンシングツールの活用によって、子どもたちのコミュニケーションの様相を客観的に捉えることが可能となってきています。

例えば、日立製作所が開発したビジネス顕微鏡®️(図1)は、3軸加速度計による児童生徒の身体の微細な振動パターンと、赤外線による相互の対面状態についてのデータを収集・解析することで、誰と誰がどのくらい会話をしていたかを可視化することができます。授業内での子どもたち相互のコミュニケーションの状況をデータとして把握することによって、教師は授業での自身の子どもたちへの関わり方、課題提示の方法、授業展開や進行の仕方、教材の工夫などが、児童生徒の対話的学習を引き出せているかどうかについて振り返ることが可能となります。

図2はある中学校1年生体育の創作ダンスの単元1回目授業において、生徒たちのコミュニケーション状態をビジネス顕微鏡®️によってネットワーク図として自動出力した結果です。このネットワーク図ではグループ内のコミュニケーションでつながりの強かった関係が表れています。単元の初期では、課題共有やテーマ設定がうまくいっていないグループがいくつか存在していて、グループ内の話し合いが停滞している様子が確認できました。しかし、その後に授業者がグループへの関わり方や課題提示の方法を工夫した結果、単元3回目の授業では生徒の課題意識の共有が進み、グループ内でのコミュニケーションが促進されていた様子がネットワーク図から確認できました(図3)。グループとしての課題を生徒たちが把握・認識していくことで、課題解決のための具体の話し合いが深まる様子が表れています。この事例では、先進的テクノロジーを用いて子どもたちのコミュニケーションの状態を可視化することによって、教師が授業改善する手立てを検討・実践し、さらにはその成果についても確認することが可能となりました。

2.可視化データによるオンライン授業検討会の実施

新型コロナウイルス感染拡大によって、我が国でも短期間のうちにオンラインでのやりとりが一般化しました。今ではオンラインでの会議への抵抗感を持つ人も少なくなっているかと思います。このような社会的な大きな変化の中で、オンラインでの授業公開や授業検討会の取組も見られるようになっています。

オンラインでの授業公開や授業検討会(図4)では、授業映像や授業についての具体的なデータが提供されることで、対面参加することなく授業の様子を確認し議論への参加が可能となります。対面での公開授業・授業検討会への参加では、現場の雰囲気が直に感じ取れるというメリットがありますが、検討会ではそれぞれの感想を紹介し合うことに時間が費やされ、話し合いのテーマが定まらずに、授業改善に向けた具体的な議論にならないというデメリットも指摘されています。オンラインでの検討会では確かに現場の雰囲気を感じることは難しいですが、その一方でデータに基づいたディスカッションによって参加者たちの課題や意識が焦点化しやすく、授業者が必要とする具体的な提案や助言を得られやすいというメリットもあります。

また、ビジネスチャットなどを活用することによって、授業・検討データの蓄積が可能となり、授業についてのさらなるディスカッションの促進も期待できます。一般的な対面での授業研究会・研修会では、参加のための時間確保や移動が必要となるために、実際の参加機会は限られてしまいます。ビジネスチャットなどのオンラインのシステムを活用することで、授業見学やディスカッションへの参加が容易になり、これまでよりも多くの研究・研修の機会を得ることが可能となります。

このように、オンラインでの授業公開・検討会では、対面によるメリットが得られない一方で、ディスカッションを深めたり参加しやすくしたりという、参加者同士での対話を促進につながる可能性が期待できます。

3.まとめ

現在、急速な技術革新によって教育界も大きな変革の時期を迎えます。新しく得られる各種データを総合的に判断することによる子ども同士のコミュニケーションの活性化や、様々なデータに基づいたオンライン検討会・研修会による教師たち同士のつながりの強化など、先進テクノロジーによる様々な場面での対話の可能性が広がっていると言えるでしょう。

文・画像:北海道教育大学札幌校 准教授 中島寿宏

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