2023.01.23
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6年生がコンサルタントになって、先生方の悩みを解決(後編) プログラミング的思考を働かせる授業デザイン

2020~2022(令和 24 )年度の東京都葛飾区のプログラミング教育研究指定校の区立東金町小学校。令和4年度は「東金 Innovation~プログラミング的思考を働かせる授業デザイン~」を主題にSTEAM教育を展開している。1122日(火)には昨年竣工した新校舎で研究発表会が開催され、STEAM教育を軸とした全学年の授業が公開された。後編では授業者の太田淳平教諭と、教材「小学生から始めるSTEM・データサイエンス」の開発に関わった東京学芸大こども未来研究所の原口るみ専門研究員、中村謙斗専門研究員へのインタビューを紹介する。

全教員がSTEAM教育の研究授業を実践

葛飾区立東金町小学校 太田淳平教諭

―東金町小学校のSTEAM 教育の取り組みについて教えてください。

太田教諭 本校では、どの授業にもSTEAMの要素はあると捉えており、全教員がICTを活用した研究授業を行い、授業後に教員同士で振り返る時間を設けています。たとえば「Art/Arts」を想定していたけれど、実は「Math」の要素もあったというケースも珍しくありません。また「Art/Arts」といっても音楽や美術だけではなく、もっと文化的な要素が含まれていることもあります。このように、ここ1、2年は教員同士でコミュニケーションを図りながら、STEAMの要素を見出し、そこからさまざまなアプローチを実践してきました。

―アクセンチュアや東京学芸大こども未来研究所と連携したきっかけは何ですか。

太田教諭 「小学生から始めるSTEM・データサイエンス」とはまた別の、東京学芸大こども未来研究所が開発したプログラミング教材を導入したのがきっかけです。校内の技術力では足りないところがあり、サポートしていただいた形です。そのとき「データサイエンスの教材もやってみませんか」と紹介されました。

アプリの画面

―「東金DSⅡ」とありますが、Ⅰはどのようなものでしたか?

太田教諭 1学期に、アクセンチュアと東京学芸大こども未来研究所が開発したwebアプリ教材で学ぶ授業を行っており、それを「東金DSⅠ」とし、2学期は同じ手順で実践したということで「東金DSⅡ」としました。

―データ活用について、どのような基礎スキルを指導していますか。

太田教諭 タイピングスキルを重視しています。タイピングができなければ、フォームやスライド作成など全てが進まないので、校内で4年生以上を対象に検定もやっています。中には操作でつまずいてしまう子もいますが、周りがサポートする雰囲気があるので、教員として安心して指導できている状況です。またタブレットやインターネットを適切に使うためのモラル指導も同時並行で行っています。

データサイエンスで、お世話になっている人の悩みを解決する

―今回の授業で、依頼人が養護教諭や交通誘導員、栄養士などの職種となった背景を教えてください。

太田教諭 子どもたちからは校長先生なども候補に挙がりましたが、学校では色々な人たちがみんなのために頑張っていることに焦点を当てたかったので、教科の先生以外としました。まず候補者を洗い出し、データが集められそうな方、子どもにも悩みが理解できそうな方に絞りました。

いつもお世話になっているからこそ、インタビューで悩みを聞けたことで、「解決してあげたい」と乗り気になり、真剣に考えることができたと思います。対象とする依頼人は子どもが自由に選べる形にしましたが、チーム分けはわりとスムーズに決まりました。

―本時の授業で工夫したポイントを教えてください。

太田教諭 解決策はデータに基づくようにと伝えるものの「悩みは〇〇なはずだ!」「解決策は〇〇しかない!」と子どもは勝手に結論づけてしまいがちです。そのため、データの内容をしっかり見ることを意識させ、解決策を導いてもらいました。また発表方法についても指導し、そのおかげもあって声を大きくしたり、台本ばかり見ずに前を見ながら話す、スライドの文字を読めるサイズにするなど、目に見える形で頑張りが実感できました。

ただ発表よりも評価が難しいようで、Jamboardに「いい発表だった」「よかった」「数値もわかりやすかった」「アドバイスはありません」といった言葉が並び、「ポスターや新聞が本当に一番効果的なのか」「このデータだけでは不十分なのではないか」といった視点でのアドバイスは出なかったので、今後の課題としたいと思います。

