2017.12.06
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「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画(#04) アグネス×現役教師 3つの対話――これからの社会に求められる教育の在り方は?

アグネス・チャンさんが学校や家庭教育の悩みについて考える本連載が、記念すべき100回を迎えました。奇しくも今年は次期学習指導要領が告示された年。そこで、9月~12月はスペシャル企画として、アグネスさんと現役教師が一対一で身近な教育課題について深く語り合う「3つの対話」と、全員参加の「クロストーク」をお届けします。さて、アグネスさんと先生方は「主体的・対話的な深い学び」を実践できるでしょうか!? 100回記念企画のラスト第4回目は、アグネスさんと沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校校長の安居長敏さん、京都精華大学マンガ学部非常勤講師の横森文さん、埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事の櫻田忍さんによるクロストークです。

「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画 第4回 アグネス×現役教師 3つの対話――これからの社会に求められる教育の在り方は?
アグネス×現役教師3つの対話

アグネス×現役教師「これからの社会に求められる教育の在り方は?」 対話動画

「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画 これからの社会に求められる教育 イラスト

21世紀はグローバル化の時代と言われますが、反グローバル主義を掲げる国のリーダーも現れ、今後の世界情勢は不透明です。格差社会はますます顕著になると予測され、人工知能(AI)社会も、すぐそこに迫っています。そんな中、子ども達の教育を学校だけに任せていてよいのでしょうか? 学校、家庭、地域社会は、もっと連携・協働する必要があるのではないでしょうか? アグネスさんと安居長敏さん(沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校校長)、横森文さん(京都精華大学マンガ学部非常勤講師)、櫻田忍さん(埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事)が、これまでの対話で明らかになった教育の現状と課題を基に、子どもの教育に対する社会全体の役割や責任について討論します。白熱した意見交換は、まさに「主体的・対話的で深い学び」そのもの。スペシャル企画のラストを飾るにふさわしいクロストークをじっくりとお楽しみください。

子どもの「自己肯定感」を高めることは大人の役割

安居長敏(敬称略 以下、安居) 子ども達の教育は学校だけで完結するものではありません。家庭や地域社会も、それぞれの役割を果たし、協働していくことが大切だと思います。例えば私の友人は、一斉講義でも個別指導でもない、一風変わった小・中学生向けの塾を主宰しています。

アグネス・チャン(敬称略 以下、アグネス) どのような教え方をしているのですか?

安居 子ども達は塾で学校の宿題をした後、どこまで自習するかを自分で決め、それをやり終えて帰ります。塾長である友人は、ただ見守っているだけ。それにも関わらず、子ども達の成績は上がり、自分を律する力も身につけていくのだそうです。1つ目の対話にある、子どもの成長に欠かせない「自分との競争」を、この塾は後押ししているようです。

横森文(敬称略 以下、横森) 自分で決めた課題をこなすことで自信がつくのでしょうね。子どもは自信が伴ってくると、驚くほど成長するものですから。2つ目の対話でお話しした京都精華大学マンガ学部の教え子達も、皆で試行錯誤しながら面白い芝居を作るという課題を達成したことが自信となり、3年生になった今ではコミュニケーションに乏しかった1年生の頃が嘘のように、積極的に意見を交わし合えるようになっています。
(写真左から)安居長敏さん(沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校校長)、アグネス・チャンさん、横森文さん(京都精華大学マンガ学部非常勤講師)、櫻田忍さん(埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事)

(写真左から)安居長敏さん(沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校校長)、アグネス・チャンさん、横森文さん(京都精華大学マンガ学部非常勤講師)、櫻田忍さん(埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事)

アグネス 自己肯定感が子どもを成長させる一つのキーワードなのかもしれません。3つ目の対話で櫻田先生が「主体的・対話的で深い学び」の一つの型としてご紹介された「知識構成型ジグソー法」(埼玉県教育委員会が東京大学CoREFと連携して研究と実践に取り組んでいる、児童・生徒主体の学び合いを中心とした学習手法)は、自己肯定感の向上にも有効だと思います。

櫻田忍(敬称略 以下、櫻田) 「知識構成型ジグソー法」を用いた授業では、全員に自ら考え、発言する機会を設けているので、普段は受け身な生徒が発した一言で課題が一気に解決することも少なくありません。それにより、受け身な子には自信が生まれますし、他の子も他者の意見を聞くことの大切さに気づくことができます。

アグネス そんな風に自己肯定感を高めるスイッチを押してあげることこそ、教育の役割だと思います。学校だけでなく、家庭や地域社会の中でも、大人は子ども達が小さな成功体験を積み重ねられるように努めるべきでしょう。

AI時代、生き残れるのはどんな教員?

櫻田 人工知能(AI)社会の到来により、10~20年後には日本に今ある仕事の半分ほどがAIに取って代わられるという予測もあるそうです。そこで気になるのが、学校教員という仕事がどうなるか?

