2017.11.01
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「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画(#03) アグネス×現役教師 3つの対話――「主体的・対話的で深い学び」の真の狙いを知ろう!

アグネス・チャンさんが学校や家庭教育の悩みについて考える本連載が、記念すべき100回を迎えました。奇しくも今年は次期学習指導要領が告示された年。そこで、9月~12月はスペシャル企画として、アグネスさんと現役教師が一対一で身近な教育課題について深く語り合う「3つの対話」と、全員参加の「クロストーク」をお届けします。さて、アグネスさんと先生方は「主体的・対話的な深い学び」を実践できるでしょうか!? 100回記念企画の第3回目は、埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事の櫻田忍さんとの対話です。

「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画 第3回 アグネス×現役教師 3つの対話――「主体的・対話的で深い学び」の真の狙いを知ろう!
アグネス×現役教師3つの対話

第3回アグネス×櫻田忍「主体的・対話的で深い学び」の真の狙いを知ろう! 対話動画

「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画 主体的・対話的で深い学び イラスト

グローバル社会で求められる資質・能力を身につけるために有効とされる「主体的・対話的で深い学び」。「新学習指導要領の目玉だから」と、その指導方法や授業の型だけ取り入れようとする教師も少なくありません。でも、それでよいのでしょうか? 学校現場には「主体的・対話的で深い学び」によって目指すべき人物像や社会の姿を明らかにし、子ども達に示す責任があるのではないでしょうか? 対話3つ目はアグネスさんと櫻田忍さん(埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事)が、「主体的・対話的で深い学び」の意義について考えます。子ども達の未来を熱心に考えるお二人の、熱気あふれる対話をご覧ください。

「まだ答えのない問い」にあふれた社会を生き抜くために

アグネス・チャン(敬称略 以下、アグネス) なぜ今、「主体的・対話的で深い学び」が求められているのでしょう?

櫻田忍(敬称略 以下、櫻田) グローバル化や知識基盤社会の進展、人工知能(AI)社会の到来と、社会が大きく変わっていこうとしているからです。そうした社会では、まだ答えのない問題や未知の課題を自ら見出し、多様な人々と協働しながら解決したり、新しいアイデアを生み出したりできるような資質・能力が必要になります。

アグネス 知識を身につけるだけでは、これからの21世紀を生き抜いていくのは難しい、ということですね。

櫻田 そう思います。しかし、従来のような教師主体の一斉講義型の授業では、子ども達は知識を受け取ることに終始してしまいがちです。そこで、身につけた知識を活用し、これからの時代に必要な資質・能力を育む「主体的・対話的で深い学び」を実現するための、児童・生徒主体の学び合いを中心とした授業が求められているのです。

アグネス そのような子ども主体の授業を、私の息子達は小学校からインターナショナルスクールで受けてきました。調べ学習やグループ学習で自ら学ぶ喜びを体験したことで、わからないことを進んで調べる習慣が彼らは身についたようです。プレゼンテーション能力やコミュニケーション能力、マネジメント能力も養われたと思います。
埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事 櫻田忍さん

埼玉県教育局県立学校部高校教育指導課・指導主事 櫻田忍さん

櫻田 素晴らしいですね! そんな風に子ども達を学ばせたいと、埼玉県教育委員会では東京大学CoREFと連携し、2010年度から子どもの主体的・対話的で深い学びを促す「協調学習」を取り入れた授業づくりの研究・実践に取り組んでいます。

アグネス どんな授業を行っているのですか?

