2026.08.06
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

カナダBC州から届ける、日本語を「つないでいく」ための学び~言語学習で培われる非認知能力について考える~(第6回)

前回は、字幕翻訳をする中で見えてきた言葉のコードスイッチングや、学びの中で考える様子が可視化されたことについて書きました。
今回はそこからさらに、外国語や継承語を学ぶことで培われる非認知能力について考えます。

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師 高井 マクレーン 若菜

外国語学習が広げる仕事と学びの可能性

母語以外の第二、第三、またはそれ以上の言語を操れることのメリットは多々あります。
これだけグローバル化が進み、世界で英語が最も広く使われる共通語となった今、英語が使えることで、職業選択や活躍の場が広がります。
英語とフランス語を公用語としているカナダにでは、フランス語が使えることで生涯年収が上がるという統計もあります(注1)。
実際、政府関連の職業ではフランス語能力も求められることが多く、教員というキャリアにおいてもフランス語が使えればMainstreamと呼ばれる英語での教育だけでなく、French Immersionというフランス語での教育現場で教えることもでき、雇用の幅が広がります。

外国語学習で育つ認知能力と非認知能力

また、外国語を学ぶことで認知能力が発達するという点も、これまでに言われてきています。
認知能力とは、計算力や記憶力、情報処理のスピードといった、比較的数値化しやすいスキルです。新しい語彙の習得や記憶、言語を行き来することによる脳の活性化などは、近年、老化や認知症の予防につながるという研究もあります(注2)。

こういった視点は多言語使用の実用的な利点ですが、外国語を学ぶことには、もっと奥深いところにその意義や長期間にわたるソフト面でのメリットがあるのではないかと思ってきました。

その一つの例として、前回は言葉のコードスイッチングによる思考スキルの発達に注目しました。母語以外の言語を学ぶ際、むしろ注目すべきは、昨今、教育分野で重要視されている、このような非認知能力かもしれません。

非認知スキルとしては、例えば、コミュニケーション能力、レジリエンス、問題解決能力、自制心、やりぬく力、主体性、行動力などが挙げられます。
教育現場では、詰め込み式の授業よりも、このような非認知スキルを培うためのプロジェクト型授業や探究授業が行われるようになりました。
もしも外国語学習にも当てはまるのであれば、幼少期から継承語を学ぶことは、人生において、おつりまでがもらえるような理想的な学びかもしれません。なぜなら、非認知能力は認知能力を高めるとも考えられるからです(注3)。

イベントづくりで培う多角的な視点

日本語学校では英語字幕ができあがると、次に、この作品を地元のカナダの人たちにも観てもらい、日本のことを知ってもらおうと考えました。
また、自分たちがこの作品にどのように関わったのかを伝えるため、コミュニティに向けた短編映画と日本食のイベントを開催する計画を立てました。

実際の作業は大人が担うことが多くありましたが、子どもたちもアイデアを出し合いました。そこには、自分たちがやりたいという気持ちだけでなく、参加する人の立場になって考えることの大切さがありました。

たとえば、なじみがない人にとって少し不思議な食べ物(納豆や梅干しなど)を試食してもらうのはどうかという提案がありました。
それに対し、日本人であり、日本を理解している自分たちにとっては興味深いかもしれないけれど、実際にお客さんとして楽しめるだろうか。集客という点ではよい発想だろうかという疑問が生まれました。そこには、物事を多角的な視点で見る大切さがありました。

これもまた、外国語学習で得ることのできる、かけがえのない収穫です。外国語を学ぶということは、自分の言葉と文化が持っている価値観をいったん脇に置き、異なった言葉と文化を理解する必要があります。

同じ物事にも見え方や考え方がたくさんあると知ることで、思考の転換が求められたり、別の角度から見えた問題を解決したり、そのために話しあったりと学びが広がります。

教わる側から伝える側へ広がる学び

実際にプロジェクトを進める中では、日常の忙しさも相まって、そのことに気づくことができませんでした。

しかし、継承語を学ぶ子どもたちが教わる側から伝える側に回り、実社会に向けて翻訳を作り、地元カナダのコミュニティに向けてイベントを開催するという一連の取り組みには、葉脈のようにつながる学びがありました。

その中で、好奇心ややる気、主体的に動く力もも一緒に大きく育つことで、教える側と学ぶ側の双方にとって「楽しい」が続いたのだと思うのです。

高井 マクレーン 若菜(たかい まくれーん わかな)

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師


群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務めた後、カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州へ移住。現在はBC州の公立学校で教えながら、継承語学校でも日本語日本文化を教えている。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

この記事に関連するおススメ記事

i
pagetop