2022.04.13
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VRを活用した教育 北海道教育大学 未来の学び協創研究センター 寄稿 vol.2

国立大学法人北海道教育大学は、GIGAスクール構想推進拠点の一つとなるべく2020年10月1日に「未来の学び協創研究センター」を設立しました。また、同年12月23日に株式会社内田洋行と包括的事業連携を結び、次世代における子どもの学びの質の向上を目指し、仮想と現実を組み合わせたハイブリッド型授業の研究や教材開発などを通じて、次世代の教育を提案、推進しています。

「学習コミュニティ研究部門」「アクティブラーニング授業開発部門」「教職キャリアデザイン研究部門」の各部門から取組を紹介いただきます。vol.2では学習コミュニティ研究部門長の北海道教育大学札幌校 技術教育学研究室の佐藤 正直(さとう まさなお)准教授に寄稿いただきました。

VR(Virtual Reality)とは、360°全周方向を頭や体の動きに連動して視聴することのできるデバイスを装着して映像を視聴することによって、まるでその場に居るような高い臨場感を味わうことのできる技術です。近年では、家庭用のデバイスなども安価に販売され、身近になりつつあります。本学では、これらの機器を教育で活用するための研究を行うとともに、新型コロナウィルス感染症の感染拡大防止のために学校現場に赴くことのできない学生の指導にも応用しています。

1.VRコンテンツの撮影と編集

  • 360°カメラ

  • HMD(ヘッドマウントディスプレイ)各種

  • 教室内撮影の様子

複数台の360°カメラを利用して授業を撮影します。教室の中心に1台と、教師の胸部にベルトで固定した1台を主に利用しています。ほとんどの360°カメラはスマートフォンやタブレットとBluetooth等で接続し、授業中に離れた場所からリアルタイムで撮影状況を把握し、カメラを操作できるので、児童生徒の集中力を切らすこと無く撮影できます。

2.中学校技術科での実践事例

VRを活用した教育実践として、本学附属中学校において2つの実践を試みました。

①動物飼育に関する技術を学習する授業(技術科B 生物育成の技術の学習)

乳搾りの疑似体験の様子

北海道は酪農の盛んな地域ですが、札幌市のような都市部では牛などの動物に触れる機会が少なく、また学校内で動物を飼育することが困難であることから、VRによる乳搾りの疑似体験を行いました。コンテンツの撮影には恵庭市内の牧場に協力いただきました。VRを活用して教室内では不可能なことを擬似的に体験することにより、学習意欲の向上や動物飼育に対する理解の促進が見られました。

②ノコギリ引きの技術指導場面での活用(技術科A 材料加工の技術)

ノコギリ引きの様子

技術科ではノコギリやはんだ付けなどの細かい技術指導の場面が多くあります。その際に書画カメラなどを利用して指導することもありますが、生徒の側からは他者の目線で視聴することになります。VRを利用すると、技能習得が容易になり安全かつ効率的に学習を進められると考えられます。

3.学生指導での実践事例

VRによる授業参観の様子

新型コロナウィルス感染症の流行から3年目を迎え、この間教員を目指す学生の学びの質をどのように担保するべきか、私達教員養成の立場からはとても悩ましい時期が続いています。特に、学校現場に出向いて児童生徒の活動の様子や教師の動きなどを身近で感じる経験ができなかったことが課題でしたが、VRを活用し教室内での子どもの様子や教師の言葉掛けなどを疑似体験させることで学びの質をある程度担保することができたのではないでしょうか。学生からは、PC画面を通したオンライン授業よりも臨場感が高く、自分が教室内で授業に参観しているような感覚に浸れたというコメントもありました。

4.VR活用の課題と展望

VRは教育の様々な場面で活躍する技術であることは間違いありませんが、いくつか課題もあります。

まず、高価で重たいHMD(ヘッドマウントディスプレイ)を人数分揃える必要があります。スマートフォンでも代替できますが、個人所有の機器を学校に持ち込むというハードルを超えなければなりません。

次に、360°カメラには教室内のあらゆるものが映り込むことから個人情報の流出や肖像権への配慮が必要になります。

さらに、リアルタイムで送信するためには、5G回線などの超高速インターネット環境も必要不可欠です。

しかし、遠隔地と結んだオンライン教育や、教室内では不可能なものを擬似的に体験するなど、従来とは異なる次元の教育が可能となる技術であり、今後の発展が期待されます。

関連情報

【VR】両刃のこぎりの使い方

技術科の授業事例②のノコギリ引き指導で使用したVRコンテンツをYoutubeで公開しています。スマートフォンで視聴するとスマートフォンの動きに連動して360°すべての方向を視聴可能です。PCで視聴の場合はマウスのドラッグ操作で360°すべての方向を視聴可能です。

参考
  • 1.佐藤正直・出口哲久・佐藤敦:動物の飼育を題材としたVRコンテンツの開発と授業実践、日本産業技術教育学会技術教育分科会論文集技術教育の研究、第25巻、pp.55-62(2020)
  • 2.佐藤正直・佐藤敦:VR 動画教材による技能向上に関する試行的実践、日本産業技術教育学会北海道支部研究論文誌、第34号、pp.36-40(2021)

文・画像:北海道教育大学札幌校 准教授 佐藤 正直

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