櫻田 子ども同士が対話を通して学び合いながら、知識を組み合わせて課題を解決する「知識構成型ジグソー法」という手法を用いた授業です。子ども達が、答えを出したい問いについて、自分の考えを相手に説明したり、相手の考えを聞いたりすることを通して、一人一人の理解を深めていく授業です。

アグネス 子どもの頃からそのような学び方をしてきていない親世代は、「これで本当に力が身につくの?」と最初は疑問を感じるかもしれません。しかし、子どもは自らの力で実に色々なことを学ぶもの。「主体的・対話的で深い学び」の実現は、子ども達にとって大きなプラスになると思います。

子ども一人ひとりの主体性を引き出す工夫を

アグネス 私自身が学び合いを中心とした授業を初めて体験したのは、カナダのトロント大学に留学した時。その良さに気づいたのは、後にスタンフォード大学教育学部の博士課程に入ってからです。

櫻田 どんな点に良さを感じたのですか?

アグネス グループ学習では人の意見を聞いて学ぶだけでなく、私も発言しなくてはいけません。それで、他の学生がやっていないことを探して必死で勉強し、意見をまとめて発表することを繰り返すうちに理解度が増して、自信もつきました。

櫻田 子ども達が皆、アグネスさんのようにグループ学習に主体的に取り組めるようになれば、言うことはないですね。ただ私の知る限り、そのような子は高校生ではまだまだ少ないというのが現状です。

アグネス・チャンさん

アグネス・チャンさん

アグネス 子ども達の主体性を引き出すためには、どんな働きかけが必要でしょうか。

櫻田 例えば知識構成型ジグソー法には、一人ひとりが役割を分担して学習した後、その成果を持ち寄って話し合うという仕掛けがあります。

アグネス 子ども達全員が自ら考え、発言せざるを得ないような状況を作り出す、と。

櫻田 そうです。その中で、「皆で意見を出し合ううちに理解が深まり、より良い答えが導き出せる」ことも体験できます。

アグネス まさに「主体的・対話的で深い学び」! こうした工夫を広く授業に取り入れていってほしいですね。

教育現場も主体的に取り組む姿勢を!

櫻田 「主体的・対話的で深い学び」によって授業を改善し、大学入試は知識偏重から思考力や表現力を問うものへと変わり、大学はそれぞれの教育理念に沿った学生を選抜する。それが今、進められている教育改革の流れです。

アグネス これは、本当に喜ばしいこと。子ども達は偏差値だけで判断されなくなり、自分の学びたいことに合った大学を選んで、のびのびと未来に羽ばたくことができるようになるのですから。

櫻田 だからこそ、子ども達には「主体的・対話的で深い学び」を通して、進路も含めたあらゆる物事に主体的に取り組み、判断できるようになってもらいたいです。きっと社会に出てからの力強い支えになるはずです。

アグネス さらに、「主体的・対話的で深い学び」が子ども達の自己肯定感の向上につながると良いと思います。自分だけでなく他者も認めることができるのが、本当の自己肯定感。櫻田先生のお話から、互いの意見に耳を傾けるプロセスの中で、それを育み、高めていけると感じました。

櫻田 他者への理解は、多様化が進むグローバル社会では不可欠なものですからね。
アグネス・チャンさん 櫻田忍さん

アグネス そう。そして自分を認めることは、ユニークで自由な発想にもつながります。これからの教育が目指し、社会が求めるのは、民族や宗教、主義・主張の異なる人々と協働しながら新しい発想で社会を動かしていける人。子ども達がそんな人物に成長できるように、教育現場も「主体的・対話的で深い学び」の実現に主体的に取り組んでいってほしいと思います。

《参加教師プロフィール》

櫻田 忍(さくらだ しのぶ)

埼玉県教育局 県立学校部 高校教育指導課 指導主事。2003 年 4 月より埼玉県立高校に勤務。2012 年より2年間、埼玉県「未来を拓く『学び』推進事業」の研究推進員として協調学習の授業づくりの研究・実践を行う。2014 年より現職。「学びの改革」担当として、教育行政の立場で協調学習を含む「主体的・対話的で深い学び」の推進に取り組んでいる。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

企画・構成:宝子山真紀/文:吉田教子/写真:言美 歩/イラスト:あべゆきえ

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