2018.03.28
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全国学力・学習状況調査の結果をどう読み解くか カードで共有する分析ワークショップリポート

皆さんは、全国学力・学習状況調査の結果を自校で活用されていますか。

近年、エビデンスに基づく教育改善が叫ばれるようになり、学力調査結果を学校独自で分析し、その結果を日々の指導や学習状況の改善に活かすことが重要視されています。その際には教員が、学力調査の教科に関する調査の結果だけでなく、児童生徒の生活状況や学習状況について問う質問紙調査の結果も組み合わせた分析を行うことで、様々な視点から児童生徒の姿を把握することが必要になります。

京都市立向島東中学校では、このような教員の分析力を高めようと、昨年度に引き続き2回目となる「全国学力・学習状況調査結果分析ワークショップ」を開催しました。参加した教員は担当教科を超えて話し合い、生徒の資質・能力向上のためにどのような授業改善に取り組むべきか検討しました。

京都市立向島東中学校の授業改善への取り組み

今回のワークショップの開催校である京都市立向島東中学校は、他者を受け容れ自己と向き合い、よりよく生きようと歩み寄る能力として「折り合いをつける力」の育成を目指しています。この力を育成するために、全校をあげて「知識構成型ジグソー法」に取り組み、文部科学省からは継続的にアクティブ・ラーニングや人権教育に関わる研究の指定を受けています。様々な課題がある学校ですが、生徒全員が授業に主体的に参加し、問題を解決する力を養えるような授業改善を行ってきました。

エビデンスに基づく授業改善に向けては、普段の取組と学力調査等の分析結果をあわせて現状の課題を見つけることが必要です。内田洋行教育総合研究所では、平成28年度から向島東中学校の全国学力・学習状況調査の結果分析を支援してきました。今回の全国学力・学習状況調査結果分析ワークショップを通じて、様々なデータから自校の学力実態を把握でき、成果と課題がより明確に見えてきました。

<開催概要>
日時:平成30年2月14日(水)15:30~17:00
主催:京都市立向島東中学校
対象:同校 教員 18名

<主なプログラム>
15:30~15:45 趣旨説明、昨年度の結果共有
15:45~16:30 ワーク(1)
       【個人での分析】【グループ内での意見共有と分析】
16:30~16:55 ワーク(2)
       【他グループとの意見交換】
16:55~17:00 振り返り

ワークを始めるまえに

内田洋行教育総合研究所の平野主任研究員による概要説明

内田洋行教育総合研究所の平野主任研究員による概要説明

はじめに、同研究所の平野智紀主任研究員から、全国学力・学習状況調査について、概要が説明されました。特に、調査目的の一つが、「学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てる」であることが強調されました。

次に、前年度の調査結果分析ワークショップで出た意見を紹介し、調査結果から見えた自校の成果や課題を振り返りました。そして、今回のワークショップでは「根拠をもとに『自校の生徒の折り合いをつける力の向上』のための手立てを考える」という目標が設定されました。

ワーク(1) グループに分かれて分析

ここからいよいよ、5つのグループに分かれて、今年度調査結果の分析活動に入っていきます。ここで使用するのは、付箋とペン、そして調査結果カードです。

調査結果カードのサンプルイメージ (※開催校の調査データではありません)

調査結果カードのサンプルイメージ (※開催校の調査データではありません)

<調査結果カードとは>

  • 学力調査や質問紙調査の一つの結果を表すグラフと、その特徴についてのコメントを記載
  • グラフには、平成27~29年度の向島東中学校の結果と、今年度の全国の結果を表示
  • 向島東中学校の過去3年分の結果を元に、事前に内田洋行教育総合研究所が作成
個人作業による結果分析

個人作業による結果分析

まずは、グループ内でカードを分担して個人作業が始まります。グラフが表す結果についてどう思うか、その結果に至った要因は何か、これからどのような手立てをすることが考えられるかなど、思いついたことを付箋に書いて次々とカードに貼っていきます。

