2017.10.04
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「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画(#02) アグネス×現役教師 3つの対話――コミュニケーション能力、どう伸ばす?

「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画(#02)

アグネス・チャンさんが学校や家庭教育の悩みについて考える本連載が、記念すべき100回を迎えました。奇しくも今年は次期学習指導要領が告示された年。そこで、9月~12月はスペシャル企画として、アグネスさんと現役教師が一対一で身近な教育課題について深く語り合う「3つの対話」と、全員参加の「クロストーク」をお届けします。さて、アグネスさんと先生方は「主体的・対話的な深い学び」を実践できるでしょうか!? 100回記念企画の第2回目は、京都精華大学マンガ学部非常勤講師の横森文さんとの対話です。

「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画 第2回 アグネス×現役教師 3つの対話――コミュニケーション能力、どう伸ばす?
アグネス×現役教師3つの対話

第2回アグネス×横森文「コミュニケーション能力、どう伸ばす?」対話動画

「アグネスの教育アドバイス」連載100回記念スペシャル企画 コミュニケーション能力 イラスト

21世紀はグローバル化による多文化共生の時代であり、これからの時代を生きる子ども達には多様な社会グループにおける人間関係形成能力(コミュニケーション能力)が求められます。昨今、若者はコミュニケーション能力が低いと言われますが、実際の所はどうでしょうか? 低いとすれば原因は? 身につける方法は? 対話2つ目は、アグネスさんと横森文さん(京都精華大学マンガ学部非常勤講師)が、これからの時代に求められる「コミュニケーション能力」について考えます。初対面とは思えないお二人の、刺激的でリアルな意見が飛び交います!

対人コミュニケーションが苦手で想像力に乏しい若者達

横森文(敬称略 以下、横森) 私が教える学生は、マンガの編集者や原作者といったマンガ業界を支える人材を目指す若者達です。当然、マンガ好きですから、手塚治虫作品などの名作マンガや、往年の名作映画を取り上げれば、打てば響くように反応が返ってくるはず、と考えていました。ところが、驚くほど反応がない! 作品への知識不足もありますが、とりわけ読み手や観客の想像力に委ねられる作風だと、読みこなす&観るのが苦手なようです。

アグネス・チャン(敬称略 以下、アグネス) 想像力に委ねる作品とは、具体的にどのようなものですか?

横森 例えば、アルフレッド・ヒッチコック監督のサスペンス映画『裏窓』。骨折して歩けない主人公が近所の様子を見ているシーンがあります。その映像だけで近所の人達のそれぞれの人生が察せられ、それがサスペンスにも繋がるのですが、劇中、言葉による説明がないため、学生達は想像ができないようです。特に、最近の学生は「よくわからない」と言います。4年くらい前の学生には好評だったのですが……。

アグネス 人は他者を理解するにも想像力が必要ですから、彼らはコミュニケーション能力もあまり高くないのでしょうか?

京都精華大学マンガ学部非常勤講師 横森文さん

京都精華大学マンガ学部非常勤講師 横森文さん

横森 そうだと思います。マンガは、マンガ家だけでなく編集者や原作者など多くの人々が関わって作り上げていくもの。しかし、想像力に乏しい学生は共同作業が不得手の傾向にあり、自分の意見を言うのも苦手のようです。それでいて、SNSではたくさんの“友達”とつながっている。

アグネス コミュニケーションの手段が多様化し、スマートフォンで簡単に待ち合わせ時間や場所の変更が連絡できてしまう現代では、昔に比べて人との約束や関係が軽いものになっているのではないかと思います。事実、私の息子達は帰省して久しぶりに兄弟3人で顔を合わせても、一緒に撮った写真をLINEで送り合ったりしています。驚いたことに私も先日、ある集まりで気づいたら同じことをしていました(苦笑)。これまでとは違った形のコミュニケーションが生まれている、とも言えるのではないでしょうか。

横森 なるほど、そうかもしれません。

アグネス とは言え、どんなにコミュニケーションの方法が変化しても、対面でのやりとりが必要であることに変わりはないでしょう。コミュニケーション能力や想像力に乏しい若者が増えていることは、とても気がかりです。

小さな頃からの対人経験がものをいう

横森 原因は何でしょうか。私を含め40~50代以上の人達は大方、「相手の物差しを理解しなさい」と周囲の大人から言われて育ち、自分とは異なる他者の意見や立場を慮ることができるようになったと思うのですが。

