2026.09.16
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カナダBC州から届ける、日本語を「つないでいく」ための学び~「Ambiguous Loss (曖昧な喪失)」と言語学習~((第8回))

子どもたちに日本語を継承語として伝えたい、その思いの根本にあるのは何でしょうか。
継承語は子どもが自ら選んで学ぶ言語ではない、と私はこの連載の初回で伝えました。
そしてそれは保護者のエゴによるものだとさえ書きました。

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師 高井 マクレーン 若菜

字幕づくりで見えてきた、言葉とアイデンティティ

英語字幕を作成するにあたって、日本語学校の子どもたちは字幕をつけることはただ言語をもとの日本語から英語へと入れ替えるだけではないとを感じました。言語は文化、価値観、そしてアイデンティティと切り離せません。

1970年代にPauline Boss博士が提唱したAmbiguous Loss(曖昧な喪失)(注1)という言葉があります。明確な「別れ」がない喪失感もまた生活に大きな支障をきたします。
生まれ育った母国ではなく、新しい土地で暮らす移民たちの生活における「喪失感」は、日本での慣れ親しんだ文化、言葉、家族、コミュニティ、キャリアといったその人にとってのアイデンティティの基盤を失った「曖昧な喪失」に値すると言われています。

表面的にはコミュニケーションがとれるため、周囲にはわからないものの、ユーモアやニュアンスが伝わらないもどかしさ、人間関係における、言葉では表せない間や距離感といったコミュニケーション、真の文化の違いについては、私自身が移民となって悔しさと恐怖を存分に味わってきましたし、今もそれは続いています。

「目に見える文化」だけでは伝わらないもの

継承語をつないでいくことにおいて、このような言語の背景にある文化などの理解は、目にわかりやすい「折り紙の工作」や季節の行事で「お月見をするために団子を作る」ことではありません。

そういった目に見える文化は、目に見えない文化をもとに成り立っていることに変わりはありませんが、どうしても継承語・継承文化学校では、日本語での表面的な会話や、日本の伝統文化を伝えていくことに焦点を置きがちです。

「いただきます」「さようなら」に宿る文化

むしろ、それは考えた末に「いただきます」に見合う英語がないのではないかと思案すること。フランス語のBon appetitではないし、英語のEnjoy your foodともニュアンスが違います。

もとをたどればItadakimasuは仏教用語に行き着き、命をいただくこと、作ってくれた人に感謝の意を表すこと。そして「いただきます」は多くの場合、手を合わせるジェスチャーとともに行われます。
手の中にはもう一つの心が宿ると言われている掌と掌を合わせるのが合掌という動作です。(注2)

あるいは、日本語の「さようなら」は英語のGood Byeとは違うと考えること。さようならは、そもそも日本語の接続詞である「さ、であるならば」に由来すると言われ、一つのことが終わったことに別れを告げ、次のことに移っていく日本人の心が表れています。
物事を連続にとらえながらも、一つ一つに区切りをつけ別れを告げながら進んでいく日本の文化の象徴です。(注3)

言葉の背景を知ることが、担い手を育てる

このように言葉の根底にある文化を理解することは、言葉の使い手のアイデンティティを築くことにつながっていきます。そしてはじめて言葉を深いところで理解できるのだと思います。実用的にたとえると、基礎文法が固まっている人の応用構文がとてもきれいに積み重なるように、このような言葉の背景の深さを知った担い手は、やはりどこまでもその言葉の真の担い手になれるのではないでしょうか。

そんな風に継承語を伝えている人は少ないかもしれません。逆に言うと、継承語でなくとも、外国語として学ぶときにもこのようなアプローチをとることで、その言葉を内在化させることができるのではないでしょうか。

英語字幕を進めながら、言葉を学ぶことについて、そんな部分にも子どもたちがいつか気づくことができたならと思ったのです。


注2) 川端康成は数十年に渡って『掌の小説』を書き続けた。その名の通り掌に収まるくらい短い作品だが、本人が「てのひら」ではなく「たなごころ」と読むとしている記録がある。

注3) 竹内整一『日本人はなぜ「さようなら」と別れるのか』には日本人の価値観、世界の捉え方、他者との関係性などが集約されているとある。

高井 マクレーン 若菜(たかい まくれーん わかな)

カナダBC州公立学校教諭、日本語継承語学校教師


群馬県出身。関西圏の大学で日本語および英語の非常勤講師を務めた後、カナダ国ブリティッシュ・コロンビア州へ移住。現在はBC州の公立学校で教えながら、継承語学校でも日本語日本文化を教えている。

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