 グループ内での話し合い

グループ内での話し合い

メンバー全員が意見を書き終えたら、グループ内でそれらを共有します。
「この質問紙調査結果と、普段の授業の様子を合わせて考えたんやけど……」
「学力調査のこの項目が伸びているのは、ジグソー学習の成果とちがうかな?」
「この項目は全国平均より低かった。その理由と考えられるのは……」

カードの説明や分析した内容の共有から始まった話し合いは、次第にお互いのカードを組み合わせた視点からの分析や、結果から見える課題を改善するためのアイデア出しへと移っていきます。

「○○先生のカードの分析と私のカードの分析、似てるなあ」
「この学力調査の結果と、こっちの質問紙調査の結果って、もしかして関連づけて考えられるんちゃう?」

グループのまとめ(例)

グループのまとめ(例)

話し合いが深まったところで、自グループの意見を発表する準備に入ります。ポイントは、台紙にすべてのカードが載り切らないため、カードの優先順位づけが必要になることです。グループとしてカードからどのような課題を読み取り、解釈し、改善の手立てを考えたのか、調査結果カードと付箋を台紙に貼って説明し、キャッチフレーズをつけて読みやすくまとめました。

ワーク(2) 他グループと意見交換!

他グループとの意見共有

他グループとの意見共有

最後は、ワールドカフェ形式を参考に、他グループとの意見交換。グループのうち1人がテーブルに残り、まとめた意見を他グループの教員に説明します。説明係でないメンバーは違うグループの説明を聞きに行き、あとからグループ内で共有するという手法です。

各グループによって、注目した調査結果や導き出した課題と解決の手立ては異なり、熱心にお互いの説明を聞いていました。また、「ジグソー活動はこれからも継続していきたい。みんなが発言できるように工夫をしたい」、「生徒同士で、今以上に教え合いや認め合いができるようなることが必要ではないか」など、「折り合いをつける力」の向上のために今後どのような取組をすべきか、活発な意見交換がなされました。

参加した教員は、調査結果を使って考えることに手ごたえを感じたようで、終了後、以下の感想がありました。

  • 普段はデータをじっくり読み取り課題を明確化する機会はないので、よい研修だと思った
  • 生徒と接しているだけでは把握できなかったデータをもとに考えることができた

また、教科の枠を超えて教員同士で議論することで、多様な視点から分析することができたという声も聞かれました。

  • 普段何となく考えていたことを他教科の教員と話す機会となり良かった
  • 教師同士で分析をして、様々な視点で生徒の姿を考えることができた
  • 他の教科の教員の生徒を見る目を共有でき、自分の中の生徒観を磨くことができた
記者の目

今回のワークショップのポイントは、以下のようにまとめました。


  • 自校の調査結果を使い、目の前の生徒の課題分析ができたこと
  • 学力調査の成績だけでなく、質問紙調査の結果からも分析できたこと
  • 複数の調査結果(複数の調査結果カード)を組み合わせた分析ができたこと
  • 数値のみで判断するのではなく、生徒の日常の様子や教員の経験、生徒観を踏まえた分析ができたこと

何より、「折り合いをつける力」の具体について、データをもとに教員がお互いの解釈や意見を交換・共有し合えたことが今回の大きな成果と言えるでしょう。大切なのは、「結果から何をどのように読み取るか」には様々な解があるなかで、それらについて教員同士が議論をするということです。向島東中学校のように、教員が知恵を出し合って調査結果を分析し、課題と解決の手立てを考え日々の指導に活かしていくことが、これからの学校に、ますます求められていくことでしょう。

関連情報

【学力データ活用に関するお問い合わせ先】
株式会社内田洋行 教育総合研究所
教育データ活用推進担当:TEL 03-3555-4796

執筆:内田洋行教育総合研究所 研究員 加藤紗夕理、伊藤志帆

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