アグネス アメリカの名門大学はオンライン授業を取り入れていますし、最近ではAIを活用した教育ツールも開発されているようですね。

安居 ただ、どれだけICTやAIといった新しい技術を取り入れても、子どもに学ぶ意欲がなければ劇的に学力が上がることはないでしょう。

櫻田 そう思います。大事なのは「知識を受け取る手段」ではなく、「受け取った知識をどう使うか」。子ども達が仲間と一緒に何かを作り出したりするリアルな「場」は必要ではないでしょうか。

横森 確かに。音楽業界を見ても、今や無料で楽曲のダウンロードやストリーミングができるようになり、CDなどの音源ではなくライブで稼ぐ時代。この先は他の分野でも「ナマの活動」の価値が高まっていくのではないかと感じます。

(写真左から)安居長敏さん(沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校校長)、アグネス・チャンさん、横森文さん(京都精華大学マンガ学部非常勤講師)、櫻田忍さん(埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事)

櫻田 それに、先述の自己肯定感を高めることはもちろん、子ども達の心に火をつけ、意欲を持たせることもAIにはできないと思います。

安居 学校教員が人間に残された希少な仕事の一つになるためには、一人ひとりの教員に、より一層の指導スキルが求められると。

アグネス そうなるでしょうね。1つ目の対話で「この先、子ども達は人が真似できないものを何か一つは持つべき」とお話ししましたが、これは教える側にも言えることだと思います。櫻田先生がおっしゃったような人間ならではの指導力はもちろん、教科書では学べない知識、発想力を刺激する授業法など、子ども達が会いに来たいと思えるような特別な何かを身につけることが求められるのではないでしょうか。

これからの時代に求められる、子どもの教育への携わり方

横森 今、「良い大学を出て良い会社に入れば幸せな人生が送れる」という神話は崩れ去ろうとしています。そんな中、改めて大切だと思うのは、「誰かに必要とされ、満足感を得る」という幸せの原点。自分が必要とされていることを実感できる、それぞれの価値観に合った職業なり場所なりへ子ども達を導いていけるような教育を考え、実践することが、大人には求められるのではないでしょうか。

安居 これからは「良い会社」ではなく「幸せな会社」などと言い換えるべきなのかもしれませんね。今は親や教師が育ってきた時代とは違うのだから、「こうあらねば」と過去の成功体験や価値観を子どもに押しつけることはやめた方がよいと感じます。

アグネス そう思います。ただ、受け身では進路の選択はできませんし、他人からも必要とはされませんから、大人は子どもの主体性を養わなくてはいけないでしょう。

横森 それが大切ですね。

櫻田 子ども達の主体性を引き出すためには、1つ目の対話で安居先生がお話しされていたように、大人があれこれ働きかけずに「待つ」ことも必要だと感じます。特に教師は「しっかり教えなければ」と思うあまり、沈黙を恐れがちですから。

安居 子どもと一緒に考え、学ぶというスタンスで教育や子育てに臨むことを心がけたいですね。
(写真左から)安居長敏さん(沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校校長)、アグネス・チャンさん、横森文さん(京都精華大学マンガ学部非常勤講師)、櫻田忍さん(埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事)

アグネス それにしても、今回、皆さんと教育について語り合う中で一番嬉しかったのは、先生方の心に子ども達を思う愛の火が燃えていたこと。人を愛する幸せと、人から愛されたことへの感謝を忘れたら、どんなに成功しても達成感が得られず、寂しく、不幸せな人生を送ることになるでしょう。「愛すること」と「愛されたこと」を子ども達が信じられるよう、教師の心の火を子ども達に伝え、それを子ども達から返してもらい、ずっと燃やし続けることが教育なのだと、改めて感じました。

横森 愛を伝えることもまた、人間にしかできないことですね。

アグネス そう! これは教師だけでなく、すべての大人に言えること。先行きの不透明な時代だからこそ、皆で子ども達一人ひとりの心に火を灯していきましょう。

《参加教師プロフィール》

安居 長敏(やすい ながとし)

学法法人アミークス国際学園「沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校」校長。私立高校で20年間教員を務めた後、コミュニティFMを2局設立し、パソコンサポート事業を起業。再び学校現場に戻り、滋賀学園中学高等学校校長などを経て、2017 年4月より現職。「創造的な思考者・自主的な学習者・挑戦する人」の育成に取り組む。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター、役者、劇作家、大学教員。2012 年4月より京都精華大学マンガ学部にて非常勤講師を務める。2017年現在、同大学同学部のマンガプロデュースコースにて 3 年生の編集実習授業を担当、芝居・戯曲、映画を通してキャラクター作りや演出、物語の作り方を実践的に教えている。

櫻田 忍(さくらだ しのぶ)

埼玉県教育局 県立学校部 高校教育指導課 指導主事。2003 年 4 月より埼玉県立高校に勤務。2012 年より2年間、埼玉県「未来を拓く『学び』推進事業」の研究推進員として協調学習の授業づくりの研究・実践を行う。2014 年より現職。「学びの改革」担当として、教育行政の立場で協調学習を含む「主体的・対話的で深い学び」の推進に取り組んでいる。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

企画・構成:宝子山真紀/文:吉田教子/写真:言美 歩/イラスト:あべゆきえ

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