2016.05.10
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『全国学力・学習状況調査分析・活用学習会』 意外と知らない“全国学力・学習状況調査”データをどう読み解くか

春休み目前の暖かい日差しが降り注ぐ中、横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校では、「春の学習会」と銘打った『全国学力・学習状況調査 分析・活用学習会』が開催された。貴重な調査結果を、どのように日々の学力向上施策につなげるか。教職員が真剣に取り組んだ学習会の模様をリポートする。

調査結果の分析手法を学ぶ

全国学力・学習状況調査は、例年4月中旬に全国の小学校6年生・中学校3年生を対象に実施され、8月末に結果が提供される。ただ、この調査結果を活用するために、どのように分析するかを学ぶ機会はなかなかないというのが多くの学校の実情だ。今回、学校全体で調査結果の概要、帳票の読み方、分析について学び、さらには学力を上げるにはどうすれば良いのか、グループワーク(アクティブ・ラーニング方式)を通じて参加者同士で考える場が設けられた。

開催概要

日時:平成28年3月22日(火)14:00~17:00
主催:横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校
対象:横浜国立大学教職員、神奈川県内教育行政担当者、その他

主なプログラム

14:00~14:40 趣旨説明・ウォーミングアップと分析例の紹介
14:55~15:40 グループワーク(1)
15:50~16:30 グループワーク(2)
16:30~16:50 全体共有
16:50~17:00 まとめ

内田洋行教育総合研究所の平野智紀主任研究員より概要説明

はじめに、内田洋行教育総合研究所の平野智紀主任研究員から、全国学力・学習状況調査について、その概要が説明された。

全国学力・学習状況調査における学力調査は、国語と算数・数学、3年に1回程度の理科を対象としており、主として「知識」に関するA問題と、主として「活用」に関するB問題に分かれていること。また、学校質問紙と児童生徒質問紙という学習状況を知るためのアンケートから成っていることは皆さんもよくご存じであろう。

この全国学力・学習状況調査の目的は、そもそも、教育施策の成果と課題を検証することであり、検証改善サイクルを確立し、教育指導の充実や学習状況の改善等に役立てるためのものである(詳細は、「意外と知らない”全国学力・学習状況調査”」参照)。この目的からも、調査結果を分析して活かすことが非常に重要であることを再確認した上で、具体的な事例(実データ)を基にしたワークショップを行うことが説明された。

ウォーミングアップでは「あなたは、学力向上にはどのようなことが必要だと思いますか?」という問いに対し、現状での個人の意見を記入する。その上で、同じグループとなるメンバーの自己紹介も兼ねて、意見を交換した。

次に、参加者が知りたいと思っている「帳票の見方、分析方法」の説明に入る。ある自治体の調査結果のサンプル帳票を元に、分析の視点を示していく。例えば、生徒質問紙において、「国語の授業がよくわかる」「国語の記述式設問を最後まで解こうと努力した」という項目は全国平均より5ポイント以上低い、ということに着目すると「国語に対するあきらめがあるかもしれない」という仮説・解釈ができる。このような視点がいくつか示され、いよいよワークショップに入る。

担当する調査結果について気づいたことをメモする

ワークショップは、グループワーク(1)、グループワーク(2)からなるジグソー形式で行われた。

まず、グループのメンバーは、それぞれが、国語・数学・理科・生徒質問紙のいずれかの担当者となり、一旦、そのグループから離れ、国語なら国語の担当者同士のグループを再構成する。グループワーク(1)では、まず、担当する調査結果について「A中学校」の帳票をためつすがめつ、気づいたことをどんどんメモしていく。

グループ内で活発に意見交換

ある程度、読み取ったら、担当者の中で意見交換する。
「この項目は全国平均より高い」
「次の項目も高かった」
「でもこの項目は、全国と傾向が全然違う」
「それってこういうことなんじゃない…?」
 など、それぞれが気づいた点を活発に交換していく。

各担当での発見を持ち帰って共有するのが、グループワーク(2)だ。国語・数学・理科・生徒質問紙の担当者がそれぞれ特徴的な結果を解釈し、仮説を紹介する。

4分野を組み合わせ考察した結果を模造紙にまとめる

「理科のこの分野だけ低い」
「自分との関わりは書けていない」
「それって、単に読解力に課題がある、ということなのかなあ」
「答えを間違えるのが怖いとか」
「それって、どこのデータから言えるの?」
 のメンバーで、四つの分野を組み合わせたら何が言えるのか、根拠となるデータを示しながら懸命に話し合う。最終的に A中学校の生徒の学力向上には、どのようなことが必要かを1枚の模造紙にまとめた。

全体共有の時間では、各グループが模造紙を見せながら、どのような話し合いがなされ、結論が出たかを発表する。
「学習の動機に焦点を当てる必要がある」
「生徒が狭い社会、狭い視野でしか物事を見ることができていないようなので、もっと世界を広げてあげる必要がある」
 など、データに基づいた向上策が共有された。

グループごとに結論を発表し、全体で意見を共有する

グループでの活動は、最後に参加者個人に返る。各グループの意見を見聞きして、改めて「あなたは学力向上にはどのようなことが必要だと思いますか?」という問いに向き合う参加者達。学習会後の感想には、以下のようなものがあった。

◆具体的にどのように帳票を分析していけばよいかということをワークショップで体験できた。

◆普段の生徒の状況から、何となく見えていることではあったが、データを基に考え、根拠を持って話をできることが重要だと感じた。

◆一つ一つの数字に目が行きがちだが、複合的に考えていくと、新たな課題を見えてくることがわかった。

◆学力を単独の数値だけで見ても、情報として不十分であり、生徒質問紙にある生徒の生活状況や特性、目の前の生徒の変容から照らし合わせて課題が浮かび上がり、改善策についても考えることができることがわかった。

横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校 研究主任 山田敏英 先生

最後に、今回の学習会を企画した横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校 研究主任 山田敏英先生にお話を伺った。
「今回の研修目的は、これまで各学校が独自に取り組んできた調査結果の分析方法等が正しいのかどうか、その根拠を得ることでした。本研修のテーマである『調査結果を協働的に見ること』は一見難しそうに思えますが、解答類型の解釈や比較基準の決め方、分析の仕方などを学校の教職員がチームとなって作業すれば、たくさんアイディアを出すことができると共に、全員が一度に結果分析の状況把握を行えるとわかりました。これならば、各学校ですぐにでも取り組め、学力向上に向けて何が必要なのか把握することができるでしょう。本校にとっても、これまで取り組んできた調査結果の分析方法に間違いはなかったと確信が持てる研修となりました」。

学力向上に正解はない。今回のような分析手法を学ぶことが、各自治体・各学校での具体的な学力向上策の検討への第一歩となることが期待されている。

学力データ活用に関するお問い合わせ先

株式会社内田洋行 教育総合研究所
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取材・文:内田洋行教育総合研究所 研究員 中尾 教子

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