「なぜ戦争はなくならないの?」子どもに聞かれたら、どう答えますか

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。8月は、終戦記念日のある月です。戦争のニュースが流れるたびに、子どもから「なぜ戦争はなくならないの?」と聞かれて、答えに困ったことはありませんか。今回は戦争が起きる理由と、子どもへの伝え方について考えます。
なぜ戦争はなくならないのでしょうか
戦争がなぜ起きるのか。私から見れば、理由はいくつもあると思います。
一つは、資源が足りなくなるという危機感です。たとえば、100人しか受け入れない学校に希望者が150人も集まったら、限られた枠をめぐって競争が起きます。逆に、全員が入れるのなら、みんなニコニコして入学できます。
パイが100個しかないのに、実際には300人いたら、みんな自分や家族のために争います。そういう「足りない」という考え方が生まれると、どうしても争いが起きてしまい、大きな形になると戦争になるのです。
二つ目は、差別や固定観念です。遊びに来るだけの人とは仲良くできても、その人たちが住み着いて、自分の立場や持っているものが侵されると感じると、そこから差別が始まり、戦争の原因になることがあります。
そして、「私が一番偉い」「支配したい」という欲もあります。これは資源が足りないことや差別よりも、もっと愚かな行動だと私は思うのですが、残念ながらなくなりません。
多くの戦争は、違いを認めないことからも始まっています。人種が違う、宗教が違う、経済的な違い、性別の違い。相手を理解しようとせず、「同じになってくれなければ」と求めてしまうのです。
でも、人間が同じになるわけがないのです。同じお腹から生まれた兄弟でも、大人になれば意見は違います。同じ国で、同じ時代に、同じ教育を受けて、同じようなものを食べて育っても、みんな違うのです。
同じ人間は、存在しないようにできているのです。その違いこそが世界を面白くし、人間が進歩していく基本になるのだと、私は考えています。
「自分と違うから怖い」という気持ちもあるでしょう。その怖さを無くすのが、教育や経験です。南アフリカで人種差別の撤廃と和解に尽力した、ネルソン・マンデラ元大統領も、人は生まれつき他人を憎むのではなく、憎むことを学ぶのだと言っています。だからこそ、違いを知り、相手を理解しようとすることが平和につながるのです。
子どもに聞かれたら、こう答えます

では、小さな子に「なぜ戦争はなくならないの?」と聞かれたら、どう答えればいいのでしょうか。
「自分の思い通りにならなかった人が、人に手を出すからよ」「自分と違う人たちを嫌うからです。それはやめようね」
難しい言葉を使わなくてもよいと思います。人のものを奪いたい人がけんかをする。隣の子のご飯を取ってはいけないよね。肌の色が違っても、お友達になれるよね。そんなふうに、子どもの身近なことに置き換えて話します。
「じゃあ、戦争をしている人たちを誰も叱らないの?」「どうして誰も止めないの?」と聞かれたら、こう答えます。
「止めようとしている人はたくさんいるよ。でも、権力と武器を持ってる人が戦いをやめない限り、簡単には止められないんだよ」と、現実も伝えなければならないと思います。
もし、けんかになって手が出てしまったとしても、けんかのあとは仲直りです。好きであろうと嫌いであろうと、お互いに手を出してしまったら、仲直りするしかありません。
そして、「今度は手を出すのをやめようね」と、お互いに誓います。
意見が違うことは、全く構いません。意見がみんな同じになることはないからです。
ただし、悪い言葉を使ってはいけません。悪い言葉は、殴ることと同じです。悪い言葉を使わないで、きちんと議論することを伝えます。
子どもと一緒にテレビを見ていて、人に向かってひどい言葉を投げつけたり、特定の人たちを悪く言ったりする大人がいたら、子どもはどう思うでしょう。
「この人の言うことを、そのまま信じてはいけないよ。これはマナー違反だよ」「相手も、ちゃんとした一人の人間なんだよ」
そうしたことは、必ずその場で伝えなければいけません。
平和を選ぶ勇気を、次の世代へ
これまで戦時中や戦後のたくさんの国を訪ねましたが、戦争に実は勝者はいないのです。そして、いつも最も苦しむのは、何の罪もなく、自分では何も選んでいない子どもたちです。
戦争を始めるとき、指導者は仮想敵を作ります。「相手は汚い」「嘘つきだ」「人間以下だ」と決めつけることで、殺すことを正当化し、人々をあおります。だからこそ、あおられないことが大切です。
その土台の一つになるのが、自己肯定感です。自己肯定感が高い人は、他人をそれほど羨ましがらず、攻撃的になりにくいです。自分が進歩していれば、それで満足できます。
反対に、自分の価値をお金や物、権力で測ろうとすると、それをいつまでも追い求めることになります。重要なのは、自分を大切にし、他人も大切にすることです。そして、自分の人生に納得することです。
8月は、日本にとって特別な月です。当時の日本には、自分たちが攻撃しなければ植民地にされてしまうかもしれないという恐怖もあったのだと思います。でも結果として、多くの国民を巻き込み、外国でたくさんの人を傷つけて、国全体が大きな代償を払うことになりました。
そのうえで「平和を誓う」という、本当に勇気ある決断をしたのです。軍隊を強くすることや武器を作ることではなく、まったく違う分野へ一生懸命に力を注いだのです。だからこそ戦後あれほど経済的に成功し、教育も世界一と言われるほどになりました。国民のために、考え方を切り替えたのです。
私はそれが進むべき道だと思います。そこからそれれば、また次の世代が苦しむことになります。

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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