―この学習活動によって、子どもたちの生活態度にも変化がありましたか。

太田教諭 自分の周りの人たちに目を向けられるようになったことが大きな変化ですね。何度もインタビューに行く中で、「掃除をしてくれている」「給食を作ってくれている」など、お世話になっている人の仕事を意識できるようになったと感じます。コロナ禍により今年の6年生は多くのイベントが縮小・中止になり、運動会も学年別開催だったので、6年生らしく学校全体のために活躍できたという達成感を得られる貴重な機会になったはずです。

―授業ではGoogle スライドやスプレッドシート、Forms、Jamboard、ムーブノートなどを活用されていますが、子どもたちはすぐに使い方に慣れましたか。

太田教諭 昨年度は画面の開き方など基本的なところから教えましたが、ある程度基礎が身につくと、子どもたち自らがさまざまな機能を調べたり、すぐ慣れていきました。私が教えることなく、新たな活用法を見つけどんどん成長していましたね。総合だけでなく国語や理科、社会など多くの教科で活用したことで、習得スピードがより早くなったと考えます。全校児童にアンケートを取って、集計結果を円グラフにするなど、1人1台端末があるから可能になったことです。

データサイエンスという武器で社会問題に取り組む小学生向け教材

東京学芸大こども未来研究所 原口るみ専門研究員

―「小学生から始めるSTEM・データサイエンス」開発の経緯について、教えてください。

原口氏 これからの時代に求められる素養は何か?を考え、行き着いたのがデータサイエンスでした。政府統計e-Statをはじめ、インターネットには無数のデータがあり、子どもでも簡単に手に入れることができます。ですが、大事なのはデータを集めることではなく、データを使って新しい価値を生み出すことです。

データを使いこなすスキルの習得にあたって、総合コンサルティング企業アクセンチュアほどピッタリな企業はないと考え、ご一緒させていただいた次第です。アクセンチュアも、この取組は日本の人材課題の解決につながる一歩であると、社会貢献活動の一環として参画してくださいました。私たちはSTEAM教育の視点で、アクセンチュアはデータサイエンスの視点で教材を作り上げました。

アクセンチュアのみなさんは業務を行ううえで、データを集めて分析するだけでなく、関係各所に話を聞くことで最良の解決策を導くといいます。そういった、実際のコンサルティング現場での生きた知見が採用されているのもこの教材の特徴だと思います。テーマはSDGsでもよく取り上げられる「フードロス」となっていますが、これはアクセンチュアのみなさんからの「子どもたちに身近な社会テーマがいい」というアドバイスが背景にあります。

東京学芸大こども未来研究所 中村謙斗専門研究員

中村氏 アプリだけでは使いこなせない先生もいることを想定し、パート1はプリントして使えるアナログ版で6時間、パート2はアプリで4時間という構成にしました。現在、高校の「探究」で使える教材も開発中です。

今回は、1時間目は講義形式で行ったのですが、2時間目からパート2のアプリを使ったところ、子どもたちの集中力が格段に上がって。これも1人1台端末の魅力と感じましたね。端末は別々ですが、4人グループで進度を揃えて、相談しながらアプリ上で課題を進めてもらいました。1人だけで進めるよりは、みんなで相談できる環境が良かったようです。

―今後、構想している新しい取組などはありますか。

太田教諭 根拠をもとに相手に提案を伝えていくというのは、子どもたちの今後の人生では間違いなく必須のスキルになるでしょう。卒業まであと数ヶ月となり、「東金DSⅢ」に取り組む時間はありませんが、中学校進学後も自然に活用していけるように、データや統計資料などを集めて問題を整理し、解決策を提案するという学習はこれからも続けていきたいと思います。

記者の目

授業を取材して、どのグループの提案もしっかりデータを提示していることが印象的だった。太田教諭によれば、データ取得にはGoogleフォームが活用されているそうで、今回の授業だけでなく、学級会や係活動など多くのシーンで使われているとのことだ。大人でもGoogleフォームを使ったことがない人がいる一方で、小6でさまざまなアプリを使いこなせる彼らが社会人になったとき、どのようなパフォーマンスを発揮するのか楽しみで仕方ない。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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