アグネス 私は息子達を他者の話をよく聞き、自分の意見を言える子に育てたかったので、幼い頃から積極的に大人の会話に参加させ、彼ら自身にも意見を求めるようにしてきました。子どもは意見を聞かれると思うと、他者の話を理解しようと耳をそばだて、自分なりの考えをまとめておこうとするもの。そうした訓練を積み重ねておくことで、相手の意図を汲み取ったり、自分の意見を伝えたりすることができるようになっていくはずです。

横森 やはり、子どもの頃からの経験が大事なのですね。

アグネス・チャンさん

アグネス・チャンさん

アグネス そう。対人コミュニケーションというのは、小さな頃から他者との会話の中で覚えていくものだと思います。コミュニケーション能力に乏しい若者が増えているのは、テレビやゲームなどで親子や子ども同士の会話が少なくなったことも一因ではないか、と考えます。

横森 そんな風に対人経験を積まずに育った若者がSNSでのコミュニケーションにばかり頼っていると、ますます対人スキルが衰えてしまうのでは?

アグネス そう思います。小さな頃からの訓練が効果的ではありますが、大きくなってからでもコミュニケーション能力の育成は可能なはず。学校での働きかけが必要でしょう。

子どもの意見を引き出し、他者への理解を促す工夫を

アグネス 私は大学で授業をする時、発言しない学生にあえて正解のない質問を投げかけています。そこで意見を述べられなければ、「後でもう一度聞くからね」と考えることを促します。

横森 それで学生はどうなります?

アグネス 私が意見にしっかりと耳を傾け、その価値観を受け入れることで、学生は自信を得て自ら意見を言うようになっていきます。

横森 私も学生達に、何か作品を見た時には「自分はどう思ったか。そう思ったのはなぜか」を考えなさい、と言い続けています。すべての人が面白いと思うものなどあり得ませんから、つまらないと思うならつまらないと言っていい。ただ、その理由はきちんと言えるようにしてほしい、と。

アグネス それは、とても大事なこと。先生が自分の意見や一般的な価値観を押しつけると、子どもは自分の感性に自信が持てなくなってしまうかもしれませんから。

横森 さらに、白雪姫やシンデレラなど、皆が知っている有名な話をグループごとに1分間の芝居にまとめ、演じさせるという授業も行っています。皆で協力して短い時間内にストーリーを収め、起承転結をつけ、面白い芝居を作り上げることを目指すのです。

アグネス 良い取り組みですね! でも、簡単ではないのでは?

横森 おっしゃる通り、初回はグループでの話し合いが十分ではなく、ストーリーがおしまいまで展開できないという、惨憺たる結果に終わります。そこで、再び話し合いをさせ、2回目、3回目と繰り返しトライさせる。すると、その過程で学生達にコミュニケーションが生まれ、互いの距離がぐんぐんと縮まっていくのです。それぞれが個性を発揮して意見を言い合い、相手の気持ちや意図を察することも少しずつできるようになって、芝居の内容もより良いものへと変化していきます。

アグネス そんな風に意見を交換するには、揺るぎのない自分を確立することも大切だと思います。自分の価値や役割、目的を認識していない人が発信するメッセージは、散漫で伝わりにくいはずですから。当連載の第1回目「アイデンティティ教育って必要ですか? 」でもお話ししたのですが、子ども達に「あなたは誰?」「なぜここにいるの?」「これからどこへ向かっていくの?」と問いかけ、考えさせてみるとよいでしょう。
アグネス・チャンさん 横森文さん

横森 他者と理解し合うためには、まず自分を知ることから、ということですね。

アグネス そう思います。多様化が進むこれからのグローバル社会で求められるのは、民族や宗教、主義・主張などの異なる人々が互いに認め合い、理解を深められるようなコミュニケーションの在り方でしょう。そのために必要な対人スキルや自己認識力を、家庭や学校での働きかけを通して子ども達に育んでいきたいものです。

《参加教師プロフィール》

横森 文(よこもり あや)

映画ライター、役者、劇作家、大学教員。2012 年4月より京都精華大学マンガ学部にて非常勤講師を務める。2017年現在、同大学同学部のマンガプロデュースコースにて 3 年生の編集実習授業を担当、芝居・戯曲、映画を通してキャラクター作りや演出、物語の作り方を実践的に教えている。

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アグネス・チャン

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

企画・構成:宝子山真紀/文:吉田教子/写真:言美 歩/イラスト:あべゆきえ

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